“和製ウサイン・ボルト”飯塚翔太のこだわりトライアングル「眠・癒・食」

スポーツ報知
“和製ウサイン・ボルト”として脚光を浴び続けてきた飯塚翔太(カメラ・森田 俊弥)

 2016年リオ五輪銀メダル、17年ロンドン世界陸上銅メダルと世界大会で2年連続して表彰台に乗り、存在感が光る男子400メートルリレーチーム。その中で不動の第2走者を務めてきたのが飯塚翔太(26)=ミズノ=だ。10年世界ジュニア選手権200メートルを制し、“和製ウサイン・ボルト”として脚光を浴び続けてきた長身スプリンターは、細かなこだわりの人でもある。睡眠、息抜き、食事の3つのテーマから、短距離エースの素顔に迫った。

 街を歩いていて、声を掛けられることも増えた。応援を肌で感じられるのもうれしい。飯塚翔太にとって、昨年は東京五輪に向けた大いなる弾みのシーズンになった。6月に100メートル自己ベストを10秒08に更新。そして8月のロンドン世界陸上は、リオに続く第2走者で銅メダルの歓喜を味わった。

 「個人種目(メインは200メートル)では、かみ合っていかずに苦しんだんですけど、世界陸上できっかけをつかんだというか、先が見えたと思っていて。もう少し上に行けるかな、という兆しが見えた。リレーは2年連続でメダルもとれて、僕としては充実していた1年でしたね」

 18年シーズンの準備期間となるこの冬。現状に満足せず、試行を続ける。週3回もレース用スパイクを履いた練習をこなしているのが大きな変化だ。例年、冬季の2~3か月はスパイクを履かずに過ごしていた。スパイク練習は地面からの反発を強く受けてスピードが出る分、脚への負荷も高い。オフは脚を休めたい、と思っていた。

 「けがが多かったので、高校時代から冬は履かずにやってきました。でも、『殻を破らなきゃ』って。常にスピードを求めた練習をしたい」

 伏線は半年前にある。昨年6月の布勢スプリント(鳥取)。飯塚は100メートルで10秒08、10秒10の好記録を2本そろえた。それまでの自己記録は、10秒22。公認上限の2メートル近い追い風が吹く好条件もあり、急激にタイムを縮めた。だが―。

 「翌日から、1週間くらい筋肉痛で動けなかったんですよね。もちろん、(本職の)200メートルと100メートルではダメージも違いますけど、本来は高いパフォーマンスを出した翌日も普通に走れないといけない」

 スパイクを履いたスピード練習と並行し、上半身の強化にも取り組む。さらに、今冬の目玉とするのがメキシコでの高地合宿だ。標高約2000メートルで気圧が低く、低地よりもタイムが出やすいため、目指す高スピードを体感できる。酸素濃度も薄く、心肺機能や持久力の向上も望める。

 「スピードを求めているし、体に負荷がかかるのでウェートトレの体づくりにも良い。筋持久力も必要だし、必要な部分にマッチしているんですよね。チームトレーナーにデータをとってもらいながら、やろうと思っています」

 シーズン中に気づいた課題へ、真摯(しんし)に向き合う冬。体が資本のスプリンターの戦いは、寝る前から始まっている。スマートフォンの睡眠管理アプリを使って、「眠りの深さ」「いびき」「睡眠時の心拍数」などを数値化。統計をとり、どのように寝れば良質な睡眠がとれるか工夫している。

 「ゲーム感覚でやっていますね。いびきを録音して聞くこともできるし、起きる時のアラームも、眠りの波が浅い時に鳴って起こしてくれるので、スッキリ目覚められますね。そういえば世陸の時も、(睡眠の質が)98%とかで。試合で良い時は、良く眠れていることが多いですね」

 安眠も、心が穏やかであればこそ。飯塚にとって外せない安らぎスポットが、故郷・静岡にそびえる富士山だ。多い時で週2回ほどの新幹線移動がある。雪を頂いた富士を、欠かさず写真に収める。ちなみに座席の車窓からではなく、必ずデッキに出て、乗降口の大きな窓から撮るのが流儀だという。

 「三島を出て、新富士の手前で富士川を渡る時に撮るのがイチ押しですね。遮る物が何もなくて、一番きれいに見えます」

 自然を愛する飯塚は、都内で過ごす休日にも散歩で息抜きする。浜離宮や小石川後楽園など、都内にある9つの庭園を巡れる「都立9庭園共通年間パスポート」(4000円)を購入した。

 「すぐに元が取れちゃいます(笑い)。自然の中を歩いたり、非現実的な場所に行くのが好き。珍しい花が咲いていると聞いたら行ってみますし、電車に乗って思いついた駅で降りてみたり。ぶらり旅ですね」

 食へのこだわりも欠かさない。自炊が基本。

 「体が一番変わるのが食事。本当にすぐ変わります。『体がおいしいと思うものを食べる』というのがモットーなので」

 米は玄米だけ。冬場は8時間かけて水を吸わせて炊く。手間はかかるが、栄養面を考えると外せない。

 「米は最初に触れる水が大事だと聞いたので、洗う時もウォーターサーバーの水を使っていますね」

お取り寄せも 鋳物ホーロー鍋として話題の「バーミキュラ」の高級製品を買って、イワシを骨まで軟らかく煮込んだりもする。肉は、低脂肪高たんぱくの馬肉を熊本から取り寄せるこだわり。睡眠、息抜き、食事。全てがそろい、強じんな体はできている。

 18年シーズンの一番大きな目標が、8月にジャカルタで開催されるアジア大会。

 「個人では(200メートルで)金メダル。リレーでは、マイル(1600メートルリレー)陣にも良い影響を与えて、みんなでやっていけるような雰囲気がつくれれば良いですね」

 100メートル、200メートルは昨季に続いて両立させていく考えだ。

 「200メートルは自己ベストを目指したい。100メートルは、安定して(10秒)1台が出せるようにできれば」

 19年にはドーハ世界陸上、そして2年後には20年東京五輪がある。

 「リレーは(金メダルの)期待に応えられるようにと、それに見合う個人の結果も出したい。現役中はできるだけ活躍して、たくさん(メダルを)集めたいですね」

 経験も体力も充実する26歳。キャリアのハイライトは、まだまだ先にある。(ペン・細野 友司)

 ◆飯塚 翔太(いいづか・しょうた)1991年6月25日、静岡・御前崎市生まれ。26歳。小学3年から競技を始める。藤枝明誠高3年時の2009年に高校総体200メートル優勝。12年ロンドン五輪代表。14年ミズノ入社。男子400メートルリレーで16年リオ五輪銀、17年ロンドン世陸銅。自己ベストは100メートル10秒08(17年)、200メートル20秒11(16年)。186センチ、80キロ。独身。

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