こうして「みなおか」「めちゃイケ」は終わった…フジテレビのキーマンが明かした史上最大の改編の裏側

スポーツ報知
編成、制作、宣伝の責任者としてフジテレビの今、そして未来を率直に語った石原隆取締役編成統括局長

 現在、平均視聴率で民放キー局中4位と苦戦も4月の「史上最大の改編」で復活に向けて動き出したフジテレビ。そのキーマンが昨年6月の取締役就任以来、編成、制作、宣伝の総責任者として剛腕を振るう石原隆編成統括局長(57)だ。「古畑任三郎」「王様のレストラン」など名作ドラマのプロデューサーとして鳴らしたベテラン・テレビマンが「とんねるずのみなさんのおかげでした」「めちゃ×2イケてるッ!」など長年続いた大型バラエティーを軒並み終了させた大幅番組改編の舞台裏と「見たいと思わせる番組を作るしかない」という今後の反転攻勢への思いまで全てを語った。(聞き手・中村 健吾)

 昨年6月に就任した宮内正喜社長(74)の「視聴率を上げて業績を回復する」という大号令のもと、この4月、全日(午前6時~深夜0時)28・2%、ゴールデン(午後7時から10時)29・8%、プライム(午後7時~11時)29・5%と大規模な番組改編を敢行したフジテレビ。30年続いた「とんねるずのみなさんのおかげでした」、22年続いた「めちゃ×2イケてるッ!」という同局を代表するバラエティーも3月いっぱいで姿を消した。

 編成の最高責任者として、この歴史的改編を断行した石原取締役編成統括局長がその決断の裏側を明かした。

 「ヒット作を作るには新しい番組を始めなければいけない。そのためには、これまであった番組をやめなければならない。これは自明の理。フジと言えばこの番組という看板番組には今まで手を付けずにきました。フジのアイデンティティーの一翼を担ってきた番組だけに、それを終えてしまうと、フジというものがますます分からなくなってしまうという思いがありました。一気に看板だった番組をやめてしまうと、さらに混乱するかなということを、まずは心配しました」

 「みなおか」、「めちゃイケ」はそれほど大きな存在だった。

 「でも、終了していかないと、もうフジテレビは変われない、という判断になりました。これまで残す方がメリットがあるだろうと思ってきた老舗の番組たちも今回は改編の対象にしていこう。そう決めました」

 番組の枠を超えてフジのアイコン(象徴的存在)だった、とんねるずの番組も終了させた。

 「確かに厳しい数字が全盛期に比べて出ているけど、我々のエンブレムなので『それに手を付ける前にやることがあるんじゃないの?』と今までは考えてきました」

 82年から93年まで12年連続で視聴率「三冠王」を続けたフジだが、今は民放キー局中4位に低迷。「楽しくなければテレビじゃない」のコピーで一世を風靡した面影はないからこそ大改革に着手した。

 「視聴率というと非情に感じるかも知れませんけど、我々もビジネスでやっているという側面があります。より多くの視聴者に見られる番組というのをいつも模索していなければいけない。今は視聴率というものが重要なメジャーの一つです。すごく簡単に言うと、視聴率が芳しくないので改編対象になったという言い方になる。多くの産業で売れなくなった商品は生産をやめて新しい商品に変わっていったりすることと同じだと、考えるように努力しました」

 とんねるず始め出演者と長年の付き合いのあるスタッフも多かったが、それでも終わらせた。

 「とんねるずのお二人からは『長い間、むしろ感謝しなければいけないのは、こちらの方だ』という言葉をいただいたと聞いています。胸が熱くなりました」

 ずばり、この4年間で営業利益が4分の1になった不振の原因とは何なのか。

 「番組がヒットしないからです。それ以外ない。車メーカーはいい車を作る。テレビ局はヒット番組を作るべき。それができてないからです」

 11年に起こった同局への抗議デモなどをきっかけに、フジテレビ自体のイメージが悪くなったのではという見方も存在する。

 「そこについては正直、よく分かっていないんです。そういうこともあるかもしれません。いずれにせよ、失った好感度や信頼を回復するには、見たいと思われる番組を作ることしかない。ブランドイメージを復活させるものは、やはり番組であると思うんです」

 ドラマも苦戦中だ。1月クールの看板枠「月9」ドラマ「海月姫」はSNSなどでの評判がいい反面、数字が伸び悩んだ。

 「『海月姫』に限らず、そしてドラマに限らず、番組の不振というのは、視聴者がそれを見ようという動機がないからだと思います。内容がいいということはとても大切なことだけれども、厳しい言い方をすれば、プロとしては当たり前のことと言えます。ほとんど品質に差のない商品でも、売れる商品と売れない商品があるように、もう一つ大切なのは、それを買おうという気になるかどうか。番組もそれに似ていて、見るか見ないかが大事で、見れば面白い。『海月姫』だって現場の努力は素晴らしいし、苦労して、みんなが知恵を絞って作っていたのを知っています。だからこそ、お客さんにそれを見ようと思わせる、動機を作るってことはどういうことなんだろうと考えなければならない。それが編成の仕事なんです。制作はクオリティーの高いものを一心不乱に作るべきですから。それを売る、視聴者と番組をつなげてあげる仕事ができていないのかなと思います。視聴者に直接、つなげるのは編成、広報ですから」

 そして今、フジは反転攻勢に打って出た。

 4月の「目玉商品」が新「月9」ドラマ。古沢良太さん脚本、長澤まさみ主演の「コンフィデンスマンJP」だ。「みなおか」の後番組には坂上忍の「直撃!シンソウ坂上」、「めちゃイケ」の後には「世界!極タウンに住んでみる」など魅力的なバラエティーが用意された。

