藤竜也、8月に喜寿!俳優生活56年目 映画「東の狼」2月3日公開

スポーツ報知
映画では、老いてくたびれた雰囲気を出しているが、素顔はやっぱり格好いい藤竜也(カメラ・能登谷 博明)

 俳優・藤竜也(76)がキューバの監督と組んだ主演映画「東の狼」(カルロス・M・キンテラ監督)が3日、公開される。藤は、奈良を舞台に“幻の狼”を追い続ける孤高の老ハンターを演じた。観念的な内容を含んだ異色作。俳優人生は56年目に入り、今年8月に喜寿を迎える。一貫して「監督にとって俳優はパーツ(部品)」という考えだが、同時に変幻自在のパーツであり続けようとしてきた。親子ほど年の離れた監督との仕事でも、多くの発見があったという。

 藤は、孤高のハンターを演じるため、半月早くロケ地の奈良・東吉野村へ。他の作品でもマネジャーを付けず単身で先に現地入りすることが多い。

 「何て言えばいいのかな。僕は(演じる上で)テクニックを避けたいんだね。現地で自分を浸す。体ごと放り出して役の魂に預けちゃう感じ。そうすれば、撮影が始まれば勝手に体が動いてくれる。そうすると役を頭で考えない。楽なんですよ」

 変わった役どころだ。絶命したはずの狼を取り憑(つ)かれたように追い続ける老ハンター・アキラ。監督は33歳で親子以上に年が離れている。役同様、監督の撮り方も新鮮だった。

 「監督にとって、僕らはパーツ(部品)ですから。でもラテン系というのかな。面白いですよ。毎日台本が変わり、準備したことが丸ごとなくなったり。ありゃりゃ?となったり。撮りながら、どんどんいろんなものが浮かんでくるんだろうね」

 大島渚、相米慎二、北野武らさまざまな名匠と仕事をしてきた藤にとっても初めての体験。今作は昨秋、なら国際映画祭でお披露目。その後、大幅な編集変更を施し、完成に至った。それは役の答えを明確に見いださずに演じ終えたどの出演者も、イメージできないものになっていたという。

 「演じている時は気づくことはできなかったけれど、映画を見るとカルロスの魂が(主人公に)ねじ込まれていた。不思議な作品。でも俳優って、才能ある監督との出会いで運命が変わっていくものだからね」

 クライマックスで主人公がある対象物に銃口を向ける。藤は、その時見せた監督の顔が忘れられない。

 「何とも言えない悲しみに満ちた目をしていた。それが何を意味するのか、僕はあえて聞きませんでした」

 若い監督だが、故郷キューバという国が感性を育んでいる。リアルタイムではないが、激動の歴史も把握している。主人公アキラの過去に、映画を読み解くヒントがある。革命時のキューバでアキラはひとりの女性を愛した。しかし、自分を置いて去る。男はその女性が忘れられない。村では猟師を束ねてきたはずが、周囲からは奇異に見られ、孤立。そのことに自分だけが気づいていない。

 「整然な展開でなく、映画を見た人が完結させる。至れり尽くせりの作品もあれば、ちょっと分かりにくいこういうのもあっていいんじゃないかな」

 誰にも、忘れたいのに消えない記憶があり、それに苦しめられることがある。そして結局、どう繕っても自分自身にウソはつけないと気づく。

 「僕は基本的に、過去のことは、何でも意識的に忘れる主義。でも記憶が個々に違うおかげで、世の中も映画も世界も成り立っているわけでね。結局、みんな“内なる狼”を抱えながら、もがいてるってことじゃないのかな」

 アキラを師匠のように尊敬し、思いやる地元の若者役に、「赤目四十八瀧心中未遂」(03年)などで知られる実力派俳優の大西信満(42)が共演。劇中には藤が実際に鹿を解体するシーンもあり、約40分間かけて撮られた。「でも3分くらいしか使っていませんので。監督の“カット割り”も日本人がやらない独特な方法だった」とコメント。「見終わってたくさん違和感が残る作品。でもその違和感が心地良くも感じられる。そこを楽しんでほしい」と話している。

 ◆藤 竜也(ふじ・たつや)1941年8月27日、中国・北京生まれ。76歳。62年日大在学中にスカウトされ同年「望郷の海」でデビュー。代表作は「野良猫ロック」「愛のコリーダ」。昨年はテレ朝系連ドラ「やすらぎの郷」で往年のスター俳優役を好演。主な映画の出演作に三原光尋監督「村の写真集」、北野武監督「龍三と七人の子分たち」、河瀬直美監督「光」、そば職人を演じた日仏中合作「チェン・リャン」の今秋公開が控える。

 ◆東の狼あらすじ 
絶滅したとされるニホンオオカミ。老いた地元の猟師は、周囲の反対を無視して狼探しに明け暮れる。なら国際映画祭エグゼクティブ・ディレクターの河瀬直美監督の陣頭指揮のもと、カルロス監督がメガホン。同監督は短編がカンヌ国際映画祭で話題になるなど、海外からも注目されている。

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