「あと3年やっていれば大ヒットになるとか、それは誰にも分からない」…フジテレビ石原隆取締役インタビュー(2)

スポーツ報知
編成、制作、宣伝の責任者としてフジテレビの今、そして未来を率直に語った石原隆取締役編成統括局長

 現在、平均視聴率で民放キー局中4位と苦戦も4月の「史上最大の改編」で復活に向けて動き出したフジテレビ。そのキーマンが昨年6月の取締役就任以来、編成、制作、宣伝の総責任者として剛腕を振るう石原隆編成統括局長(57)だ。「古畑任三郎」「王様のレストラン」など名作ドラマのプロデューサーとして鳴らしたベテラン・テレビマンが「みなさんのおかげでした」「めちゃ×2イケてるッ!」など長年続いた大型バラエティーを軒並み終了させた大幅番組改編の舞台裏と「見たいと思わせる番組を作るしかない」という今後の反転攻勢への思いまで全てを語った。(聞き手・中村 健吾)

 ―編成の責任者として時代を読む「センス」が問われている―

 「僕が学生の時に見ていた番組について入社して最初に調べたんです。当時はコンピューターもなくて、調査部に行って分厚い冊子にまとめられた過去の番組のデータを見たんです。そうしたら、僕が熱狂的ファンだったドラマはほとんど低視聴率なんですよ。題名は言えませんが(笑)。ショックでした。その時代の一ケタと言ったら相当悪い。でも、本当に好きで、それらの番組が無かったら、この世界で働こうなんて思ってない作品なんです。大げさに言うと、自分の人生の一部を作っている番組なので。でも、低視聴率。自分は好きなものをやっちゃいけないんだと言われた気がしました。おまえが好きなもの作ったら、(数字が)上がらないんだと言われた気がして、すごくショックを受けました。僕は今後、自分の嫌いなものを選んで作っていくのかって。嫌いなものを作るって、何だかイヤな作業じゃないですか。どうしたらいいのか、愕然とした経験があります。自分は向いてない世界に来てしまった、でも、好きな世界ではある、どうしたらいいだろうとずいぶん悩みました」

 ―意外なスタート―

 「僕にとっては好きな番組だけど、ビジネス的には芳しいとは言えない評価でした。ビジネスと芸術的評価は別物だということもありますが、我々はショウビジネスという世界にいる。多くの場合、より多くの視聴者に興味を持ってもらえないと、残念ながら、成功とはいえない、そんな世界に就職したんだなと、当たり前のことを改めて感じました」

 ―「向いてない」と言いつつ、プロデューサーとして、三谷幸喜作品など次々とヒット作を生み出した―

 「自分の好きなものと世間が好きなものの交わりがない、空集合だとしたら諦めざるを得ないけど、薄いけど(交わる部分は)あるに違いないと思って頑張って来た感じです」

 ―「みなさんのおかげでした」も「めちゃイケ」も最初は本当に新しい「見たことがない」魅力があった―

 「そう、『みなさんのおかげでした』も『めちゃイケ』もそれまでにない、オリジナリティーに溢れた番組でした。過去に存在しないモノの評価は難しい。結果が出てから評価を下すのは簡単ですが、その前に評価、判断をすることはなかなか勇気のいることです。それまで存在しなかった番組の場合はひょっとすると、新しいマーケットをその番組が生まれた瞬間に生み出すみたいなことがあるのかもしれません。新しい番組を作って、それによって新しいファンを生み出すみたいな作業を、それらの革命的なバラエティーはやったんだと思います。それはデータでは分かりにくいことなんだろうと思います」

 ―開始早々に「つまらない」と切り捨てられるなど、視聴者の見切りが早くなった点も―

 「『みなさん』も火曜ワイドスペシャルで何回か単発で作られて手応えがありました。それ以前に『オールナイトフジ』『夕やけニャンニャン』を中心に、とんねるずのお二人は人気が出ていて、彼らの冠番組を作ったら、きっと面白いだろう、という経緯でした。『めちゃイケ』も古くは『とぶくすり』そして『めちゃ×2モテたいッ!』があって、ゴールデンタイムの土曜8時に上がってきたという“歴史”があったんです」