 「面白いですよ。ごく控えめに言って、相当面白いラインナップだと思います。ドラマに関して言えば、例えば月9、脚本の古沢さんはフジの『リーガル・ハイ』など、新しくて魅力的な脚本を書く作家です。長いお付き合いの中でフジテレビの制作陣との信頼関係を熟成してきたと思っています。映画の製作も含め、古沢さんはフジテレビにとって、とても重要な脚本家の一人だと思います。また、木曜10時枠の『モンテクリスト伯~華麗なる復讐~』も大変、楽しみにしています。脚本の黒岩勉さんがこの名作古典をどう料理するのか、ワクワクしますね。番組制作というのは、数字だけでは決められない部分があって、このスタッフなら自分の描きたいものを理解してくれる、といったような信頼で成立している部分も大きいと思います」

 それは「古畑任三郎」「王様のレストラン」など数多くのヒットドラマを二人三脚で生み出してきた石原取締役と三谷幸喜さんの関係に似ている。

 「三谷さんはそうは思ってないかも知れませんけど。僕は一方的にそう思ってます(笑)」

 中でも新たにフジのアイコンになりつつあるのが、「バイキング」を成功に導いた坂上忍だ。

 「現場のスタッフと坂上さんの信頼関係が熟成されたんだと思います。前番組の『笑っていいとも!』があまりに偉大だったので、プレッシャーのかかる中、坂上さんという才能を得て、上昇気流に乗っていると思います。今度の坂上さんの新番組『直撃!シンソウ坂上』も心から楽しみです」

 今夏、映画も公開される「コード・ブルー ―ドクターヘリ緊急救命―」など、大ヒットドラマのシリーズも今後続いていく。

 「具体的なことは今、申し上げられませんが、ドラマの場合は出演者、スタッフ、脚本家がやろうというモチベーションが合致した時はやろうと思ってますし、僕自身が見たいと思ってます。『コード・ブルー』はまさに去年、そういうタイミングでした。出演者もスタッフも、みんながあのタイミングに惑星直列のようにやろうよと、みんなが盛り上がった幸せな組み合わせでした」

 そう、フジ復活へ機は熟しつつある。

 「僕はオプティミスト(楽観主義者)なんですが、それを差し引いてもこの4月(の番組)は素晴らしいと思います。具体的な(視聴率の)ラインは言いませんが、少なくとも今の状況は脱却したいと思っています。それぞれの番組がそれぞれ目標を持って制作されていって欲しいと思います。(現場に)何%アップしろなんて言ってませんし、言うつもりもないんですけど、それぞれが、その前の番組、今やっている番組もより多くの人に見てもらえる努力をして欲しいなと思います」

 「勝負の大改編」。石原取締役が仕掛けつつあるものとは一体、何なのか。

 「去年の10月、今年の4月、10月と3段階で勝負をかけます。この4月は長寿番組を終えて新番組に差し替えました。その新番組の中でどれを我慢して長い目で見るのか、そうした判断が求められるのが10月。改編率はこの4月が大きい。この番組たちが育っていくのが理想です」

 だから、勝負はこれからだ。

 「編成の勝負もある。どこまで、どういう基準で我慢するのかにはルールがない。編成の判断、制作マンの感性にかかる部分が大きい。マーケティングリサーチやいろいろなデータ収集もやりますけど、中々それだけでは判断できない。こうしたデータが出れば(番組)継続だ、何ポイント以下だったら打ち切りだと、そういうことでもない。だからこそ、人間が編成をやっていて、人間が制作をやっているんだろうと思います」

 最後は視聴者の好みを鋭敏につかみ取る「感性」勝負になるのだろうか。

 「『古畑任三郎』は1回目の視聴率を普通に考えたら、パート2はなかったかも知れません。当時、ほかの連続ドラマは(平均視聴率)30%とか取っている時代でした。確か『古畑任三郎』はファーストシーズン平均で14%とかだったと思います。正直、抜きん出た高視聴率番組ではなかった。。機械が判断したら、『はい、パート2はございません!』と言われても仕方なかったかも知れません。でも、その時の(編成)部長が僕に『何か来てますよね』と言ったんです。再放送のちょっとした数字の動きや、あの時はSNSなんてなかったので、街で(番組を見た)視聴者が話題にしていたよとか、何かあいまいな情報ではあったのですが、『じゃ、やってみるか、パート2』ってなったんです。あの作品はパート2が無ければ、あんなこと(大ヒット)にはなっていないので、その見極めっていうのは本当に大事だなと、つくづく感じました。データは大切だし、今後さらに精度の高いデータ収集ができるようになっていくんだろうと思います。でも、人の感性というものが無くなって良いということではない。データの分析にも人の感性は反映されると思うんです。そんな感性の鋭敏なメンバーが制作や編成に配置されていると思います」

 ◆石原 隆(いしはら たかし) 1960年10月14日、名古屋市生まれ。57歳。84年、東京外語大ドイツ語学科を卒業し、フジテレビに入社。編成部所属でテレビドラマの企画、バラエティー番組の編成に携わる。1987年「スケバン刑事3 少女忍法帖伝奇」から編成部プロデューサーに。90年の「世にも奇妙な物語」から始まり、95年「王様のレストラン」、94~06年「古畑任三郎」などの三谷幸喜作品始め00年「やまとなでしこ」、01年「HERO」など数多くのヒット作を送り出す。三谷監督の映画「ラヂオの時間」など多くの映画作品も手掛けた。ドラマ制作センター企画担当部長、編成制作局ドラマ制作担当局長、執行役員編成局長などを経て、17年6月28日付で取締役に昇進。編成局、制作局、映画事業局、広報局を統合した新しい組織の総責任者である編成統括局長に就任した。 

 ※「フジテレビ・石原隆取締役編成統括局長インタビュー60分間完全版」を8日午前11時にアップします。

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