【箱根駅伝出場21チーム紹介〈19〉】中距離専門の井上「心身鍛える場所」復路の切り札

◆上武大 前回15位(10年連続10回目)=予選会9位、出雲、全日本不出場=
上州空っ風に鍛えられた上武大は、しぶとい粘りの走りが持ち味だ。その中で中距離を専門とする井上弘也(4年)は異彩を放つ。「1500メートルで五輪メダル獲得」という野望を持つ男は「箱根駅伝は鍛える場所」と言い切る。節目となる10年連続10回目の挑戦で狙う悲願の初シード権(10位以内)獲得は、この奇才ランナーが鍵を握っている。
多くの学生ランナーが憧れる晴れ舞台は、井上にとっては“舞台裏”だ。「個人的には箱根駅伝を競技の中心にしていない。6月の日本選手権を重要視しています」と言い切る。
得意種目は1500メートル。2、4年時に関東学生対校2部で優勝。2年時には日本選手権で5位入賞を果たした。学生屈指のスピードランナーだ。「僕にとって20キロは適性距離ではない。でも、マイナスには考えていない。トラックシーズンに向けた足づくりとしてはプラス。箱根駅伝は注目されてプレッシャーもかかるし、心身を鍛えられる場所です」と冷静に語る。
決して箱根駅伝をおろそかにしているわけではない。「上武大駅伝部に在籍している以上、チーム最大の目標のシード権獲得に貢献したい。トラックシーズン中はチーム練習から離れて、自由に練習させてもらったので、その分、チームに恩返しをしたい」。1年時は1区19位、2年時は4区20位、前回は故障のため、メンバーから外れた。箱根路では結果を残していないが、今回は復路の切り札として期待されている。
「確かに扱いが難しい選手だが、考え方はしっかりしている。ラスト5キロを踏ん張れると見極めることができれば、7区で起用したい」と近藤重勝監督(43)は井上の特長と起用法を明かす。
来春の卒業後、渡辺康幸監督(44)が率いる住友電工に進む。野望は大きい。「究極の目標は20年東京五輪の1500メートルでメダルを獲得すること。短距離は桐生(祥秀)君(東洋大4年)が100メートルで9秒98を出して盛り上がっている。駅伝、マラソンは人気がある。僕は日本の中距離界を変えたいんです」と力説する。
箱根駅伝は「世界に通用する選手を育成する」という理念を掲げ、1920年に創設された。箱根とトラック。それぞれを割り切って取り組む奇才ランナーの姿勢は決して間違っていない。(竹内 達朗)
◆井上 弘也(いのうえ・ひろや)1995年7月4日、兵庫・宝塚市生まれ。22歳。中学校入学と同時に陸上部に入ったが「1年時は学校自体を休むことが多かった」ため、2年時から本格的に競技を始める。強豪の報徳学園に進むが、全国高校総体、全国高校駅伝の出場経験はなし。2014年、上武大ビジネス情報学部に入学。趣味は料理。家族は両親。170センチ、51キロ。
◆上武大 2004年創部。箱根駅伝は09年に初出場。総合の最高成績は10年の14位(往路最高8位、復路最高13位)。出雲駅伝は出場なし。全日本大学駅伝は3度出場して11年の6位が最高。駅伝部員は64人。タスキは黒にシルバーの縁取り。大学の主なOBはプロ野球オリックス・安達了一、DeNA・井納翔一ら。
◆戦力分析 2009年に箱根駅伝に初出場して以来、予選会はしぶとく突破するが、本戦では苦戦が続き、シード権を獲得したことはない。今回は予選会個人20キロを59分台で走破した坂本、太田黒を軸に初の快挙を目指す。
「坂本は強い。安定感もある。1区で5番以内でタスキをつなぎ、チームに勢いをつけてほしい。その後は、2区の太田黒をはじめ『粘りまくり大作戦』で戦うしかありません」と、近藤監督はレースプランを端的に明かす。
上武大の建学理念は「雑草精神(あらくさだましい)」。タフな心身で過去最高(10年14位)を超え、そして、悲願のシード権獲得に挑む。