「1%でも2%でも勝つ可能性を求めるための結論」…田嶋幸三会長の一問一答全文

スポーツ報知
ハリルホジッチ監督の解任を発表した田嶋幸三会長

 6月14日開幕のサッカーW杯ロシア大会に出場する日本代表のバヒド・ハリルホジッチ監督(65)が9日、電撃解任された。

 この日午後、日本サッカー協会の田嶋幸三会長(60)が東京・お茶の水のJFAハウスで会見し、発表した。W杯出場決定後に代表監督が解任されるのは史上初。後任監督には西野朗技術委員長(63)が決定。2か月後に迫ったW杯で指揮を執る。

 ◆田嶋幸三会長に聞く

 (冒頭に説明)

 「日本サッカー協会は4月7日付けでバヒド・ハリルホジッチ監督との契約を解除致しました。ハリルホジッチ監督には前任のアギーレ監督の契約解除の後、非常に短い時間でチームを作り、見事にW杯予選を突破するということを実行してくれました。彼は非常に真面目な性格でサッカーに熱い情熱を持ち、誰よりもサッカーを愛し、何よりもサッカーに時間を割き、そしてピッチの上では、その熱い気持ちを選手にぶつけてくれました。デュエル(戦い)という言葉。まさに日本のサッカー界に必要だった言葉を彼が植え付けてくれたと思っています。しかし、W杯の出場権(を得た)の後、様々な試合を行い、最終的にはおとといの契約解除という結果になってしまいました。試合の勝った負けただけで監督を更迭すると決めたわけではありません。皆さんのご意見があったから決めているわけでもありません。選手や様々な方の意見はもちろん聞きましたが、それで決めるわけでもありません。ただ、マリ戦、ウクライナ戦、この試合期間と後において、選手とのコミュニケーションや信頼関係が多少薄れてきたということ。そして、今までの様々なことを総合的に評価して、この結論に達しました。私は1%でも2%でも、W杯で勝つ可能性を追い求めていきたいと考えています。そのためにこの結論に達しました。新しい監督には内部からの昇格しかないという風に考えました。W杯までたった2か月であるということ、それを考え、内部で一番、このチームを見てきた方、西野氏を監督と決定しました。西野氏については、アトランタ五輪、柏レイソル、ガンバ大阪、そしてACLでの戦い、様々な国際経験も積んできていらっしゃいます。大会までたった2か月という期間ではありますが、現在、西野監督はスタッフを編成中であります。今週木曜日に全てのスタッフの編成、様々なスケジュールの決定を経て、皆さんに、またこの場で記者会見をしたいと考えています。これから新しい体制に移行するわけですが、我々サッカー協会はスムーズに新体制をスタートすることに全力を尽くします。今、我々がやらなければいけないことは日本サッカー界が結束し、監督、選手、コーチ陣、スタッフ、関わる全ての人々を全力でサポートすることだと思っています。そして、W杯というひのき舞台で彼らが120%の力が発揮できるよう準備していくことです。今こそ、これまで日本サッカー界が蓄積してきた英知を結集して、サポートしていくべきだと考えています。スカウティング、コンディショニング、メディカル、時間はありませんが、こういう時に日本人は力を発揮できるものと信じています。多くのサポーターやファンの皆さんにはご心配をおかけしています。そして、サッカーファミリーの皆さん、スポンサー、パートナーの皆さん、そして日本代表を支えている報道陣の皆さん、国民の皆さんの熱い期待に沿えるように私たちは全面的なサポートを惜しみません。皆さんとともにロシアW杯に臨むチームを支えていきます。引き続き、熱い応援をお願い致します」

 (ここから質疑)

 ―ベルギー遠征後、技術委員長である西野さん自身が一時は「現体制を続けていく」と明言されていた。それから急転、解任に至った経緯は?

 「まず、メディアの皆さんにウソをつくということではありませんが、私たちは、どの監督であっても常に様々なことが起こることを想定して、様々なことを考えた上で議論しています。契約解除という最終的な結論に至るまでにはW杯予選を突破した後、その前、様々な状況で議論してきました。西野技術委員長とも議論し、スタッフとも岡田(武史)副会長とも議論しながら、このチームが最善の方向に行くことをサポートしてきました。そうした中でウクライナ戦、マリ戦、このベルギー遠征はW杯にとって最後の重要な遠征でした。ハリルホジッチ・ジャパンが立ち直るいい方向にいくきっかけにしたいと、西野委員長は最後までハリルホジッチ監督を支えるように努力していたのは、皆さんご存じのように事実です。しかし、最終的にコミュニケーションや信頼関係の部分で(問題が)出てきてしまって、最終的なきっかけになったのは事実です。西野監督は日本サッカー協会の理事、技術委員長を先週、辞任されました。緊急の状況として私が最終的に西野さんを監督として選びました。どのようなスタッフにするかは監督に一任している所です」

 ―ハリル監督にはどのような状況で告げた?

