小林稔侍、56年目で初主演「星めぐりの町」 健さん「良かったな」と言ってくれたかも

2018年1月14日16時0分  スポーツ報知
  • 取材時はまだ紅葉が。穏やかな笑みを見せる小林稔侍(カメラ・小泉 洋樹)
  • 「鉄道員(ぽっぽや)」で共演した頃の高倉さん(右)と小林
  • 「星めぐりの町」での小林。高倉健さんから贈られたジャンパーを着ているシーン

 俳優・小林稔侍(76)が役者人生56年目にして映画に初主演した「星めぐりの町」(黒土三男監督)が27日、公開になる。豆腐店を営み、つつましく生きる主人公と、大震災のショックで心を閉ざした少年との交流を描く。小林は「主役を頂き役者冥利に尽きる。この恩を監督にどう返せばいいのか」と、どこまでも控えめ。実は、今作の意外なところで、小林が長年憧れ続けた高倉健さんと“共演”している。

 「人様に何かを感じてもらうのに、僕は未熟だったからこれだけの時間がかかった。でも誰か、見ていてくれるものですね。役者冥利に尽きますよ」。満を持してのスクリーン初主演をこんな言葉で謙遜する。黒土監督が小林にあてて書いたオリジナル。「監督に『役でもそのまま、稔侍さんで』と。逆に普段どうだっけ?と困って。悩みますよね」とはにかむ。

 映画には宮沢賢治の「雨ニモマケズ」の詩も出てくる。主人公・勇作は全てにおいて「身の丈」を心得た人物。妻に先立たれた後も、静かに質素に丁寧に毎日を生きる。そこへ妻の遠縁という少年が姿を見せる。大震災で家族を失い、心を閉ざしていた。勇作は、その子に時間をかけて寄り添うことを決意する。

 「その子がすてきでね。少し僕にも性格が似ていて。監督から『いい子が見つかったんですよ』と聞いて。積極的な子役が多い中、彼だけが尻込みしている印象的な子だったそうなんです」

 映画を見ていて「あれ?」とピンとくる人は少なくないだろう。豆腐を車で配達に行く時など、勇作は健さん愛用で知られた英国メーカー、バラクータのジャンパーを着ているのだ。今回の衣装は全て、小林の自前によるもの。

 「あれは高倉さんに昔頂いたものでね。健さんはこのジャンパーが好きだという理由で、寒くても薄手のジャンパー一枚で過ごしたこともあった。でもこれ着て健さんみたいに似合う人ってあまりいないんですよね」

 シャイな小林のこと。衣装合わせに持参はしたが、箱に入ったままだった。チラッとのぞいたのを監督は見逃さなかった。「稔侍さん、これ!」となった。予想通り、健さんゆかりのものだった。監督は「映画でぜひこれを着てほしい」と伝えた。そうやって健さんとの“共演”が実現した。

 恐らく、この映画初主演を、誰よりも喜んでくれているだろう。「でも高倉さんは、褒めるとき、べちゃべちゃ褒めたりしないんですよ。映画見てから、夜中に『良かったな』と留守電に入っているか『稔侍、おい、今日、何かうまいもの食おう』とかね。そんなことを言ってくれたかもしれませんね」

 小林には、タイトル「星めぐりの町」の「星」が「僕には“人”だと思えるんですよ。人との巡り合いで、人生は決まったり変わったり。笑われるんじゃないか、と恥ずかしくて監督にも、この解釈を、まだ聞いていないんですけどね」。主役でなくとも、記憶に残る俳優であり続けてきた。

 「僕みたいに、もう花が咲かないよ、と思っていた枯れ木が、ひょっこりひょうたん島になることも」。主演として自分のことだけ考えればいいものを、小林は脚本も執筆した監督のことを思わずにいられない。

 「どれだけの時間をかけてお書きになったのか。登場人物と僕を重ね合わせ、思い続けないと書けないですよね。何をどうやってお返しすればいいいか」と悩んだ末、「ささやかだけど、一言一句セリフを決して間違えない。これが僕なりにできる気持ちでした」。76歳の新境地。この人にしか出せない味わい深い一本に仕上がっている。

 監督の一言 
メガホンは「蝉しぐれ」などで知られる70歳のベテラン黒土三男監督。衣装合わせで、小林が自前の服を「車に入りきれないほど箱に入れて持ってきてくれた。今時こんな誠実な人はいませんよ」と話す。「立つだけで誠実さが役を通してにじみ出てくる。稔侍さんは得難い存在」と全幅の信頼を寄せる。特に主婦に豆腐を売る時の芝居に注目してほしいという。劇中に出てくる大震災は、浦安在住の監督が東日本大震災で被災し、移住した経験が背景にもなっている。

 ◆星めぐりの町 早くに妻を亡くし、一人娘(壇蜜)と2人でつつましく暮らす主人公・島田勇作(小林)は一人で豆腐店を営み、その味は地元の主婦や料理店に愛されていた。そこに突然、亡き妻の遠縁という少年(荒井陽太)が現れる。東日本大震災の津波で家族を失っていた。勇作と、心に傷を持った少年との間に交流が生まれていく。高島礼子、平田満らが共演。

 ◆小林 稔侍(こばやし・ねんじ)本名は「稔侍」と書いて「としじ」と読む。1941年2月7日、和歌山県生まれ。76歳。62年東映ニューフェース(第10期)。名バイプレーヤーとして多くの映画に出演。主演ドラマ「税務調査官・窓際太郎の事件簿」(TBS系)は30回を超える人気シリーズ。主な映画出演作に「冬の華」「鉄道員」(ともに降旗康男監督)など。息子の小林健、娘の小林千晴も俳優で今作に出演している。

芸能
今日のスポーツ報知(東京版)
報知ブログ(最新更新分)一覧へ