 ―1年たって、やっと人気が出たバラエティーも数多い―

 「『なるほど!ザ・ワールド』は火曜9時で始めた。世界各地でロケを行い、クイズにするという当時では画期的な番組でした。1年はかかってないですが、初回は確か一ケタの視聴率だったと思います。認知されて、定着するまでにある程度時間がかかるバラエティーは多いと思います」

 ―昨年、1年で終わってしまった「フルタチさん」のような番組も―

 「そのままずっと続けていたらどうなっていたか。それは誰も証明できません。でも、誰かがどこかで判断しなければいけない。本当の本当を言えば、世界に向かって私のこの判断が絶対的に正しいなんて言える編成局長や編成部長はいないと思います。会社内の事情、営業的な事情、その人の個人的な感性、制作現場の様子を全部、ミキサーに入れて、熟慮した上で、ここで(終了)という苦渋の決断を、その都度しているんだと思います」

 ―今、視聴率三冠王を続ける日本テレビは今回、ほぼゼロ改編に比してフジは大規模改編。伝統の番組の後番組はハードルが高い?

 「新番組の中には年末年始の番組やスペシャルで放送したものもたくさんあります。その視聴率を参考にすると言うよりは、企画書では分からない内容を実際に制作者が作りたいという方向で作ってもらった。『なるほど、こういうことなのね』と分かったことを編成制作で議論して、これはレギュラーで行こうと決めたという企画がいくつかあります」

 ―特に長年の視聴習慣が付いている「みなおか」「めちゃイケ」の後番組はハードルが高い?

 「(『めちゃイケ』の後番組)『世界!極タウンに住んでみる』は1年くらい前に制作会社から企画をいただいて、編成担当、制作の現場の人間、そして制作会社との話し合いの中で盛り上がったものです。編成内でもこの企画の決定は早かった記憶があります」

 ―数多くの企画書が集まってくると思うが?

 「たくさんの企画をいただいています。また編成からも提案するものもあります。そんな中から選び抜かれたものが実際に制作され、放送されることになります」

 ―企画として新バラエティーに抜てきした理由は?

 「『極タウン』はタイトル通り、世界にある町や村やいろいろな地域で極端な場所を紹介するというのが単純に面白いと思ったからです。それをどう演出していくか、そこから先は演出の領域です。僕にとっては何かがとにかく極端な場所というのは面白いなと思いました。今まで特殊な村や町を紹介する番組はあったけど、それだけをまとめてやるってのは無かったと思うのでいいんじゃないかと思いました」

 ―「バイキング」で成功している坂上忍の新番組も始まる―

 「坂上さんは大きな要素。社内の第二制作室の番組ですが、プロデューサーは、まず、坂上さんありきでどういう番組を作ったら面白いだろうと発案したと想像しています、聞いている限りでは。このタイプの企画におけるMC坂上さんは未開発ではないかという考えだと思います」

 ◆石原 隆(いしはら たかし) 1960年10月14日、名古屋市生まれ。57歳。84年、東京外語大ドイツ語学科を卒業し、フジテレビに入社。編成部所属でテレビドラマの企画、バラエティー番組の編成に携わる。1987年「スケバン刑事3 少女忍法帖伝奇」から編成部プロデューサーに。90年の「世にも奇妙な物語」から始まり、95年「王様のレストラン」、94~06年「古畑任三郎」などの三谷幸喜作品始め00年「やまとなでしこ」、01年「HERO」など数多くのヒット作を送り出す。三谷監督の映画「ラヂオの時間」など多くの映画作品も手掛けた。ドラマ制作センター企画担当部長、編成制作局ドラマ制作担当局長、執行役員編成局長などを経て、17年6月28日付で取締役に昇進。編成局、制作局、映画事業局、広報局を統合した新しい組織の総責任者である編成統括局長に就任した。

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