 「4月7日、フランス時間の18時にパリのホテルで直接会いました。今まで彼と多くのミーティングをしてきましたが、皆さんからの様々な報道にすごく敏感な人で、そのたびに私とは話をしてきました。前に私は言ったんですが、『ハリルホジッチさん、メディアから、あなたに解任だとか、そういう情報を伝えるつもりは一切ない。言うなら私が直接言います』と。法務関係の方とちゃんと話した上でフランスに向かったわけですが、紙1枚でも構わないと言われましたが、彼が必死になって日本代表を強くしようとし、W杯の出場権を獲得したとう実績を考慮し、私は礼を尽くし、直接言うことを選びました」

 ―告げられた時の表情は?

 「びっくりしている(表情)というのが、私の印象です。まさか、言われるとはと、動揺、怒りもあったし。事実です。どうしてという理由も聞かれたのは事実です。あれもあった、これもあったと羅列するつもりは僕にはなく、事実として契約解除を伝え、選手とのコミュニケーションが足りないというのはお伝えしましたが、やめていただく方にその人を傷つけるというよりは、そこでしっかり線を引いたということをお伝えすることが大事だと思った。彼としては『満足ではない。なんでこの時期に』とおっしゃいましたけど、私としては、その理由をしっかり彼に伝え、少しでも日本が勝てるようにしたいと、その理由を伝えました」

 ―選手との信頼関係、コミュニケーション不足が判断理由?

 「もちろん、様々な意見があって、私たちも皆さん以上にその状況を把握しているつもりです。コミュニケーション、選手との信頼会見、こうあった、それが逆転してしまったのがマリ、ウクライナ戦と認識しています。西野委員長のみならず、様々なスタッフが打開しようとか新たな方法を取り入れようと議論してきたと私は報告を受けています。ハリルホジッチ監督がしっかり自分の方法とおっしゃってきたのも事実です。いろいろな議論があったが。しっかりと(溝を)埋める方向にできなかった。でも、トライしてきた、努力してきたのは事実です」

 ―W杯まで2か月のタイミングにはデメリットも大きいのにあえて変えたのは、状況はそれだけ危機的だったから?

 「その通りです。このタイミングだから西野監督になったと思っています。もっと前なら西野監督でなかったかもしれない。この時期で残り2か月しかないからこそ、この決断をした。そのくらいの状況になっていたという認識です。常に監督を変えるリスク、変えないリスクを比べながら議論してきました。変えないで必ず良くなる魔法があるなら、我々はその方法をとるかも知れません。リスクを考え、様々な観点から考えてきました。予選から常に監督をサポートするぞと考えてやってきたが、最後の最後のところで変わってしまったということです。タイミングとしては遅いじゃないかという見方もあるけど、ハリルホジッチ監督のチームをグッと固まれるようにしたいと3月も努力したが、残念ながら実現できなかったということです」

 ―西野監督は「ハリル流」を踏襲するのか? ガラリと変えるのか?

 「日本サッカーが一番大事にしないといけないこと。これまでやってきたことを全否定するものではない。西野監督がやりたいことを、やりたいスタッフで全力でサポートしていきます。我々が築き上げてきたスカウティングだったり、コレクティブに戦う日本らしいサッカーをやっていきたいと思っています。木曜日にぜひ、その質問をして欲しいと思っています」

 ―他に候補はいたのか?

 「最終的な段階で、内部からと考えていました。西野さん、手倉森(誠)監督、内部からはこの人たちかなと考えていました。常に他の人も考えていないといけないとは思っていましたが、今、他の名前を出すべきではないと思っています」

 ―ハリル監督は資質として、最終準備のエキスパートと言われた。西野監督も能力は疑いないが、短い準備になってしまうが?

