•  スポーツ報知のWebサイト限定コラムがスタートしました。最前線で取材する記者が、紙面では書き切れなかった裏話や、今話題となっている旬な出来事を深く掘り下げてお届けします。皆さんを「ほーっ!」とうならせるようなコラムを目指して日々配信しますので、どうぞお楽しみください。

「点取ったばい」21世紀枠・伊万里の奮闘にOB記者が胸を打たれた

2018年4月2日12時0分  スポーツ報知
  • 大阪桐蔭に敗れ整列する伊万里ナイン

 一生起きないと思っていた母校の選抜高校野球大会出場が決まり、3月26日、甲子園球場に応援にかけつけた。母校は21世紀枠として選ばれた伊万里(佐賀)。相手は連覇を目指す大阪桐蔭。対戦が決まった時に「10点台で抑えることができるやろか」「完全試合になってしまわやんだろうか」高校の同級生、先輩との電話や、メールは記録的大敗を心配するものばかりだった。前日、お好み焼きを食べながら、決起集会を行った。「何とかして、1点ば、取るばい」と、気勢を上げたが、参加したOBはだれも自信はなかった。

 三塁側アルプススタンドは、伊万里カラーのエンジの帽子、タオル、メガホンを持った生徒、OBらでぎっしり埋まった。大阪桐蔭登場ということで、球場は満員。1回表、伊万里の1番、犬塚が三振。140キロ台を連発する柿木投手に、私の周りは「速かねえ」「ありゃ、打てんばい」という声が上がった。

 パーフェクト、ノーヒットノーラン…、不安がよぎる。しかし、2番・河村がそれを吹き飛ばしてくれた。投手強襲安打。「やったー」応援席は大騒ぎ。「こいで一安心たい」安堵(あんど)の空気がアルプスを包んだ。

 だが、もうひとつの不安が、その裏、襲ってきた。いきなり二塁打、安打、あっという間に1点。変化球投手と聞いていたが、伊万里の先発、山口修のスピードは120キロに届かない。近くで観戦していた先輩が「秋に肩を壊したらしい。本当はもう少し速い」と話す。2死を取ったが、そこから4連打、一挙5点。「PLば、超えるちゃなかと」。85年夏の甲子園で、PL学園がマークした1試合最多得点の29点が、みんなの脳裏に浮かんだ。

 2回も3点取られた。3回、先頭に二塁打を打たれながらも、後続を抑えた。初のゼロ。4回、また4点。しかし、7回までで14点。もう大丈夫と思ったら、攻撃はあと2回しかない。8回は、伊万里にとって記念すべきイニングになった。1死から四球。7番・末吉の打球はわれわれの目の前を、ぐんぐん伸びていく。「まさか、入るの」左翼フェンス直撃。一塁走者は走る、走る。「1点」。「点取ったばい」立ち上がって、ハイタッチの嵐だ。伊万里の応援席は最高潮に達した。取れると思っていなかった点を取れた。

 最終回も、後輩たちは戦う気持ちを切らしていなかった。先頭の犬塚が三塁打。代打の前川が見事な左中間二塁打、見事な2点目だ。その後も攻め立て、無死満塁。「もう2、3点取れるっちゃなか」みんな総立ち。しかし、そう甘くはない。3者連続三振で、ゲームセット。2―14。アルプス席にあいさつに来る伊万里ナインに、「よう頑張った」「よかった」大きな拍手がわき上がる。私の同級生は泣いていた。私も胸が熱くなった。

 「甲子園に連れてきてくれて、ありがとう」

 私の1年後輩のエースで、早大では東京六大学のマウンドにも立った弘川貴紀・伊万里市議は「山口投手は20安打も打たれながら四球がゼロだった。私の経験からすると、あれだけ打たれると、四球が3、4個出てしまってもおかしくなかった。打たれても、打たれても立ち向かう姿勢は素晴らしかった」と話した。私も試合終盤の頑張りと、試合後の山口投手の悔し涙を見て、最初で最後の甲子園という思いはなくなり、次は夏の甲子園出場の期待が大きく膨らんだ。

 出場が決まった時にもコラムを書いた。それを目にした同級生、面識のない先輩などからSNSなどを通して、連絡があり、反響にびっくりした。卒業して40年。数十年ぶりの声も聞いた。懐かしく、うれしい思いもあったが、大病で入院している友人もひとりではなかった。昨年亡くなった友人のことも聞いた。だから、甲子園に行きたくても、テレビ観戦するしかなかった卒業生も少なくなかっただろう。

 「よか試合やった。久しぶりに校歌も聞けた。よかった」と病床の友人は電話で話した。伊万里市民図書館のパブリックビューイングには、200人が集まった。伊万里市街は人通りが消えたそうだ。応援に来た人たちは口々に「いい試合だった」と満足そうな表情だった。大差の試合だったが、選手たちの最後まであきらめない姿勢に胸を打たれたのではないだろうか。

 そういう中、気がかりな話を聞いた。伊万里高校は、われわれが在学していた当時は1クラス45人の7クラスで、1学年315人。現在は、1クラス40人の5クラスの200人。さらに定員割れで、40人4クラスの計160人になる可能性があるという。少子化に加え、中高一貫教育の県内の高校に流出しているのが影響しているという。

 「甲子園に出たことで、その流れが変われば」と願う関係者は多い。こういう悩みは全国にも広がっているだろう。母校が甲子園に出場しても、喜んでばかりはいられない現実を知った。(記者コラム・久浦 真一)

  • 楽天SocialNewsに投稿!
コラム
今日のスポーツ報知(東京版)