リオパラマラソン銀・道下美里、40代で驚異の世界新2時間56分14秒 東京パラで雪辱へ 

スポーツ報知
ヨガのポーズを楽しそうに披露する道下(カメラ・堺 恒志)

 2016年のリオデジャネイロ・パラリンピック女子マラソン(視覚障害)で銀メダルに終わって悔し涙を流した道下美里(41)=三井住友海上=が、20年東京パラリンピックで雪辱を果たす。昨年12月の防府読売マラソンでは、女子視覚障害者(T12クラス)の世界新記録となる2時間56分14秒をマーク。40代でピークを迎えたヒロインの熱い思いに迫った。(桃井 光一)

 故郷の下関市に近い防府読売マラソンで、身長144センチとひときわ小柄な道下が粘り抜いた。

 スタート時の気温は4・5度。小雪もちらつく厳しい寒さの中、ほかのランナーとの接触もあって最初の5キロは出遅れた。その後は「1キロ4分10秒」前後のペースを守り、2時間56分14秒でゴール。エレーナ・パウトワ(ロシア)が2015年にマークした2時間58分23秒を2分以上更新する世界新をマークしたが「位置取りや声掛けなど、伴走者ともっと打ち合わせをしていれば、序盤のペースや走りはよくなっていた」と反省点を口にした。

 今月22日の世界パラ陸上マラソン・ワールドカップ(ロンドンマラソンと併催)では2連覇に挑む。現在、日本ブラインドマラソン協会(JBMA)の強化選手として年間約20回の合宿に参加。2、3月に行われた千葉・富津市の合宿では、40キロ走やインターバル走(1キロ3分50秒を10本、リカバリー1分)などを順調に消化した。8月には視覚障害者の部が新設される北海道マラソンに出場。「北海道は東京の暑さ対策がテーマ。高温の中、最大限にパフォーマンスを引き出せるか見極めたい」と冷静に今後を見据える。

 角膜上皮直下にアミロイド沈着が生じて視力が低下する膠様滴状(こうようてきじょう)角膜ジストロフィーのため、中2で右目を失明。左目の視力も低下し、26歳で山口県立盲学校(現下関南総合支援学校)に入学後、考え方が変わった。弁論大会やNHKのど自慢大会に挑む学友たちと接し、「自分の意志と夢があれば共感してくれる人がいる。くよくよしていちゃダメなんだ」と痛感した。

 43歳で迎える東京パラリンピック。「世界最速」となって金メダルに近づいてきたが、「悔しくて涙がこぼれた」という銀メダルで立ったリオの表彰台は忘れていない。「加齢の心配はあっても、今度こそ、うれし涙で終わりたい。今まで私を理解して支えてくれた主人(孝幸さん)に金メダルをかけてあげたい」。夢舞台への思いは日増しに強まっている。「リオまでの私は一選手。でも、東京は障害者の代表として結果を出す。後輩たちに『諦めないこと、地道に努力すれば道が開く』ということを伝えたい」と力を込めた。

 ◆伴走・青山由佳「みっちゃんの夢を一緒に」

 リオデジャネイロ・パラリンピックと防府読売マラソンで、道下の伴走を務めた青山由佳(31)は、東海大陸上部で中長距離選手として活躍した。相模原市役所に就職後も競技を続け、13年の東京マラソンでは2時間47分21秒のベスト記録をマークしている。

 15年のJBMAの強化合宿で道下に初めて会った時の印象は「小さい! 明るい! 何て軽やかに走るんだろう」と驚き、鳥肌が立った。レースではガイドロープを道下は左手で、青山は右手で握る。手に伝わる感触から、「彼女は左手でリズムを取って走りますが、ヨガや体幹強化が実って最近は肩甲骨の可動域が広くなって、左手もしっかり振れるようになりました」と相棒の成長ぶりを喜んだ。

 出勤前の早朝ジョギングが日課で、月1~2回は合宿で道下と走り込む。「みっちゃんの夢を一緒にかなえたい。できることは何でもします」と誓った。

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