 「最終的にいいチームにする。一緒になって互いにコミュニケーション取ってこそ、そのことがやれる。それができないと思ったから、この決断になった。ベースはそこです。緊急事態ということで西野さんにお願いした。内部、今まで準備を知っている人だからこそやるべきだと思った。3週間と短い時期だからこそ、西野さんにお願いした。得手、不得手とかそんなこと言っていられない。実質、集まれるのが3週間。みんなが集中してやれる。逆に長いことで摩擦など出るかも知れない。3週間でやれることを全てやるということで、この形になりました」。

 ―契約解除で法務的な話も終えている? ハリル監督の連れてきたスタッフはどうなる?

 「現在のところ、法務で相談したのはどういう形で解除の手続きが完結するのか、契約を途中で切る時、我々にどういう義務が生じるのかを話しました。ウクライナ戦の後に時間を要したのは、そうした点をしっかりやるためでした。その上で(ハリル監督に解任を)お伝えしにいったということです。法務上は必要なかったけど、彼に誠意をもって伝えたいと思って、自分の気持ちとして実行させてもらった。ハリル監督に伝えているのは、コーチのジャッキーさん、シリルさん、GKコーチのルガさん。この3名に関しては契約を解除しました。サッカーの場合、FIFAに言ったり、訴訟の可能性はゼロじゃないかも知れませんが、契約については誠意をもって今後も対応していくつもりです」

 ―日本サッカーが目指すべき道は?

「基本的な戦術ベースは一緒ですが、監督によって、戦術、やり方がが変わるのは事実。ハリル監督がやろうとした速い攻撃なあったのは事実で、必要なのも私たちは分かっている。選手たちがそれを全うできるかを、今までW杯で通用したもの、しなかったものをしっかり分析して、チームを作らなければならないと思っています。ベースには監督のやりたいサッカーは出てくると思うが、日本らしいサッカーが確立されている中で、しっかりボールをつないでいくサッカー。それは私の意見ですから、監督がどう思うかは木曜日に聞いて欲しいと思います。こういうサッカーが日本のサッカーだと言って、できるものではないと思っています。監督うんぬんでなく、その場その場で選手が一番いい方法を選択できるサッカー。我々が世界のサッカーにアダプトしていくことによって、自然と日本のサッカーになっていくんだと思っています」

 ―今回の解任での協会としての責任は?

「これをそのまま放置して私の責任がなくなるということではないと考えています。日本サッカー協会の会長として、どんなことにおいても日本のサッカーの発展を第一に考えないといけないと思ってきました。今回、2か月前にこのような選択をしなければいけなかった。2か月後のW杯で勝つ確率を数%でも上げたい。監督変えて決勝まで行くぞとか、そんなドラスティックに変わることはない。それは分かっています。でも、むざむざと見ているわけにはいかなかった。この状況を打破するために、監督を交代するという決断をしたということです。ここまでになってしまっている責任はもちろんあるが、みんなが本当にハリルホジッチ監督をフォローしよう選手たちもしていた中で、バランスが崩れてしまった。その状況、状況で僕らは決断を変えざるを得ない。今まではハリルホジッチ監督に続投していただくという方向でサポートしなければならないと考えていたが、ここに来て、状況が変わったということです」

 ―西野監督に伝えたのは、いつ? 31日のメンバー発表は予定通りか?

 「先週前半、名古屋で会って打診しました。西野さんは慎重な方でいろんなことを考えた上で決断しました。ハリルホジッさんに言った後と考えていたので、最終的には土曜日の後に伝えました。メンバー発表は基本的な流れが大きく変わることはないが、それも木曜日にお伝えしたい。西野さんは慎重な方なんで(就任を)伝えた時は何もおっしゃらなかったです」

 ―この4年間で3人目の監督。代表強化の継続性は?

 「会長が変わるのは2年の任期ごとで自然なこと。技術委員長なども代わっているが、基本的な部分は変えてはいけないと思っています。育成とか指導者要請とか、いい方向に修正して改善することは必要。今後も人が代わろうと、それは実行していく。頻繁に代わることはいいことではないが、その都度、事情があるわけで一概に全ていけないとは言えないと思います」

 ―ハリル監督との摩擦とは具体的に?

 「協会との摩擦はあったとは思っていません。ハリルホジッチ監督は合宿が終わると、会長室に来てくれて、よく話をしてくれました。サッカーに対する考え方はあるけど、私が聞くのではなく、技術委員長やコーチ陣が話すもの。選手やスタッフとの摩擦は当然少なからずあるもの。把握しつつも今回は度を越してしまったということで今回の決断に至ったということです。協会との摩擦はあったとは思っていません」

 ―選手に聞き取り調査をした?

