井上尚弥、112秒で3階級制覇「これがボクシング、怪物アピールできた」

スポーツ報知
1回、井上尚弥が左ボディーでマクドネルからダウンを奪う(カメラ・堺 恒志)

◆プロボクシング ダブル世界戦▽WBA世界バンタム級(53・5キロ以下)タイトルマッチ12回戦 ○井上尚弥(1回1分52秒 TKO)ジェイミー・マクドネル●(25日、東京・大田区総合体育館)

 WBA世界バンタム級2位・井上尚弥(25)=大橋=が、同級王者ジェイミー・マクドネル(32)=英国=に1回1分52秒でTKO勝ちした。日本最速16戦目で国内ジム所属6人目の3階級制覇を、世界戦自己最速112秒のスピードKO。次戦は他団体王者とトーナメント方式で争う「ワールド・ボクシング・スーパーシリーズ(WBSS)」に殴り込みをかける。井上の戦績は16勝(14KO)、マクドネルは29勝(13KO)3敗1分け1無効試合となった。(観衆4000)

 10年間無敗の王者を一瞬で葬った。1回。井上は左フックでぐらつかせ、続けざまに左ボディー。80秒でダウンを先取し、直後に13連打で112秒の圧勝KOだ。全米&全英で生中継のリング。「これがボクシングです! 怪物ぶりをアピールできました!」。過去の日本人のバンタム級王者の最速KOは、09年長谷川穂積の148秒。歴代の名王者をしのぐ圧巻の強さだ。

 国内最速の3階級制覇で、3階級ともKO奪取は日本人初。日本人による英国人王者への挑戦は過去6戦全敗だったが、「連打の時は怒っていた」と連日遅刻で無礼な態度を取った相手に制裁を下した。世界戦での6試合連続&通算10度目のKO勝利はともに日本歴代トップタイだ。

 自身過去最大の体格差をものともしなかった。王者は水抜きで大幅に減量し、前日計量はヘロヘロ。53・3キロでパスすると、試合直前は65・3キロと一晩で12キロも増やしてきた。井上は6キロ増の59・5キロ。2階級ほど体重差があり、身長は王者が10・3センチ、リーチで11・4センチ上回る。それでも「体が鈍るし、デメリットしかない」と相手の驚異の増量を一蹴。自身にとって適正階級のバンタム級に「パワーはものすごく感じた。エネルギーが満ちあふれていた」と過去最強の井上が生まれた。

 イメトレの方法が、ひと味違う。「いつも相手をメチャクチャ強いとイメージする」。脳内の敵は常に最強。何をしても勝てないと思うくらい強い相手を想定する。試合9日前には「マクドネルにボディーが当たらないんじゃないか」と漏らした。これで実際にリングで拳を交えれば、全ては想定内。貪欲に強さを求め、自らを追い込んだ。

 王座奪取で今秋のWBSS参戦が決定。各団体が承認すれば、王者同士のベルトの奪い合いが始まる。「今まで以上に最強がいる。優勝したい」。日本のモンスターはどこまで強くなるのか―。井上にしか描けないボクサー像がそこにある。(浜田 洋平)

 ◆ワールド・ボクシング・スーパーシリーズ(WBSS) 欧州を中心に開催される賞金争奪トーナメント。昨秋からスーパーミドル級とクルーザー級で行われているシーズン1は各階級8人が出場し、賞金総額55億円(優勝11億円)と超高額に設定。3階級で今秋開催予定のシーズン2でバンタム級からは空位のWBC以外からWBA王者の井上、WBAスーパー王者ライアン・バーネット(英国)、IBF王者エマニュエル・ロドリゲス(プエルトリコ)、WBO王者ゾラニ・テテ(南アフリカ)が出場予定。

 ◆井上尚弥 記録あらかると

 ▽3階級制覇 国内ジム所属選手では、16年9月の長谷川穂積(真正)以来、6人目。プロ16戦目での達成は15年4月の井岡一翔(井岡)の18戦目を抜いて国内最速で、無敗での達成は初めて。全てKOでの3階級制覇の達成は、ホルヘ・リナレス(ベネズエラ=帝拳)に並び、日本人では初。

 ▽バンタム級最速KO 1回1分52秒TKO勝ちは国内のバンタム級世界戦では最速。09年7月のWBC王者・長谷川穂積の1回2分28秒TKO勝ちを更新。

 ▽日本人の世界戦1回KO 井上の1分52秒は63年9月の世界フライ級・海老原博幸(協栄)の2分7秒を抜き歴代5位。最速は92年4月のWBAスーパーライト級・平仲明信(沖縄)の1分32秒。

 ▽世界戦6連続KO WBA世界ライトフライ級で日本記録13度防衛の具志堅用高(協栄)に並ぶ日本歴代1位タイ記録。

 ▽世界戦通算10度目KO WBA世界スーパーフェザー級スーパー王者の内山高志(ワタナベ)に並ぶ日本歴代1位タイ記録。

 ▽英国人世界王者に初勝利 過去6度5人の日本人が英国人王者に挑戦するも全敗だった。

 ◆井上 尚弥(いのうえ・なおや)1993年4月10日、神奈川・座間市生まれ。25歳。相模原青陵高でアマ7冠など通算75勝(48KO・RSC)6敗。2012年10月にプロデビューし、13年8月に日本ライトフライ級王座奪取。同12月に東洋太平洋同級王座獲得。14年4月にデビュー6戦目でWBC世界ライトフライ級王座を獲得。同年12月にWBO世界スーパーフライ級王座を奪取。身長165・2センチの右ボクサー。家族は咲弥夫人と1男。

 ◆国内ジム所属選手の3階級制覇 16年9月の長谷川穂積(真正)以来6人目。プロ16戦目での達成は、15年4月の井岡一翔(井岡)の18戦目を抜いて国内最速。大橋ジムからは15年12月の八重樫東に続き2人目で、同じジムからの複数輩出は日本初。全戦KO決着はホルヘ・リナレス(ベネズエラ=帝拳)に並び、全勝は日本人では初の快挙。

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