【侍ジャパン】稲葉監督の盾となり頭脳となる…伊東勤強化本部副本部長インタビュー

スポーツ報知
これまでユニホームを着て戦ってきた伊東氏。侍ジャパンでは強化副本部長として稲葉監督を支える(カメラ・佐々木 清勝)

 昨年10月、2020年東京五輪を見据えて侍ジャパンに設置された強化本部の副本部長に、前ロッテ監督の伊東勤氏(55)が就任した。西武黄金時代の捕手で、指揮官としてもチームを日本一に導いた経験を持つ“レオの頭脳”が、チーム編成や戦術・戦略面で稲葉ジャパンを支える。2月のキャンプインを目前に控え、スポーツ報知は伊東氏にインタビュー。メダル獲得に向けた意気込みや構想などを聞いた。(聞き手、構成=広瀬 雄一郎、田島 正登)

 昨夏、ロッテ監督の退任を表明した直後だった。伊東氏は公式戦前のZOZO監督室で、強化本部の幹部から訪問を受けた。まだペナントレース中ながら、副本部長就任の要請だった。

 「(東京五輪は)自国開催。メダルを大方の人が期待している、メダルを取れるようなチームを一緒につくっていきませんか、というような話をいただきました。早い時期だったけど、断る理由はなかった。(侍ジャパンを)何とかしようという熱意を感じました」

 昨年のWBCが準決勝敗退で終わり、侍初の試みとなる編成権を持った強化本部が設置された。これまでは代表監督が采配面だけでなくチーム編成においても自ら動き、事実上チームの全責任を負ってきた。そのため“フロントの不在”が批判を浴びることもあった。強化本部設置は指揮官の負担を軽くし、責任の明確化を図った体制強化への大きな一歩。そして、そのチーム編成を担うゼネラルマネジャー(GM)的な要職に伊東氏が就いた。

 「ずっと現場でユニホームを着てきたので、GM的な仕事は全く分からない世界。でも最初が肝心。できるだけ現場の負担が軽くなれば。いきなり成功するとも思っていないのでね。失敗して当たり前。自分が(稲葉監督の)盾になるというような、そういう立場だと思います」

 豊富な監督経験から、フロントがチーム力を大きく左右することは身に染みている。だからこそ、初めて体験する役割にも覚悟を持っている。五輪代表はプロだけでなく、アマチュアも対象という。それだけに守備範囲は膨大だ。

 「要は現場の要望に応えられる選手、コーチを集めるということ。今まではお願いするばかりだったでしょ。それが各球団に行って頭を下げなきゃいけない立場になった。アマの人たちもスペースはある。(都市対抗や甲子園も)見る機会は当然多くなると思います」

 求められるものはチーム編成だけではない。日本一監督としての頭脳で、12球団での指揮経験がない稲葉監督を支えることだ。すでに、それは“伊東リポート”として現場に還元されている。稲葉監督の初采配となった昨年11月のアジアプロ野球チャンピオンシップ(CS)から始まっていた。

 「自分なりのゲーム後の寸評をまとめて渡してあるんですよ。気付いたことですよね。選手起用であったり、ポジショニングであったり、作戦面であったり。コーチ陣からも『どうでしたか』って聞かれたので、自分の分かる範囲のアドバイスはしました」

 伊東氏は「結果論だから勝てばいい」と前置きした上で、稲葉監督のやりたい野球を積極的にサポートする。ただ、背広組として現場と一線を画す考えがある。それも現場の指揮官としての経験があるからだ。

 「一歩引いてね。まず相手の考えを聞きながら、もちろんそれもありだね、そういう考えもあるよねって感じ。(監督は)稲葉野球を掲げていきたいと思う。そこに自分が今まで経験したことが少しでも注入されれば」

 第2回WBC総合コーチとして原辰徳監督(前巨人監督)を支え、世界一となった経験もあるが、五輪は別ものだという。

 「WBCとオリンピックは違うと思う。(WBCは)一つの興行みたいなところもあった。今回のは自国開催で注目度が変わってくるし、すごい重圧かかってくると思う。(五輪は)見るもんだからね。中途半端な成績に終わってしまったら野球の死活問題というか、しばらくは言われる可能性あるよね。日本で開催される大会なんで。選手たちはすごくやりづらいと思います」

 五輪を見据えたチーム編成はどうなるのか。投手では沢村賞右腕の巨人・菅野はWBCでも存在感を示し、誰もがエースと認めるところ。それは伊東氏も同じだ。その上で菅野に続く投手の出現を求めた。

 「菅野は五輪のとき31歳。主力として頑張ってもらわなきゃいけないですし、その後に続く投手が今年、来年で出てきてほしいのもありますね。大谷もメジャーで向こうの契約などの問題があるだろうから」

 すでに1次メンバー入りした千賀(ソフトバンク)や薮田(広島)、左腕では今永(DeNA)らが順調に成長すれば、その期待に応えることができるだろう。

 野手の選出にもハードルがある。五輪の登録メンバーは24人とみられ、1人も無駄にできない。そこで必要なのがユーティリティーだ。

 「主力のけがに備えた選手もすごく大事。チームづくりで一番難しい。(主力に)アクシデントがあった時には何の違和感もなくやれる選手たちの力が必要。選手としてはいろんなポジションを守ってる方が選ばれる確率も高いんじゃないかな。捕手も2人か3人か微妙なところ。捕手以外の野手ができる使い勝手のある人がいれば助かるな」

 昨年11月のアジアプロ野球CSで内野手登録ながら外野を守ってMVPを受賞した外崎(西武)や、打力が高く野手として出場する森(西武)や近藤(日本ハム)といった選手らにも期待だ。08年北京ではG・G・佐藤(西武)が慣れない左翼で3失策する悪夢もあって、メダルを逃した経緯がある。前年まで西武監督を務めていたのが伊東氏。「かわいそうやった。右翼しか守っていなかったもん」と振り返るだけに、同じ轍(てつ)は踏まない。伊東氏は2月から各球団キャンプを視察。“GM初仕事”として、同中旬には全メンバーが発表される見込みだ。

 ◆侍ジャパン強化本部 野球日本代表の監督人事を担うプロ・アマ合同で組織された日本野球協議会の侍ジャパン強化委員会内に2017年、第4回WBC後に設置された。チーム編成や情報収集、メディカル管理などで代表監督をサポートする。本部長は92年バルセロナ五輪の代表監督を務めた山中正竹氏。

 ◆伊東 勤(いとう・つとむ)1962年8月29日、熊本市生まれ。55歳。熊本工、所沢高から81年ドラフト1位で西武に入団し、03年現役引退。通算成績は2379試合で打率2割4分7厘、156本塁打、811打点。捕手でゴールデン・グラブ賞11度は最多。04~07年は西武監督を務め、就任1年目に日本一と正力賞。09年WBC総合コーチ、12年韓国・斗山ヘッドコーチを経て、13~17年はロッテ監督。監督通算626勝625敗15分け。17年に野球殿堂入りした。右投右打。

野球

×