 「コミュニケーションや信頼関係がなくなるのは一つの象徴的なこと。一つの引き金になったのは間違いないし、具体的なことも選手から話は聞いているが、僕はそれを鵜呑みにするえあけでなく、全体的な話を聞いた上で動いてきました。その結果、最終的にこうした結論を出さざるを得ないことにマリ戦、ウクライナ戦後になったということです」

 ―こうした本大会直前の解任でグループリーグを突破した例はほとんどないが?

 「我々が(W杯予選の)初戦でUAEに負けた時は(最終予選の)初戦で負けたら突破できないと皆さんに言われた。この時点で代えて、すぐ突破できる訳ではないでも、僕は代えないで、むざむざ見ているわけにいかなかったということ。少しでも勝つ可能性を追い求めて、この結論に至ったということです」

 ―ハリル監督と選手は何か月も前からコミュニケーション、信頼関係がなかったのでは?(技術委員長の)西野さんにも責任があったのでは?

 「皆さんは一部の選手からコミュニケーションのことを聞いて、そう言っているのではと思います。一分選手からそういう意見出ていることも把握していた。(昨年の)年末には東アジア選手権・韓国戦大敗の後も、その議論をし、多くの情報を得ました。誰がやったらいいんだという議論した結果、その時は続投という選択をしました。その時も西野さんは最後までハリルをサポートしました。だから、ロイヤリティーがある。残念ながら、こういう結果になったが、最後までサポートしてくれた西野さんだから、こういう選択になった。最後までサポートしたからこそ西野さんを選んだということです。協会がやるというより、技術委員会やスタッフの中でやること。選手とも話したが、選手は分かっています。本当に内部の人が変えようとしないと、変わらない。最後まで残念ながら改善できなかったのが、この結果になったといことです」

 ―「W杯を知っていることが代表監督の選択肢」と言っていた。西野監督という選択には矛盾があるのでは?

 「ザッケローニ監督が成果を出せなかったことの反省、技術委員会の反省が『W杯を指揮していない』という指摘があった。それで指揮経験のある、アギーレ、ハリルホジッチとW杯で素晴らしい成果を上げている人を選んできた。でも、ここは緊急事態になってしまったということ。最後までハリルホジッチ監督をサポートしてきた西野さんを選んだということです。今、外部全く関係ない人を連れてきての方がリスクが大きいとなったということです。このロジックを続けていくと、岡田監督以外は日本代表の監督できなくなるということだから、W杯後は考えないといけないと思った」

 ―西野監督の契約期間は?

 「ロシアW杯まで。(西野監督の後任の)技術委員長は今、人選している木曜までに(名前を)出したいと思います」

 ―マリ戦、ウクライナ戦後、会長としては解任を決めていた?

 「ウクライナ戦前はシミュレーションだった。法務的手続き考えたことはなかった。それくらい、ハリルホジッチ監督を信頼していた。マリ戦、ウクライナ戦後、最終的な決断鳴ると思って情報収集した後、様々なことを分析して、この結論に至った。最終的な意思決定は会長の専権事項だと、認識していました。よく漏れなかったなと思うくらい、いろんな人に相談しました。ただ、最後は緊急を要する決断で私が決めた。緊急を要する決断ですから」

 ―W杯ベスト16入りを達成できなかった場合の会長自身の責任は?

 「この(解任という)決断をしなければ、私の責任は無かったのか? その時、その時、決断しなければ。辞める辞めないを軽々に言うべきではないが、1%でもベスト16に入れる可能性を高める、そのための決断をした。それが私の責任だと思ってます。技術委員会が機能していなかったというのは、全くそんなことありません。監督主導のサポートをしっかりしていたから。責任はその都度、考えないといけない。責任を恐れて何もしないのではなく、今の状況で少しえも勝つための決断をしていくのが、私の責任だと思っています」

 ―ハリル監督は「メンバー発表は2段階」と言っていたが変更は?

 「変えるつもりはないが、どこで23人にするかなど、木曜日までにお伝えできればと思います。ありがとうございました。この危機をいい方向に持っていきたいと思っています。サッカー協会、皆さん応援して下さっている方々、日本が団結していく、いい方向にしたい。残念ながら、違った方向でしたが、今後、ぜひ応援よろしくお願いします」

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