NPB斉藤惇コミッショナーの振興論、プロ稼ぎアマに還元 「球界を元気に」

スポーツ報知
抱負を語ったNPB斉藤惇コミッショナー

 昨年11月に就任した日本野球機構(NPB)の斉藤惇コミッショナー(78)がスポーツ報知のインタビューに応じ、インタビュー抱負を語った。順調な観客動員の一方で、競技人口の減少や国際化、コンプライアンス問題など課題も多い。ビジネス界出身の新コミッショナーが掲げた球界振興のキーワードは「元気」だ。(取材、構成・星野 和明、後藤 亮太)

 就任から1か月あまり。斉藤新コミッショナーはNPB職員をはじめ関係者からレクチャーを受けるなど、まずは球界の現状把握に努めている。昨年は公式戦の観客動員が初めて2500万人を突破。“頂点”のプロ野球は安泰に見えるが、それを支える“底辺”に改めて危機感を抱いたという。

 「ある程度想像はしていたが、野球人口が減少している。どうやって活性化するか。国民的スポーツとして小中学校から高校・社会人、プロまでひとつのグループで機能しなくてはいけない。バラバラでは難しい」

 小・中学生の野球離れが進む中、NPBでは近年、野球振興を事業計画の柱に据えてきた。新コミッショナーとして、アマとの連係をさらに強化しつつ、底辺の拡充に努める方針だ。

 「私は知らなかったけど、30年以上にわたって小学校教育の中に野球を位置付けられなかった(※1)。問題はそこで教わらなかった人が大人になり、小学校の先生になっていること。(NPBで)先生が野球を教えるための本を作っているが、そこにはゴロの捕り方なども書いてある。どうして(小学校教育から)切られたのかは分かりませんが、今後もずっと続けて行くことが必要」

 かけ声ばかりでは振興策は実らない。旗を振り続けるには資金も必要。財界出身の新コミッショナー(※2)には、そのキャリアを生かしたビジネス面での手腕発揮も期待される。

「NPB、プロ野球がそんなに豊かではないことには驚いた。(選手の)契約金が何億円とか聞くので、もっと豊かなのかと思っていた。ただ、NPBは社団法人なので利益を出すことを目的にしていないが、資金を正当に分配していく機能は必要。小中学生が野球をすることが親の負担にならないような、道具くらいは買わないといけないが、施設を借りるのに負担がかかるとか、そういうことに取り組まなければ。アマチュア団体と話し合って、お互いにどこかで資金をプールして配分するような制度が必要だろう。そのためにプロは収益を上げた方がいい。どうやって上げたらいいのか勉強している。おそらくそう簡単ではないだろうが」

 ビジネス面の活性化へ、12球団それぞれの努力も求める。球団は親会社の宣伝媒体だから赤字でいいという旧来の常識には疑念を抱く。コンプライアンスの観点から利益至上主義には警鐘を鳴らすものの、利益を求める姿勢が球界に熱気や元気をもたらすとの考えだ。

 「(産業再生機構で)ダイエーを再生した時には野球が(赤字で)本業を食っていた。だから野球を切り離して再生をした。親会社の宣伝というより、事業としてある程度の収益が出るように一緒に考えないといけない。どうしたらみんなが報われる野球という仕事になるか。(日本シリーズで)ヤフオクドームに行って感心したのがスポンサーの広告。強いチームには事業者もたくさん(資金を)出す。派手すぎるとかの意見があるのは承知だが、そういうことはひとつの元気。観念的にいいとか悪いとか決めると、統制は取れているけど死んでしまったような社会になる。もう少し人間の喜びとかを活用していくのが本当に生きた経済。元気のある日本を実現したい。もちろんルールは大事だし、不正があってはいけないが、沈んでしまってはいけない。江戸時代、元禄において歌舞伎などの文化が栄えたが、(享保の改革を行った)吉宗の時代は規律規律で引き締めた。結果、秩序はいいけど暗い、不況の治世。やっぱり人間というのはある程度喜びを爆発させるようなことがあってもいい」

 共通の友人がいる米大リーグ機構のマンフレッド・コミッショナーとの早期会談を希望するなど、国際化の推進も大きな課題としているが、ポスティングやFAによる有力選手の流出で、日本球界の空洞化を危惧する声もある。

 「日本の選手が日本でやりたいなと思うにはどうしたらいいのか。もちろん強い相手と戦いたいというのは健全な考え。同時に金銭的なこともあるかもしれない。他にも日本はやりにくくて米国がやりやすい部分があるのか分からないが、いろいろな人に話を聞いてみたい。ただ(日本人メジャーリーガーが)五輪など世界の戦いに出てこないとさみしい。少なくとも日本代表になれるように、そこは考えないといけない」

 2月のキャンプでは各球団の視察を計画している。熊崎前コミッショナーが解決と再発防止に奔走した野球とばく事件やアンチドーピングなど、選手個々の自覚・自制に訴えるべき問題も多いが、ユニホームを着た選手の前では、まず「元気」を求めて激励の声をかけたいという。

 「東京とキャンプ地を3往復するような日程ですけど、楽しみにしています。選手にはとにかく楽しく、元気にやってほしい。やっぱり明るさが日本には足りない。あまり理屈を考えず、素直にうれしいものはうれしい、悔しいことは悔しがる。それで常に上を向きながらやる。人生もそう。負けてもいいということを正論のごとく語る人もいるが、私は反対。常に上を向いてベストを尽くすことが大事。プロ野球も必死にやってほしい」

 

※1 文部科学省(旧文部省)が告示する小学校の学習指導要領では、1977年に野球が削除され、体育の授業では扱われなくなり(98年から選択科目)、2011年にベースボール型授業が再び必修科目となった。

 ※2 財界出身のコミッショナーは、富士銀行頭取を務めた第6代(1976~79年)の金子鋭氏以来で、その間は官僚、法曹関係者が続いていた。

 ◆斉藤 惇(さいとう・あつし)1939年10月18日、熊本県生まれ。78歳。慶大商学部卒業後、63年に野村証券に入社。同社副社長、産業再生機構社長、東京証券取引所グループ社長、日本取引所グループCEO、KKR(コールバーグ・クラビス・ロバーツ)ジャパン会長などを歴任。座右の銘は「至誠天に通ず」(中国の儒学者・孟子の言葉)。趣味は家庭菜園。

野球

×