【天皇賞・春 岩田騎手独占手記】3年ぶりG1制覇もレインボーラインが心配で…

スポーツ報知
苦悩の末に3年ぶりのG1制覇を飾った岩田だが、パートナー不在の表彰式に表情は複雑

◆第157回天皇賞・春・G1(29日・芝3200メートル、京都競馬場、良)

 第157回天皇賞・春は29日、京都競馬場の芝3200メートルで争われ、ゴール前でインをついた2番人気のレインボーラインが首差差し切り、10度目のG1挑戦で初制覇を飾った。ゴール後、歩様に異変を察知した岩田康誠騎手(44)=栗東・フリー=はウィニングランを行わず下馬。優勝馬が「右前肢ハ行」と診断される壮絶なVだった。スポーツ報知にコラム「熱血!競馬道」を寄せる岩田は、感謝の思いと衝撃が入り交じった自身3年ぶりのG1勝利を「独占手記」につづった。

 喜びはありませんでした。とにかく、レインボーラインのことが心配でした。久々にG1を勝たせてくれた最愛のパートナー。一緒に目いっぱい喜びを分かち合いたかった。なのに、激闘に終止符を打ち、先頭でゴールに入ったまさに瞬間、右前脚に違和感が…。

 最高の状態に仕上げていただきました。ベストを尽くす。自分の仕事を完璧にこなす。それさえできれば勝負になると。外枠でしたが、距離ロスのないインに潜り込むことだけを考えていました。乗った感じは、長距離が最適というタイプではなく中距離型。絶対に外を回るのは避けたかった。だから1周目の下りの前に、一瞬生まれた空間に飛び込み、ラチ沿いを確保できたのが大きかった。

 信じるだけでした。どんな距離、コース、馬場でも、最後は必ず使ってくれる鋭い脚を。2周目の下りを前に一気にレースが動き始めたときも、待ちました。リラックスして走れていたんで、我慢すればきっとすごい脚をつかってくれると。

 願いはかないました。最後の下りで勢いをつけると期待通りの伸び。外から内に切り替えた直線も、視界を遮ることのないスペースを貫くだけ。シュヴァルグランのインから並びかけると、もうがむしゃら。頑張ってくれ、頑張ってくれ! かわしたことは分かったんですが、ゴールですくんだというかガクッときたんで、そのことが心配で。とにかく無事で…と。

 診断結果は右前脚のハ行。骨折などの大ケガではなかったことがせめてもの救い。笑顔が訪れることはないですが、レインボーラインをようやくG1馬にできたという達成感は、生まれました。

 自分にとっては15年桜花賞(レッツゴードンキ)以来のG1制覇。もう勝てないのでは、という思いに襲われ続けました【注】。眠れない日々、自暴自棄になったときも。この3年間のG1で2着の場面が夢に出てきてきたことなんてしょっちゅう。そのおかげで、髪に白いモノが一気に増えました。

 だけど、だけど。こんな自分でも、応援してくださる方がいらっしゃいます。その方々のために勝ちたい。この思いが支えになりました。そんなサポートをしてくださる方が、三田オーナーであり浅見先生です。特に浅見先生は結果を出せなくても、何も言わずに乗せてくださる。任せられているのに…。こんな歯がゆい思いにようやく終止符を打てた。少しは、ほんの少しは恩返しができた。本当に本当にありがとうございます。

 ケガの症状などは分かりませんが、また一緒にG1の舞台で勝負がしたい。笑顔に包まれたウィナーズサークルへ、天皇賞馬レインボーラインと一緒に戻ってきたい!(JRA騎手)

 【注】15年桜花賞V後のG1成績は【05250】。

 ◆岩田 康誠(いわた・やすなり)1974年3月12日、兵庫県生まれ。44歳。91年に地方の園田競馬でデビュー。兵庫のリーディングを4度獲得し、06年にJRAへ移籍。11、12年はJRA賞最多勝利騎手、14年は同最多賞金獲得騎手に輝く。今年30勝で通算1483勝。重賞はG1・25勝を含む92勝。

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