「記録より記憶に残らなきゃ意味がないんです」絶対王者オカダ・カズチカはそう言った

スポーツ報知
1日の試合後、リングに上がって挑戦を宣言した棚橋弘至(左)と対峙するオカダ・カズチカ(カメラ・生澤 英里香)

 「記録より記憶に残る選手」―。最初にそう呼ばれたのは誰だったか。通算本塁打868本など数々の記録を打ち立てた王貞治さんに対して誰もが、そのプレーに胸躍らせた「ミスタープロ野球」長嶋茂雄さんのことを、そう呼んだのが最初だったか。新庄剛志さんも記録のイチローに対して、やたら「記憶に残る」選手だったと、それこそ“記憶”している。

 「記憶に残らなきゃ意味がないんです」―。今、日本一の人気を誇る新日本プロレスで前人未到の防衛記録を打ち立てようとしている30歳のトップレスラーが桜舞い散る東京・両国で、こう口にした。

 1日、満員9822人の観客で埋まった両国国技館で行われた「SAKURA GENESIS2018」大会のメインイベントとして行われたIWGPヘビー級選手権試合。ここまで10連覇中の絶対王者・オカダ・カズチカは「7822の関節技を持つ」と豪語するザック・セイバーJr.(30)の挑戦を受けて立った。試合はオカダが15歳での闘龍門に入団後、メキシコに渡って習得したメキシコ流ジャベ(複合関節技)も披露。多彩な才能を披露した王者がツームストンパイルドライバーからのレインメーカーで、ザックをマットに沈めて見せた。

 これで「100年に1人の逸材」の異名を持つ新日のエース・棚橋弘至(41)の持つ連続防衛記録に並ぶV11を成し遂げたオカダは試合後、リングに上がってきた棚橋の「チャンピオン、お疲れ様。そして、IWGP連続防衛タイ記録、おめでとう。時間が大分かかってしまったけど、やっと、おまえの前に戻ってきた。もう、世界中探してもさ。次の挑戦者、オレしかいねえじゃん。今度はおまえの防衛記録、俺が止めてやる!」という挑戦要求を受諾。次期防衛戦で新旧エースが相まみえることになった。

 リング上で「棚橋さん、あなた、何、やってたんですか? ケガして復帰して、ケガして復帰して。ニュージャパンカップも優勝できなくて…。つまんねえ男だな。もう棚橋さんじゃない。おまえは棚橋だ」と、かつての憧れの存在を初めて呼び捨てにした。

 さらに「今日で防衛タイ記録のV11。棚橋と並びました。どうもありがとうございました…なんて言うわけねえだろ、コノヤロー。次は棚橋を軽く倒してV12、V15…。V100まで行くって! V100のIWGPチャンピオン・オカダ・カズチカです。アッという間にV100行くからな! まだまだ防衛するよ~。新記録作るよ~、まだまだカネの雨が降るぞ!」と言い放った。

 さらにバックステージでも“オカダ節”は全開。ともにV11の記録で並ぶ棚橋と次期防衛戦を戦うことについては「まあ、別にいいでしょ。V11の記録を持つ者同士で戦うのがいいんじゃない。V11にそんなにこだわり持ってないし、そんなにこだわりがあるなら止めてみれば」と挑発。棚橋を呼び捨てにしたことについても「今の棚橋弘至ほど、つまらないものはないでしょ。ケガして復帰して、ケガして復帰して。新しい最高の棚橋弘至で来てもらいたい。もう、上から目線ですよ。先輩だし、年上だけど、実力が伴ってない。休んで復帰してなんて、プロレスラーと思ってない。こっちは(年間)100試合以上やっている。休む人はリスペクトできない」とまで吐き捨てた。

 自信に満ちあふれた汗まみれの顔で、ずっと、その背中を追い続けてきた棚橋を呼び捨て。今回で防衛期間も1年10か月と自身の最長記録を更新。2016年6月の3度目のベルト奪取から次期防衛戦まで2年以上に渡って新日最高峰のベルトを保持し続けることが確実になった。それだけに、いつも「防衛期間とか連続防衛とか記録に興味はない。記録は、いつか誰かが破るものだから」と言い続けてきたチャンピオンに一つだけ、どうしても質問したくなったから、聞いた。

 「常に記録にはこだわらないと言ってきたが、今回の防衛で2年間に渡ってベルトを巻き続けることが確実になった。さすがに感慨深いのでは?」―。

 すると、汗もぬぐわないまま、じっと、こちらを見つめたオカダは言った。

 「これで1年10か月ですか? いくら、チャンピオンでい続けようと、記憶に残らなかったら意味がない。1日だけのチャンピオンでも、みんなの記憶に残った方がずっといいです」。

 そう、オカダはこう答えるに決まっていた。昨年8月、72分間に渡ってインタビューした際も「とにかく、いろんな人に知ってもらいたいです。プロレスを、オカダ・カズチカを。見てもらえないと戦っている意味もない。一生懸命戦っても、地球上で10人しか見ていなかったら、たまらないじゃないですか」。そう言っていたではないか。

 みんなに常に見ていてもらいたいから、オカダは絶対にケガをしないし、絶対に休まない。常に全力ファイトでプ女子の視線を集め続ける。そんな、今一番かっこいいレスラーは最後にこう言った。「V12どころか、本当にあっという間にV100いっちゃいますよ。誰か、俺を止めて下さい。長いこと、チャンピオンやっているけど、記録を作りたくてやっているんじゃないんです。素晴らしいプロレスを皆さんに届けたいだけなんです」―。

 そう、これこそが新日にカネの雨を降らせ続ける「レインメーカー」の本音中の本音。カネだけでなく、感動の雨もまた降らせることができる今が旬のプロレスラーから絶対に目を離してはいけない。見ないと損。心からそう思う。(記者コラム・中村 健吾)

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