感性プロレス、飯伏幸太 フレッシュさ失わずオールドファンに認められる強さを

スポーツ報知
「プロレス界の歴史を変えたいと思っています」と豪語する「ゴールデン☆スター」飯伏幸太(カメラ・小泉 洋樹)

 女性ファンの心をわしづかみにするルックスと強さを兼ね備えたプロレスラーとして、抜群の人気を誇るのが飯伏幸太(35)=飯伏プロレス研究所=。団体に所属しないフリーの立場ながら、小6の時には現在の必殺技を完璧にこなした身体能力と、誰よりも激しいアスリート系トレーニングを武器に、人気NO1の新日本プロレスのリングで大暴れ。米マット界からのオファーも届く一方、路上でのゲリラプロレスも本気でこなす。自由奔放な性格でバラエティー番組にも多数出演する「ゴールデン☆スター」は、「常に進化しか考えてません。プロレス界の歴史を変えたいと思っています」と豪語する。

 新日本プロレスの大黒柱・棚橋弘至(41)は、この男をこう評した。「飯伏がいれば、これからのプロレス界はずっと安泰」―。誰もが「天才」と認めるスタイリッシュなレスラーは、真っ白なベンツクーペでインタビューの場所に現れた。

 「天才って、みんな言ってくれるんですけど、何が天才なんですかね。小さい頃から周りの人を喜ばすのが大好きだったし、喜んでくれるなら自分の体が滅んでもいいとは思ってましたけど」

 子供の頃から「頭の中で想像できる動きは全て実際に再現できる」という抜群の運動神経を持っていた。

 「小学校を卒業する頃には今やっている技が全部できました。(現在の必殺技)フェニックス・スプラッシュ(注)も、小6で形としてはできた。1日でできました。やり始めてもう25年くらいですか。今や絶対、失敗しないですね」

 高校卒業の段階でプロレスラーになると決めていたが、最高峰の新日の入団テストは受けず、インディー団体のDDTに入った。

 「体重が軽いから新日のプロレスラーにはなれないと思い、自分の中で挑戦もせずに挫折してます。挑戦するのを諦めたというより資格がないと思ってしまった」

 DDTでは突然、ゲリラ的に始める路上プロレスで話題に。動画サイトには自動販売機や展示車の上からムーンサルト・プレスを決める、飯伏の「アブナイ」映像があふれている。

 「究極、プロレスやるのにリングはいらない。何がプロレスかって聞かれたら、人に影響を与えたり、感じてもらうこと。自分を表現する一番の場所だと思うし、見た人が何かを感じてくれたらいいんです」

 21歳でキックボクシングの大会で優勝するなど打撃系の強さも本物。2013年からは新日とDDTとの2団体所属で注目を集めた。

 「でも、あの頃は感覚を使わずに(頭で)やったのがダメだった。この先、自分のやりたいプロレスじゃないプロレスをやっていていいのかなと悩んで迷走しました。2年半、完全に迷走でした」

 煮詰まった末にいったんは本気で引退を決意したが、16年2月に2団体を同時退団。自分一人で各団体からの出場オファーを受けるフリーの立場になったことで全てが吹っ切れた。

 「自分のプロレスは感性プロレス。感性が一番なのかなというところに戻った。この2年くらい、ものすごい葛藤してましたけど、今は完全に消えてます」

 今や米トップ団体WWEからの誘いをはじめ、各団体から引っ張りだこ。高評価の源は親交のある元サッカー日本代表MF岩本輝雄さん(45)も驚くハードトレーニングだ。

 「岩本さんから『一緒に練習しよう。見せてくれ』って言われて、動画をいくつか送ったんですけど、『やばい! 現役サッカー選手でもこんなのできないよ』って言われて。(他のレスラーも)みんなついてこられない。試合で(継続して)動いている時間って45秒くらい。その45秒を本当にフルで動いて20秒休んで、また45秒動く。メニューを自分で考えて組んでます。強くなりたい、もっと表現の幅を増やしたい。ただ、自分が進化したプロレスをやっていたんだなとかは後で分かること。将来、何年か後とかに」

