オカダ・カズチカと棚橋弘至、新日本プロレス新旧エースが1・4東京ドームで描いた双曲線

スポーツ報知
IWGPインターコンチのベルトを守ったものの試合後会見で試合順について「悔しい」を連発した棚橋弘至

 4日に東京ドームで行われた新日本プロレス、いや、日本プロレス界最大の興行「WRESTLE KINGDOM12」。最高額5万円のチケットが前売りだけで3万枚を突破。結局、3万4995人の大観衆がドームに殺到した。

 プロレスのお祭り「1・4」は2016年の観客数が2万5204人、昨年が2万6192人。今年、一気に9000人近く増やした原動力が、Wメインイベントとなったオカダ・カズチカ(30)と内藤哲也(35)のIWGPヘビー級戦とケニー・オメガ(34)とWWEのスーパースター・クリス・ジェリコ(47)のIWGP USヘビー級戦だったことは間違いない。

 2試合とも期待どおりの30分超えの大熱戦。大観衆の各選手への熱狂的コールは今も耳に残っているが、大一番の前、「セミセミファイナル」扱いの第7試合で2つのメインイベントに負けない声援を一身に集めたのが、この10年の新日を背負ってきた「100年に1人の逸材」棚橋弘至(41)だった。

 08年以降8回、16年まで5年連続で東京ドームのメインのリングに立ち続けた絶対的エースの、この日のファイトは正直、寂しいものだった。米国武者修行帰りのジェイ・ホワイト(25)を退け、4度目のIWGPインターコンチネンタル王座防衛こそ果たしたが、昨年11月に右ひざを痛め、12月11日の福岡大会まで欠場したブランクが、トップロープから天高く飛ぶ必殺のハイフライフローも切れ味抜群のスリングブレイドも、棚橋から奪っていた。

 実は右ヒザは骨挫傷の大ケガ。この日も「医師からは再発の可能性もあると言われています。今日1日でもいいから、もってくれという気持ちだった」という強行出場だった。

 試合後、守り抜いたベルトを肩にかつぎ、会見場に現れた棚橋は「もっと、簡単に勝たないといけない。ジェイには輝かしい未来が待っているけど、それは今じゃない。俺がいるから」と、誰をも魅了する、いつもの笑顔も抑えめに話した。

 「今日は第7試合。16年のメインから去年はセミ、そして今年と年々、試合順を下げている。試合順はレスラーにとって、重要なこと」とポツリ。この日の3万4995人という動員数についても「悔しい。悔しいよ。俺がメインの時はここまで(観客を)呼べなかった。悔しさしかないです。俺も4万人(くらい)集めたいです」と、正直過ぎる言葉まで口にした。

 “斜陽のエース”が会見で嘆いた1時間半後、メインで大人気ユニット「ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン」を率いる最大の敵・内藤に圧勝した新日にカネの雨を降らせる「レインメーカー」オカダは“舌好調”だった。

 リング上でマイクを持つと、「今日の東京ドーム、すごいお客さんだったけど、ライトスタンドもレフトスタンドもがら空き。上の方も空いていた。レインメーカーに任せろ。超満員にしてやるから」と、まずは自信たっぷりのコメント。

 「レインメーカーがここに立っている限り、俺のプロレスで全員、満足させてやりますよ。今までカネの雨ばかり降らせてきたけど、これからは感動、驚き、幸せの雨を降らせていきます」と決意表明までして見せた。

 さらに勝利会見でも約50人の記者に囲まれ、「東京ドーム(のメイン)を毎年、毎年、経験したことが大きくて、また成長してしまうんじゃないか。今年もオカダ・カズチカしかいないんじゃないかと思います」と、4年連続5度目の東京Dメインでの圧勝に胸を張り、「お客さんの数は17年に僕たちがやってきたことの結果だったり、期待だったりするけど、これからも新日本プロレスのすごさを世界中に知らしめて行きたいと思います」と、団体を代表した世界まで見据えた発言まで飛び出した。

 07年の新日移籍以来、ずっと11歳年上の棚橋の背中を追いかけてきたオカダの“絶対的エース宣言”。そう言えば、昨年の1・4でケニー・オメガ(34)との46分45秒の激闘を制したオカダに一夜明け会見で聞いたことがあった。

 「オメガとの激闘は世界的に話題になった。もはや、オカダさんが新日の絶対的エースでは?」―。その時の答えが「いえ、エースを名乗っている人は他にいますから」だった。

 どこか悲しい響きを持つ「エースを名乗っている人」という言葉。確かに棚橋は4日の試合後会見でも「自分も娘が中3、息子が小6。父親の仕事をする年齢になりました。パパはいいものチャンピオンというところを見せてます」と、今年公開予定の初主演映画「パパはわるものチャンピオン」の題名をもじって笑いを取るなど、リング外の話題をあえて口にする場面があった。

 もともと、一般入試で立命館大に合格。高校時代はスポーツ新聞の記者を目指していた言葉の力を武器にバラエティー番組にも引っ張りだこの棚橋。年齢も41歳。えっ、タレント転向も視野に? この日も満場の「ゴー!エース」の大歓声を集めた棚橋は、オカダにエースの座を譲り、レスラーとして“終わって”しまうのか。

 いや、その疑問には明確に「NO」と言いたい。その証拠として、7試合目という試合順に「悔しい」を連発したことに加え、この日の棚橋が口にした、こんな言葉の数々を挙げたい。

 「メインじゃない原因は分かっている。俺自身にあるから…。今年は体調を万全にして、みんなが喜ぶような試合をしますよ」「棚橋ファンは本当に辛抱強い。花道を歩いていて、本当に感動しました。ファンのみんながプロレスを楽しんでくれることが本当にうれしい」「話題の中心になりたい。チヤホヤされたい。後は覚悟だけです」―。

 どうだろう。トップレスラーとしての野望と、ファンへの感謝の思いにあふれた言葉の数々。加齢による衰えがなんだ。度重なる故障がどうした。私は「100年に1人の逸材」の逆襲が、1・4東京ドームから始まったと思っている。(記者コラム・中村 健吾)

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