【巨人】引退の矢島、実家の梨園継いで“第2のゲンちゃん”目指す

スポーツ報知
実家の梨園でポーズをとる元巨人の矢島陽平さん(手前)と家族(後列左から妹・美野里さん、父・恒夫さん、母・文子さん)

 プロ野球界では、今年も多くの選手がユニホームを脱いだ。第二の人生を歩み始めた男たちを紹介する。セ・リーグ編では巨人育成・矢島陽平投手(27)の新たな挑戦に迫った。

 都内某所の大型家電量販店―。スーツにネクタイを締め、法被を羽織って冷蔵庫と洗濯機の営業をする巨人・矢島の姿があった。「営業って、めちゃくちゃ勉強することが多い。物というより、人でその商品を買うかが決まるんです。トークも磨かないといけないんですよ」。ほんの数か月前までプロの世界で戦っていた男は現在、派遣社員としてビジネスの経験を積んでいる。

 10月26日、戦力外通告を受けた育成右腕は第二の人生をスタートするため、腹を決めた。父・恒夫さん(70)に打ち明けた。「農業をやってみようと思うんだ」。実家は埼玉・加須市にある「矢島梨園」。年間約4万個(約15トン)の梨を生産。矢島の曽祖父の時代から60年以上続く老舗だった。

 1年目は3軍で32試合に登板し、1勝1敗11セーブ、防御率は1・53と結果を残したが、重なる右肘のけがに悩まされ、今季限りで引退した。「何をするか迷っていた」時に、梨を食べたことのある選手やファームのスタッフに「このまま梨園がなくなるのはもったいないよ」と後押しされて、新たな夢を抱いた。

 高齢となった恒夫さんが梨園の規模を縮小しようと思っていた矢先のことだった。矢島は「農業のことは何もわからないからとにかく、まずは外から勉強しよう」と考え、営業の仕事を始めた。将来は梨園のホームページ開設や経理的な作業にも役立てるためにプログラミングの勉強も開始。通勤時間を利用して、参考書を読みあさる毎日だ。「今の僕は小学生が将来プロ野球選手になりたいといっている状態。何とか35歳までに梨園に集中できるメドを立てたい」と抱負を語る。

 「プロ出身で農業をやってる方は河野さんぐらいしか聞いたことがない。いつかは話を伺ってみたい」。元巨人の中継ぎエースで現在は群馬でタマネギ農家に転身した「ゲンちゃん」こと河野博文さんへの“弟子入り”も思い描いた。「いつかは自分の作った梨を3軍でお世話になった首脳陣をはじめ、巨人で縁した人に食べてもらいたいですね」と“第2のゲンちゃん”。進む道は梨のように甘くはないが、歩みを止めるつもりはない。(長井 毅)

 矢島の父・恒夫さんは息子の決断に胸を熱くした。「うれしかったですし、私がやる気になりました。少しずつ(規模を)縮めていこうと思っていた70歳にもなってから。そういう話しになっていた矢先だったもので」。自身が育てた梨は埼玉県知事から昭和62年と平成9年に2度の「優秀賞」の表彰を受けた代物だ。

 梨園は先代から受け継ぎ60年以上がたった。「陽平がやれば100年も見えてくるね」と“大台突破”に期待を寄せる。「一つずつ壁にぶつかって覚えるしかないから。壁がないようだとだめ。その都度、階段を上っていってもらえれば」とエールを送った。

 ◆矢島梨園 〒347―0116 埼玉県加須市戸室1190 7月下旬から9月中旬にかけて「幸水」「豊水」「彩玉」「あきづき」の順に収穫される。甘みが強くみずみずしさが売り。

 ◆矢島陽平(やじま・ようへい)1990年6月16日、埼玉・加須市生まれ。27歳。小学2年から種足スターズで野球を始め、進修館高では甲子園出場なし。駿河台大からBFL神戸―BC福井―BC武蔵と進み、2015年育成選手ドラフト7位で巨人入団。今季年俸は250万円。家族は両親と妹。

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