水泳から転身した秀才ライダー梶原悠未、幼少期からの考えるクセで賢く練習

スポーツ報知
 梶原悠未の私服姿とレーシングスーツ姿。印象が全く変わる(カメラ・泉 貫太)

 2020年東京五輪で自転車競技は新種目を加えて11種目が実施される。前週に引き続き紹介する、メダルの期待がかかるガールズライダーはトラック中距離の梶原悠未(21)=筑波大=。昨年12月のW杯第3戦で女子オムニアム日本勢初の金メダルを獲得した。自転車競技部のない筑波大で自ら練習メニューを考えながら世界で戦う思いに迫った。(大和田 佳世)

 大学生にしてトップアスリート。梶原の一日は濃密だ。朝6時から約2時間、サイクリング部に交じってロードに出て50キロほど走る。「人任せでやらされるんじゃなく、自分でやる意識を持ちたかった」と自転車競技部のない筑波大を選んだ分、自分で練習メニューを考える。朝から晩まで授業で埋まる日もあれば、空き時間ができる日は学内でウェートや室内バイクを漕(こ)ぐ。「いかに短時間で強度が高くできるか」を考え、日本代表スタッフの意見も取り入れて内容を決めている。

 自分に厳しく目標に突き進む姿勢は幼少期から育まれた。幼い頃から水泳に通い、同じプールで泳いだこともある北島康介に憧れ、五輪出場が夢だった。練習ノートに「(登竜門の)ジュニアオリンピック出場」とびっしり書き、達成のために何をすべきか常に「考えるクセ」がついた。ピアノ、習字など5つの習い事を掛け持ちし、学業はほぼオール5。時間の使い方、自分を客観的に考える賢さが自然に身についていった。

 中3の全国中学校選手権関東大会2位で全国大会に進めず、五輪を目指すのは難しいという立ち位置を思い知らされた。悔しさで泣きながら過ごしていたが、母・有里さんの「神様が何か重要なことを伝えているんじゃないの?」という言葉で、別な競技で五輪を目指す道に目が向いた。

 高校入学を機に部活で自転車競技に出会った。最初はペダルに靴を着脱することから戸惑った。入部1週間でバンクを走り周囲に「踏んで! 踏んで!」と言われても、全力で漕ぐことがどういうことかも分からなかった。0・1秒を争う水の世界と違い、3~5秒も縮まる自転車の世界は「結果が出て面白い」と感じ、ハマっていった。翌年春の高校選抜大会で3冠を達成。15年のジュニアアジア選手権ではロード、トラック合わせて5冠を獲得するまでに成長した。

 世界のトップと戦うようになってまだ2年。1日4種目を行い総合ポイントで争うオムニアムは相手選手の特長を把握した駆け引きが重要になる。金メダルを獲得した昨年のW杯第3、4戦は「レース中に無駄な足を使わない」と賢明に3種目で上位に入りポイントを加算。最終種目ポイントレースで周回ごとに掲示板で通過順位を確認し、獲得ポイントと順位を計算する余裕を失わなかった。

 しかし、強豪が出場してきた今年3月の世界選手権は8位で涙した。「駆け引きの難しさを感じた。展開を作る頭と経験が必要。同じ失敗は2度しないように。結果がよくても、反省点を一つでも多く挙げられるようにしている」。課題を洗い出して練習に還元する。その作業すら「楽しい」と感じている。

 夢は東京五輪の金メダルで終わらない。「欧州のロードレースチームに入って海外レースをもっと走りたいし、自転車競技の魅力を伝えたい」。自ら考え、歩んでいく道の先には無限の可能性が広がっている。

 ◆佐藤コーチは「戦うために生まれて来た」

 日本代表トラック中距離の佐藤一朗コーチ(53)は、梶原を「戦うために生まれてきた。ストイック」と評価する。高校時代に初めて見た時からパワーとスピードがあり、狭い隙間も怖がらずに突っ込んでいける。日本人の中では強いフィジカル、才能は抜きんでていたという。

 身体的な強さ以上に驚かされるのがメンタル面だった。自己管理ができ、一切妥協しない。貪欲に知識を吸収しようとする姿勢は「自分にもメダルに挑む覚悟、姿勢を問われている気がする」ほど気迫に満ちている。東京五輪のメダル獲得には経験値アップが欠かせない。集団で複数種目を走るため、力関係を考えた駆け引きや戦術が必要だが、18歳以上が参戦できる現在のカテゴリーでの試合経験はまだ足りない。「海外でもまれる必要がある」と期待を込めた。

 ◆梶原 悠未(かじはら・ゆうみ)1997年4月10日、埼玉・和光市生まれ。21歳。筑波大3年。同級生にリオ・パラリンピックのカヌー日本代表、瀬立モニカがいる。2013年に筑波大坂戸高入学を機に自転車競技へ転向。14年全日本選手権ジュニアでロードレース、タイムトライアル優勝。家族は父、母、弟。身長155センチ、56キロ。太もも回りは55センチ。趣味は読書で東野圭吾の作品が好き。

 ◆オムニアムの種目

 〈1〉スクラッチ 男子10キロ、女子7・5キロで一斉に選手がスタートし着順を競う。
 〈2〉テンポレース 男子10キロ、女子7・5キロで行われ、周回ごとに先頭者のみに1ポイントが与えられる。周回遅れの選手に追いつくと4ポイントが得られる。
 〈3〉エリミネーション 2周ごとに最下位の選手が脱落する。残り2人の勝敗は残り1周のレースで決まる。
 〈4〉ポイントレース 男子25キロ、女子20キロを中間ポイントを獲得しながら走る。周回遅れは追いつくと20ポイント、追いつかれるとマイナス20ポイントで勝敗を大きく左右する。

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