寺島しのぶの使命、「あ~楽しかったね、で終わらない」作品を求めて 映画「オー・ルーシー!」春公開

スポーツ報知
今年も映像、舞台に忙しい寺島しのぶ

 今年の話題作のひとつに、寺島しのぶ(45)が主演する日米合作の映画「オー・ルーシー!」(平柳敦子監督、春公開)がある。昨年カンヌ国際映画祭にも出品された同作は3月に授賞式が開催される米インディペンデント・スピリット賞で新人作品賞、主演女優賞のダブルノミネートも決まった。“逆輸入”現象を起こしている注目作。どのような作品でどんな思いを持って出演したのか、寺島に聞いた。

 日本でまだなじみの薄い「インディペンデント・スピリット賞」は、今回で第33回。毎年米アカデミー賞前日に授賞式が開催される。文字通り独立系の作品が中心だが、過去にジョディ・フォスター、ヒラリー・スワンク、シャーリーズ・セロンも主演女優賞に選ばれたことのある価値ある注目の賞だ。寺島は言う。

 「私もこの賞を詳しく知らなかった。でも、ノミネートだけでもすごいと聞いて。発信のきっかけも生まれてうれしい。最近の説明過多な邦画を思えば、この作品は見る人に、あまり優しくはない作品でしょうね」

 ニューヨーク大大学院出身で、サンフランシスコ在住の平柳監督の長編第1作。撮影はちょうど1年前。邦画ではあまりお目にかかれない種類のパンチが利いている。ヒリヒリする現実社会かと思えば、少しメルヘン的な世界に一変したり。シニカルな視点にシュールなおかしみ。シンプルには形容しづらく、解釈は難しい部類に入るだろう。

 人生に希望がなく、すさんだ日々を送る主人公(寺島)は、出勤時の駅のホームで飛び込み自殺を目の当たりにする。冒頭から強烈だ。

 「役に共感? 全然できないですよ。でも、どん底まで落ちて病んでいく姿が、逆にいとおしく思えてきて。演じていて役に『頑張れ』と思う自分もいたり。主人公の女性はイケメンの英語講師の1回のハグで人生狂わせられて。でも、人間って一瞬の出来事で人生が変わることは本当にあると思う」

 米国での撮影事情を見聞きし、学べて新鮮だった。今作は低予算で短期間で撮られた。実際は、米映画の多くが、いろんな感情や表情の違うパターンをあらかじめいくつも撮るという。

 「編集次第で楽しいものにも悲しい映画にもなると知り、びっくりしました。私が育ってきた演じる世界とはあまりに違っていたので」

 いまの日本で演技派の寺島に細かなダメ出しする人はあまりいない。しかし、今作では芝居に少し工夫を加えようとすると、世代も近い平柳監督は「そこは(工夫は)必要ないので。普通にやってください、と。きちんと、ちゃんと言ってくれるのがありがたい。私たち二卵性双生児じゃないかな、と思うほど感性が似てる部分もあって」。

 10年に名女優で知られる田中絹代さん(77年死去、享年67)以来、35年ぶりのベルリン国際映画祭・銀熊賞を受賞して以降、海外作品にもアンテナを張るようにしてきた。そのおかげで、邦画をより客観的に見られるようにもなった。

 「映画館を出て『あ~楽しかったね』だけで終わらないもの。見終わって『あれ、本当はどうだったんだろう?』と多少分かりにくくても気になって考えさせられる作品を求めて。それが私の本当のやりたいことで使命なのかもしれない、と最近、思い始めています」

 ◆オー・ルーシー!あらすじ 

 人生に何の希望も持てずに毎日を過ごす43歳のOL(寺島)。姪に頼まれ、代わりに英会話学校に行き、イケメン講師(ジョシュ・ハートネット)に一目ぼれ。金髪のかつらをかぶり“別人格”になって英語を話す快感にも目覚め、生活が変わっていく。共演は南果歩、忽那汐里、役所広司ら。短編版(14年)が最初に作られ、この時は桃井かおりが主演した。

 ◆寺島 しのぶ(てらじま・しのぶ)1972年12月28日、京都府生まれ。45歳。青学大卒。文学座出身。代表作は報知映画賞主演女優賞など賞を総なめにした03年「赤目四十八瀧心中未遂」、10年には「キャタピラー」でベルリン国際映画祭銀熊賞(最優秀女優賞)。13日から東京芸術劇場シアターイーストで「秘密の花園」に主演。父は尾上菊五郎、母は富司純子、弟は尾上菊之助。夫は仏人アートディレクターのローラン・グナシアさん。5歳の長男・眞秀(まほろ)くんは昨年歌舞伎座で初お目見えした。

 平柳敦子監督

「2つの文化で構成された素晴らしいスタッフとキャスト。この映画の完成に貢献していただいた方々に感謝の気持ちでいっぱいです。現在の混沌(こんとん)とした世界情勢の中、カンヌ映画祭をはじめ、映画を通していろいろな国の皆さんとつながりが持てることが何よりもうれしい。勇気ある役者にもお礼を伝えたい」

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