昨季ルーキーで8勝 オリックス・山岡泰輔の原点は「楽しむこと」
2月1日に一斉にキャンプインを迎えるプロ野球で、オリックス・山岡泰輔投手(22)が飛躍の2年目を迎えようとしている。昨季はルーキーながら開幕から先発ローテに定着し、24試合で8勝(11敗)を挙げて新人王争いにも絡む活躍を見せた。オフには約3倍増の年俸4300万円で契約を更改し、昨年末には今春の結婚も発表するなど、公私ともに充実している右腕の原点は「楽しむこと」。大好きだというファッションへのこだわりや、今季に向けての意気込みを聞いた。
インタビューの約30分前、練習着姿の山岡に呼び出された。「どんな服がいいですか?」。表情は真剣そのもので、相当悩んでいる様子だった。「やんちゃと思われていたとして、服もやんちゃ系だとギャップがないし…。とはいえシンプルだと無難な感じですよね」。チームでも屈指のオシャレ番長。最後は「こうやって考えるの好きなんだよね~」と、ちゃめっ気たっぷりに寮の自室に帰っていった。
悩み抜いた末、選んだのは白をベースにしたブロック柄のジャケット。自室のクローゼットは服でいっぱいというほど、ファッションへのこだわりは強い。
「よく買うのは『ISSEY MIYAKE(イッセイミヤケ)』です。(山岡と同じ)広島県出身の三宅一生さんのブランドなんですけど、パリコレとかにも出ているんです。どのジャンルを着ても、いけるな、というのをたくさん増やしたいですね」
参考にするのは一般人から芸能人まで多岐にわたる。
「モデルとなる人はいっぱいいますよ。インスタをやっているオシャレな人から探すのが一番分かりやすい。似たようなのを買いに行ったりもしますね。あと髪形とか全部含めて(俳優の)市原隼人さんはかっこいいです」
スリムな体形で私生活では「野球選手に見られたくない」と話す右腕だが、それでもやはり野球の話になると表情がぐっと引き締まる。
「昨季は良い課題が見つかったと思います。それがアマチュアで思っていた課題と、違うことも分かりました。そういう意味で、納得のいく年というのはないと思うんですよね」
ルーキーイヤーから1年間先発ローテを守り8勝を挙げたが、本人にとっては通過点でしかない。
「社会人出身で即戦力って言われている限りは、1年目から結果を残せるようなピッチングを期待されていると思います。1年間投げるのは当たり前、そう思ってプロに入ってきましたから。当然の結果? そうですね。けがさえなければ、やらないといけないというのはあります。やるべきことをやった結果が去年の結果だったって感じですね」
もちろん今季に向けての自信にもつながっている。
「プロがどういう打者で、どんなタイプがいるというのは分かりました。だから一年一年で対策していって、けがさえなければいけるんじゃないかと。自分が成長さえすれば、いけるのではないかと思っています」
今オフは体力強化をテーマに練習に取り組んでいる。より高いレベルで1年間戦い抜ける体をつくり上げる。
「1年間やってみて、やはり後半はしんどい部分も多かったです。1年間投げ切れる体力と、あとは絶対けがをしないというのは、野球をやっている限りずっと必要だと思いますね」
見た目は今時の22歳だが、栄養学に取り組むなど勉強熱心な一面もある。プロテインは(栄養価が高いとされる)牧草牛のものを愛用し、食事もシーズン中は揚げ物を一切口にせず、登板間隔に合わせたメニューを自身で考えて取る。
「大事にしているのはバランスですね。胃もたれするものは早めに食べます。自分が投げられる体をずっと維持したいですからね。ケアするのも、自分の体を知ることができるのも、楽しいです」
インタビュー中に何度も口にしたのが、この「楽しい」という言葉。野球を始めたのも「楽しかった」からだ。
「サッカーとかバドミントンとか、水泳も人並みにはできましたけど、その中でも野球が飛び抜けてできました。一番楽しかったというのもあります。何をするにしても、楽しいかが一番の基準ですね」
実力がありながら、意外にもプロ野球選手になりたいという夢を抱くようになったのは遅かった。明確な目標となったきっかけも「楽しさ」だった。
「楽しくてソフトボールに入っていただけなんで、プロを目指して野球を始めたわけではありません。変化があったのは高校ぐらい。強い打者と対戦するのが楽しくなって『もっと強い打者と』と思い始めた時、一番すごい打者がいるのがプロ野球でした。良い打者ってどんな打者だろう、対戦したら楽しいだろうなっていうところからですね」
そんな山岡を一躍有名にしたのが瀬戸内高3年だった2013年夏の広島県大会決勝。田口(巨人)擁する新庄と延長15回引き分け再試合となる熱戦を繰り広げ、甲子園切符を手にした。山岡は2試合で合計293球を投げ、投手戦の主役を演じた。灼(しゃく)熱のマウンド、どんなに緊迫した場面でも、心の中には「ただひたすら楽しい」「もっと投げていたい」という思いがあったという。高校卒業後は社会人の道を選択。日本代表に選ばれるなど社会人NO1投手の座をほしいままにしたが、ここでも次のステップへ導いたのは、変わらぬ思いだった。
「いろんなところから社会人に入るだけの人が集まっているので、ジャパンに行っても野球の価値観が違っていたりとか、そこを聞けたっていうのは大きかったですね。でも3年目の時にDeNAとの練習試合でボコボコに打たれて(3回5失点)、1軍の選手は違うなって。こういう打者と毎週毎週対戦できるのは楽しいだろうと思って、プロに行きたい気持ちが強くなりました。今もすごい打者と対戦できるときは燃えるんですよね」
性格は相当な負けず嫌いかと思いきや…。
「普段はあんまり怒らないですね。例えば2、3時間待たされても怒りません。ストレスフリーなんですよ、基本。その時その時を楽しんでいるんで、人生で後悔をしたこともありません」
昨年12月末には同い年の一般女性との結婚を発表した。中学生の頃から交際していた相手とのゴールイン。投球に負けないぐらい、恋愛観も真っすぐだ。
「好きな人と24時間一緒にいられるんだったら、絶対楽しいしデメリットはないと思うんです。独りが嫌なんで、それが減って好きな人といられるなら、なおさら良くないですか?」
守るべき存在ができ、2年目に向けての意気込みは十分。昨年11月に行われた「アジアプロ野球チャンピオンシップ」の日本代表は右肩痛で辞退したが、東京五輪世代として日の丸に懸ける思いは誰にも負けていない。
「今年は去年より良い成績で終わりたいなっていうのはありますし、2ケタいきたいなっていう気持ちもあります。東京五輪も出たいですね。日本代表はかっこいいです」
「楽しさにはリスクもある」とも話すが、それでも心躍る方へずっと走り続けてきた結果、今の場所にたどり着いた。もっともっと楽しく。そんな姿は、永遠の野球少年のようだ。自身のモットーを貫き、今季もマウンドでキラキラした表情を見せてほしい。(ペン・筒井 琴美)
◆山岡 泰輔(やまおか・たいすけ)1995年9月22日、広島市生まれ。22歳。小学校2年で中野東ソフトボールクラブに入部し、瀬野川中では軟式野球部で県大会に出場。瀬戸内高では1年夏からベンチ入りし、3年夏に甲子園出場。東京ガスを経て、2016年ドラフト1位でオリックス入り。172センチ、68キロ。右投左打。年俸4300万円。家族は両親と妹で、中学時代の同級生と今春結婚予定。