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支度部屋で記者が群がる“有言実行”阿炎のコメント力

2018年2月8日16時0分  スポーツ報知
  • 阿炎

 元横綱・日馬富士関の暴行問題など昨年末からの騒動で揺れた大相撲。白鵬、稀勢の里の2横綱が途中休場した2018年初場所の主役は6年ぶり平幕Vのジョージア出身・栃ノ心だったが、土俵を盛り上げた力士はほかにもいる。新入幕で敢闘賞を受賞した阿炎(あび、錣山)だ。しこ名には、師匠・錣山親方(元関脇・寺尾)の「阿修羅のように強く、燃えて戦う」との思いが込められている。

 埼玉・越谷市出身の23歳。187センチ、132キロの新鋭は昨年12月の番付発表時に「三賞を取る」と宣言して周囲を驚かせていたが、千秋楽で難敵・松鳳山を押し出して10勝目。受賞条件の二ケタ白星をクリアして“有言実行の”敢闘賞を手に入れたのだからスゴイのひと言。テレビの受賞インタビューでは笑顔のVサインまで飛び出した。

 そして何より、得意の突き押しにも劣らないコメント力が彼の魅力でもある。「言霊(ことだま)ってありますよね。僕は小心者なので、何も言わずに相撲を取ると負けちゃいそうで。大きなことを周囲にもあえて言って、自分にプレッシャーをかけて気合を入れているんです。僕は取組に負けて、記者さんが話を聞きに来なくなるのが嫌なのでどんなときもしっかりとしゃべります。横綱(鶴竜)を見習っています」。勝っても負けても多くを語らない力士が珍しくない中、支度部屋では日に日に報道陣の輪が増えていった。秀逸だった初場所のしゃべりっぷりを振り返ってみたい。

 初日、序盤の優勝争いにも加わっていた大栄翔の前に黒星スタート。「立ち合いから緊張して何も覚えていない。マジで悔しい。今日は予行演習、僕の初日は明日からということに…ならないですよね。あー、悔しい」。付け人から、勝てばテレビインタビューが予定されていたことを知らされ、「聞いてないよ~。そういうの、早く言ってよ!」

 3日目、豪風から待望の初白星をゲット。「やっと落ち着いて相撲が取れた。勝ったことがうれしすぎる。初めての懸賞は師匠に渡します。まだ三賞、三賞って言ってもいいですよね?」

 7日目、錦木を破って白星先行の4勝3敗。「ここで調子に乗らないようにしないといけない」。今日は殊勝なコメントだけだなと報道陣に思わせつつ、「新入幕なので疲れがたまり始めてきた。朝7時に起きているのが今は7時20分。食欲もなくなってくるんです。そんな時に頼るのが子供風に言うと『ちゅるちゅる系』です。うどんとか麺類っす」

 締めは千秋楽後の支度部屋。敢闘賞の感想を求めて報道陣が幾重にも取り囲んだ。「デカいことを言い続けて良かったです。少し“盛って”記者さんたちに話したつもりが、いつの間にか“盛り盛り”になってしまった。(敗れた)初日、2日目にもっといい内容だったらと思うと悔しさもある。14日目には琴奨菊関に負けた。上位陣とは力の差を感じた。まだまだ足りないことばかりです」

 再び真面目な受け答えで締めたかと思えば、隣席で取組を待っていた好調・逸ノ城の左肩を右手人さし指でツンツン。「来場所は上位の逸ノ城関と対戦したいなぁ」。さすがに苦笑いされていたが、その強心臓ぶりは大器の予感すら漂わせた。

 重なるアスリートの姿がある。記者は2014年、サッカーで当時J2だったカターレ富山を担当した。開幕前、現在ポルトガル1部リーグで活躍し、欧州強豪から興味を持たれるまでに成長したリオ五輪日本代表FW中島翔哉(ポルティモネンセ)が新加入してきた。当時はブラジルW杯直前。19歳の若手はいきなり「J2でも開幕戦からずっ~とハットトリックしたら日本代表に選ばれますよね?」と話しかけてきた。もちろん、無理難題で実現するはずもなかったが、「いずれW杯でプレーするつもりなので。その姿を想像しただけで毎日の練習が楽しくなるでしょ」と目を輝かせていたのを思い出した。

 有言実行を掲げ、自らを追い込むアスリート像には土俵も芝生の上も関係ない。ビッグマウスは言霊だ。純粋に相撲道を精進する「阿炎(あび)ロード」は春の大阪へと続いていく。楽しみがまたひとつ増えた。(記者コラム・小沼春彦)

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