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「新・山の神」柏原竜二の引退と箱根駅伝論

2017年4月13日16時0分  スポーツ報知
  • 「新・山の神」と呼ばれた東洋大・柏原竜二

 東洋大時代に箱根駅伝5区で4年連続区間賞を獲得し「新・山の神」と呼ばれた柏原竜二(27)=富士通=が3日、現役引退を発表した。

 東洋大陸上競技部OBの私にとって、彼は“偉大なる後輩”。2009年1月2日の出来事は忘れられない。

 第85回箱根駅伝往路。私は戸塚中継所で取材を終えた後、東洋大の2区を走った山本浩之(当時4年、現コニカミノルタ)と一緒に箱根・芦ノ湖に向かった。小田原駅でタクシーに乗車した時、ちょうどラジオは柏原が首位の早大から4分58秒後の9位で小田原中継所をスタートしたことを伝えていた。当時1年生の柏原は箱根山中に入ると、先行する選手を次々と追い抜いていった。「マジか!?」。裏道を走るタクシーの車内で山本と熱くなった。柏原は鮮烈な箱根デビューを飾り、東洋大に悲願の初優勝をもたらした。

 私が鉄紺のタスキをつないでいた頃、東洋大は低迷していた。3区を走った3年時の1991年大会は最下位でタスキをもらい、最下位で渡した。4年時は予選会で敗退し、45年ぶりに本戦出場を逃した。その母校がついに箱根路を制した。「落ち着け」。取材現場で私は自分に言い聞かせるのに必死だった。

 それから、8年。柏原がランニングシューズを脱いだ。

 「箱根駅伝で得た精神的なものを将来、実業団ではマラソンで生かしていきたい。今、世界では2時間9分、8分では遅いと言われてしまう。6分台を狙いたい。そして、将来的には5分台、4分台を目指していきたい」。東洋大4年時、柏原が語った意欲的な言葉をはっきりと覚えている。一記者としても一個人としても期待していたが、戦いを終えた今、彼の決断に言うことは何もない。

 柏原だけでなく、箱根駅伝で活躍した選手が大学卒業後、箱根駅伝のインパクトを超える活躍をできないまま引退すると、箱根駅伝の弊害論が沸き上がる。いまや新春の風物詩と言えるほど注目度が高まったイベントの宿命なのかもしれないが、本当にそうなのだろうか。

 箱根駅伝は、多くの小中学生にアピールし、長距離走という(球技などに比べれば地味な)スポーツの競技人口の裾野を広げることに一役も二役も買っている。「もし箱根駅伝がなかったら、今の日本の長距離、マラソン界はもっと悲惨な状況になっているはず」と青学大の原晋監督(50)は話す。デメリットよりメリットの方がはるかに大きいと思う。

 問題は、箱根駅伝を卒業した社会人ランナーのフィールドが箱根駅伝より盛り上がっていないことだろう。箱根駅伝と同等、あるいはそれ以上に注目される長距離走のイベントは4年に一度の五輪だけ。盛り上がっている箱根駅伝を非難するよりも、社会人ランナーのフィールドを盛り上げるために尽力することが建設的ではないか。

 箱根駅伝OBの端くれで、現在は箱根駅伝担当記者という立場だけで言っているわけではない(もちろん、箱根駅伝に対する思いは強いけど)。日本の2大人気スポーツを見てほしい。

 まず野球界。日本の高校野球は盛り上がっているが、それ以上の存在としてプロ野球がある。

 サッカー界もそうだ。かつて最も観客を集め、注目されたのは全国高校サッカー選手権の決勝戦だった。しかし、1993年にJリーグが開幕すると状況は一変。Jリーグは高校サッカーをはるかに凌駕(りょうが)した。

 昨年末に対談した日本陸連長距離・マラソン強化戦略プロジェクトの瀬古利彦リーダー(60)=DeNA総監督=はとても興味深い話をしていた。

 「ニューイヤー駅伝(全日本実業団駅伝)の最終区を42・195キロにすればいい。アンカーで大方の勝負が決まるから、指導者も本気になってマラソン選手を育成する。ひとりで42・195キロをどれだけ粘って走れるか。本当に強い選手が生まれる。瀬古リーダーの発想力と行動力に期待したい。

 強化策は駅伝だけではない。昨年度の高校NO1ランナーの遠藤日向(18)=福島・学法石川高出身=は箱根路よりも社会人の住友電工で走ることを選択した。「トラックのレースはスタジアムに歓声が響いて気持ちが盛り上がる」と話す。選手たちの気持ちがさらに盛り上がるように、もっと多くの観客が陸上競技場に足を運ぶような施策を、陸上競技に関わる全員が考えるべきだろう。

 東洋大で柏原の2学年後輩だった設楽啓太(25)は3月限りで所属していたコニカミノルタを退社。新しい環境で心機一転し、2020年東京五輪に向けてメラメラと燃えていると聞く。私は箱根の山より高い山を目指すランナーを注目することで微力ながら彼らの追い風になれれば、と思っている。箱根駅伝を超えてほしい。(記者コラム・竹内 達朗)

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