パルムドールに輝いた「万引き家族」、感想大半が「う~ん…」は狙いだった!?担当記者が見た

スポーツ報知
現地時間13日の公式上映前にレッドカーペットを歩いた(左から)リリー・フランキー、佐々木みゆ、安藤サクラ、是枝裕和監督、樹木希林、城桧吏、松岡茉優

 フランス南部で開催されていた世界三大映画祭の最高峰「第71回カンヌ国際映画祭」授賞式が19日夜(日本時間20日未明)に行われ、是枝裕和監督(55)の「万引き家族」(6月8日公開)が最高賞「パルムドール」に輝いた。日本映画の同賞獲得は今村昌平監督の「うなぎ」(1997年)以来21年ぶりで5作目。5度目の出品で快挙を達成した是枝監督は壇上で「足が震えています。本当に幸せ」と喜びを爆発させた。23日に帰国する予定。

 日本での「万引き家族」マスコミ試写は長蛇の列ができて、毎回満員となっている。いろんな人の感想を聞いているが、最初のリアクションは「う~ん。何て言うのかな…」。首をかしげる人が大半という珍現象が起きている。次第に、見る者を「う~ん」とうならせ、言葉にならないものを残すことこそが、是枝監督の狙いだったのではないか、と思い始めている。

 映画は、少年が“父”に連れられ、スーパーで万引きするシーンから始まる。足の踏み場もない家で“家族”そろって夕ご飯を食べる。そこには新入りの女の子も。みんな触れられたくない複雑な過去があり、疑似家族なのに肩を寄せ合い、何とも言えない、切ない幸福感が包みこむ。

 しかし実際は、その家族の存在自体が事件だ。小学校に通わせてもらえない万引き少年に残っていた優しさと犠牲心が、物語を急展開させる。一見、社会的、表面的に解決したかに見える。しかし実際は何も変わっていない事実を、強烈に突きつけられる。砂をかんだような、苦しい、ざらついた余韻が残って消えない。そうやって考え続けさせることを、監督は意図して撮ったのではないか。

 監督の転機は19歳。「映像の魔術師」といわれたイタリアの巨匠フェデリコ・フェリーニ監督の「道」「カリビアの夜」を見て「愛は映るものだ」と映画の力を確信した。そのフェリーニは「甘い生活」で1960年にパルムドールを受賞した。仰ぎ見た「師」に少し肩を並べた格好だ。

 時代に振り回されず、自分の足元を見失わない監督でありたい、という。冷静に見たとき、映画賞というのは、その時の審査員の好みと時代の影響を受けて決まる一面があるのも事実だ。そして、地位や名誉を手に入れた監督の中には、人間性まで変わってしまった人もいる。栄冠は人を狂わせる凶器でもある。

 しかし、是枝監督に限ってその心配は無用だ。理由は2つ。信念の一端を見たのは2年前。日本アカデミー賞で「海街diary」(15年)が最優秀作品賞など4冠に輝いたが、「謹んでお受けします」どころか、「この賞が日本の映画人みんなで祝えるものになるには、多くの改革が必要」と、もらった賞に意見。協会関係者を怒らせたスピーチは伝説になっている。

 それと、さすがにカンヌではちょうネクタイだったが、外見にこだわりがないところ。もう巨匠の域にありながら、シワのついたジャケットにシャツ、膝の出たズボン。髪も適当。身なりに無頓着な分も、全て繊細な映像を紡ぎ出すことに気持ちを注いできた。くたびれた私服を見る度、良い意味で「この人は変わらない」とホッとしてしまう。(編集委員・内野小百美)

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