 今年は日本一の人気を誇る新日を主戦場にすることを宣言した。

 「今、やらないといけないことが自分の中で分かってます。それで選んだのが一番見ている人数が多い新日。出ながら、いろいろなことをしていきたい」

 IWGPヘビー級王座10連覇中で人気、実力ともに最強と言われるオカダ・カズチカ(30)にも強烈なライバル意識がある。

 「オカダさんは努力しているし、もともと持っているものがある。僕の中で上の上の上くらいにいるので今年中にライバルと言わせるくらいの位置に行きたい。オカダさんが(棚橋の持つV11の)記録を抜いたところがベストチャンス。そこで僕しかいないという空気に持っていきたい」

 「憧れ」という中邑真輔(38)は今、米最大の団体WWEで大成功。実は飯伏も16年にWWEからオファーを受けていた。

 「WWEから普通に契約をしてほしいと。でも断りました。もともと行く気がなかった。中邑さんがいるから、もう自分はいいやという感じ。中邑さんよりは上に行かない気がしました。常にどこでも1番になりたいというのがあるので。中邑さんがいなかったら、たぶん入っていたと思います」

 今が旬の35歳は、これからのマット界にも確固たるビジョンを持っている。

 「プロレス界全体をプロモーションしていきたい。昭和のプロレスを見ていたファンに力を認めさせるには強さ。その部分が今のプロレスは減っているから、強さを前面に出したい。でも、スタイリッシュな部分もファンが求めてくるので絶対になくしたくない。常に進化しか考えてないので」

 長時間試合が褒めたたえられる現状には不満がある。

 「試合時間も長くなっているけど、必要ないなと思っています。15分あればいい。(15年の)中邑さんとのベストバウトも19分くらいしかやってないし、プロレスに時間は全然、必要ない。長いといい試合みたいにレスラーは思い過ぎてます。6分でも人の心に響けば、ベストバウトになる」

 バラエティー番組にも多数出演。「精神年齢14歳のプロレスラー」として“天然ぶり”も披露した。

 「僕を入り口にしてプロレスに触れてくれればいい。僕、新しいんですかね? ただ、バカなことやっていたという歴史にはなりたくない。10年後、20年後を振り返って、今やっているこれが新しいプロレスだったって言われていたら、うれしい。無駄なことをいっぱいしてきたんですけど、後悔が一つもなくて。本当にその瞬間、瞬間、そんなのやらない方がいいよとか、けがするよとか、それは面白くないんじゃないかなと言われたことも全部やってきて。それが無駄じゃないなって今、感じてます。それをやってきて、できたのが今の自分なので」

 だから18年、現在進行形の最先端のレスラー「飯伏幸太」を見ることができる人は幸せだ。

 「そう思っていただければ、うれしいです。僕も楽しみです。自分が一番、楽しみです」(ペン・中村 健吾)

 (注)フェニックス・スプラッシュ…飯伏がフィニッシュホールドとして使用する難易度抜群の空中技。コーナー最上段でリングの外を向いた状態から踏み切り、空中で半ひねりしながら450度前方回転してリング上に横たわった相手にボディープレスをする技。元FMWの故・ハヤブサさんが開発し、得意技としていた。

 ◆飯伏 幸太(いぶし・こうた)1982年5月21日、鹿児島・姶良(あいら)市生まれ。35歳。キックボクシングや新空手を習得し2004年7月、DDT東京・後楽園ホール大会でのKUDO戦でレスラーデビュー。09年からは新日本プロレスに参戦。ケニー・オメガとのタッグチーム「ゴールデン☆ラヴァーズ」で活躍。11年にはIWGPジュニアヘビー級王座を奪取。13年、DDTと新日のダブル所属を発表。15年にはAJスタイルズの持つIWGPヘビー級王座に挑戦するなどエース格に成長も、16年2月、両団体からの退団を発表。個人事務所・飯伏プロレス研究所を設立。フリーランス選手として各団体のリングに立つ一方、路上プロレスなどの活動も。愛称は「ゴールデン☆スター」。181センチ、92キロ。

 ※「飯伏幸太70分間インタビュー完全版」を18日正午にアップします。

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