ケンコバは眼中にないケンドー・ナガサキの七面相人生…金曜8時のプロレスコラム

スポーツ報知
ついに発刊された「ケンドー・ナガサキ自伝」

 「ケンドー・ナガサキ自伝」(辰巳出版、1400円+税)が19日に発売される。著者はもちろん桜田一男さん(69)。見本を読ませてもらったが、まさに世界を渡り歩いた昭和のプロレスラーの一代記だ。「仕事、金、女…“喧嘩屋”のセメント告白録!」という売り文句に偽りはない。

 桜田さんから「本を出すんだ」と聞いたのは、昨年3月だから、かなりの難産だった。これまで同社では、上田馬之助さんの「金狼の遺言」(共著、2012年)、「“東洋の神秘”ザ・グレート・カブキ自伝」(14年)、「キラー・カーン自伝」(17年)とアンチヒーローの自伝を出してきたが、日本での知名度では…と思っていただけに、今回の出版を素直に祝福したい。

 今では、お笑い芸人のケンドー・コバヤシ(45)の方がメジャーになってしまったが、桜田さんがいなければ、ケンコバの芸名は存在しない。桜田さんは「あいさつされたことはないな」と話していたが、それほど気にしていないのは、自伝を読むとよくわかる。「ケンドー・ナガサキ」というリングネームは初代ではないのだ。

 日本プロレスに来日した英国人の覆面レスラーが初代。子どもの頃、小学館の「プロレス入門」で見たことがある。元祖からヒントを得たブッカー(雇用主)のテリー・ファンクが米国転戦中の桜田さんに命名した。日本らしさを強調する「剣道」と「長崎」の組み合わせ。「髪型は、サムライの落武者のような感じにしてくれ。そして、顔にはペイントをするんだ」との“業務命令”だった。

 「俺はそれまで剣道など一度もやったことはなかったし、生まれも育ちも北海道だから長崎には縁もゆかりもない。日本人の俺からすれば、その2つを組み合わせることも意味不明なのだが、ブッカーに言われたら従うまでだ。プロレスビジネスとは、そういうものである」まえがきから奥深い言葉が並ぶ。

 編集人の佐々木賢之「Gスピリッツ」編集長(46)は「なかなか海外に行けなかった時代に、アメリカ、カナダ、中南米、ヨーロッパ、韓国と一人で渡り歩いてトップを取った。海外でのキャリアは、カブキさん、カーンさんにひけをとらない。日本プロレス出身で、今ではあり得ない体験談を残したかった。試合記録もすべて調べて時間がかかりました」と力を込める。

 日本プロレス時代の喧嘩屋伝説、韓国で「元祖タイガーマスク」に変身、天龍源一郎との相撲マッチ、カブキの覆面相棒「チャンチュン」として毒霧アドバイス、ドリーム・マシーン、ランボー・サクラダとしての訳あり来日、ミスター・ポーゴへの制裁、SWS誕生と崩壊、47歳でバーリ・トゥード挑戦…など興味深い話ばかり。

 米国人の妻子とは、しばらく会っていない。それよりも、自慢はフェイスブックでつながっている千数百人の友だち。元WWF(現WWE)世界王者のブレット・ハートらレスラー友だちが世界中にいるという。コーチしたことがあるWWEでニューヒロインになったASUKA(華名)から、友だちリクエストが来たことがうれしいようだ。

 「カブキ自伝」は電子書籍化され、日本語ながら海外でも読めるようになっている。「ナガサキ自伝」の電子書籍化は予定されていないようだが、日本でのニーズ以上に海外での拡散力があるのかもしれない。(酒井 隆之)

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