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1年生サッカー記者がカタルーニャ独立問題で思い出す「アルバニア人を殺せ」の大合唱

2017年10月12日16時0分  スポーツ報知
  • スペインはカタルーニャ州の独立問題で揺れている(ロイター)

 バルセロナはどうなってしまうのだろう。今月1日、本拠でのラスパルマス戦が無観客で行われた。バルトメウ会長は「世界に向けて憤りを示す必要があった。空席の映像が世界174か国で流れることで我々の責任が果たせる」と意義を強調した。

 スペインのカタルーニャ自治州が本国政府の承認がないまま、分離独立の是非を問う住民投票を実施した。「暴動で800人以上が負傷」「独立反対派の約35万人が抗議デモ」などといった現地報道を目にする。仮に独立が承認されれば、カタルーニャに本拠を置くバルセロナはスペインリーグ脱退となる可能性もある。本来は切り離されて考えられるべきサッカーと政治が、複雑に絡み合っている。

 国家間の独立問題が、最悪の形でサッカーに影響した瞬間に接した経験がある。子供たちにサッカーを教えながら各国を放浪していた入社前。2014年10月14日、私はセルビアのホームで行われた欧州選手権予選・セルビア対アルバニアを観戦した。「コソボ独立問題」で両国は激しく対立。国連加盟国の多くはセルビアからのコソボ独立を認めているものの、セルビア政府は自国の一部だと主張している。コソボ住民の大半はアルバニア系の人々。両国には深い溝があった。

 試合前からセルビアのサポーターが、チャント(応援歌)を大合唱していた。隣席の青年が物珍しそうに東洋人の私を見て、一緒に歌うよう促した。セルビア語は分からなかったが、見よう見まねで歌った。彼は屈託のない笑顔で喜んでいた。

 アルバニアの国歌斉唱は、地鳴りのような罵声にかき消され、前奏さえ聞こえない。CKを蹴るアルバニア選手には、爆竹が投げつけられた。驚くことに、注意を促す場内アナウンスも流れない。スタジアムは無法地帯と化していた。

 前半終了間際、1台の小型無人機「ドローン」がスタジアム上空に現れた。コソボ独立を祝うメッセージが、くくり付けられていた。スタジアムに怒号が響き渡った。セルビアの選手が回収し、歓声を浴びた。すぐにアルバニア選手が複数、不満をあらわにしながら、その選手に詰め寄った。興奮が伝染し、数百人のサポーターがピッチ内になだれ込んだ。殴り合いが起こり、石、椅子、爆竹…などが飛び交った。審判団は試合中止を宣告した。

 国の誇りを背負うのはいい。ただ、政治の恨みや憎しみをピッチで晴らそうとするような行為は、試合の価値をおとしめる。まだ半人前の記者だが、サッカーファンの一人として、そしてセルビアで惨状を目撃した者として強く思う。

 大声で歌ったセルビアのチャント。後に意味を知った。「アルバニア人を殺せ」だった。苦い思い出。いや、一生の後悔である。(記者コラム・岡島 智哉)

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