相撲協会、「女人禁制」の土俵も「緊急時、非常時は例外」

スポーツ報知

 日本相撲協会は28日、両国国技館で、土俵と女性に関わる協議を目的とした臨時理事会を開いた。「女人禁制」についての議論が再燃する中で、約1時間の意見交換を行った。終了会後に対応した芝田山広報部長(元横綱・大乃国)によると、「いますぐ結論という声に左右されず、公益法人として見解を示しました。すぐに(答えが)出るものではない。ゆっくり議論を重ねる」とした。

 また相撲協会は理事会で交換した意見を元に八角理事長が、今回の問題に対する談話を発表した。談話は以下の通り。

 〈1〉舞鶴市での不適切な対応について

 京都府舞鶴市で行った巡業では、救命のため客席から駆けつけてくださった看護師の方をはじめ女性の方々に向けて、行司が大変不適切な場内アナウンスを繰り返しました。改めて深くおわび申し上げます。

 舞鶴市の多々見良三市長の一日も早いご回復を心よりお祈り申し上げます。

 大相撲は、女性を土俵に上げないことを伝統としてきましたが、緊急時、非常時は例外です。人の命にかかわる状況は例外中の例外です。

 不適切なアナウンスをしたのは若い行司でした。命にかかわる状況で的確な対応ができなかったのは、私はじめ日本相撲協会(以下、協会といいます)幹部の日ごろの指導が足りていなかったせいです。深く反省しております。こうしたことを2度と起こさないよう、協会員一同、改めてまいります。

 〈2〉宝塚市に土俵下からあいさつをお願いしたことについて

 兵庫県宝塚市で行った巡業では、宝塚市の中川智子市長に、土俵下に設けたお立ち台からのあいさつをお願いしました。市長にご不快な思いをさせ、誠に申し訳なく恐縮しております。

 あいさつや表彰などのセレモニーでも、女性を土俵に上げない伝統の例外にしないのはなぜなかのか、協会が公益財団法人となった今、私どもには、その理由を改めて説明する責任があると考えます。

 この問題は過去にも議論されたことがありました。そうした折りに歴代の理事長や理事はだいたい次の3つの理由を挙げてきました。

 第一に相撲はもともと神事を起源としていること、第二に大相撲の伝統文化を守りたいこと、第三に大相撲の土俵は力士らにとっては男が上がる神聖な戦いの場、鍛錬の場であること、の3つです。

 第一の「神事」という言葉は神道を思い起こさせます。そのため、「協会は女性を不浄とみていた神道の昔の考え方を女人禁制の根拠としている」といった解釈が語られることがありますが、これは誤解であります。

 大相撲には土俵の吊り屋根など神道に由来するものが数々あり、協会はこれらの様式を大相撲の伝統文化を表すものとして大事にしております。また各地の由緒ある神社においては、大相撲の力士が招かれる奉納相撲が長年にわたり行われています。

 しかしながら、大相撲にとっての神事とは、農作物の豊作を願い感謝するといった、素朴な庶民信仰であって習俗に近いものです。大相撲の土俵では「土俵祭(神様をお迎えする儀式)、神送りの儀」など神道式祈願を執り行っています。しかし、力士や親方ら協会員は当然のことながら信教に関して自由であり、協会は宗教におおらかであると思います。歴代の理事長や理事が神事を持ち出しながらも女性差別の意図を一貫して強く否定してきたのは、こうした背景があったからです。

 先に述べた3つの理由は、私どもの胸中に混ざり合っています。ただし多くの親方たちの胸の中心にあったのは、第三の「神聖な戦い、鍛錬の場」という思いではなかったかと思います。

 昭和53年(1978年)5月に、当時の労働省の森山真弓・婦人少年局長からこの問題について尋ねられた伊勢ノ海理事(元幕内・柏戸)は、「けっして女性差別ではありません。そう受け取られているとしたら大変な誤解です。土俵は力士にとって神聖な闘いの場、鍛錬の場。力士は裸にまわしを締めて土俵に上がる。そういう大相撲の力士には男しかなれない。大相撲の土俵には男しか上がることがなかった。そうした大相撲の伝統を守りたいのです」と説明いたしました。

 のちに女性初の内閣官房長官となられた森山氏に、平成2年(1990年)1月に面会した出羽海理事(元横綱・佐田の山)は「女性が不浄だなんて思ってもいません。土俵は力士が命をかける場所ということです」と述べました。

 土俵は男が必死に戦う場であるという約束ごとは力士たちにとっては当たり前のことになっており、その結果として、土俵は男だけの世界であり、女性が土俵に上がることはないという慣(なら)わしが受け継がれてきたように思います。

 当然のことですが、私どもがこだわりを持つのは、大相撲の土俵に限ります。大相撲の原型となった勧進相撲が盛んになったのは江戸時代の中ごろです。関取の大銀杏(おおいちょう)と締め込み、部屋制度のもとでの男の共同生活などとともに、土俵は男の戦いの場という約束ごとも、江戸の大相撲以来の伝統です。力じまんの男たちが強さを追求するにはこれらの伝統のすべてが欠かせないと、私どもは先人から教え込まれてきました。

 平成16年(2004年)から3年間、東海大学体育学部の生沼芳弘教授らが大相撲の観客の女人禁制に関する意識調査を行ったことがありました。大相撲の土俵の女人禁制に反対しないと答えた人はどの年も6割以上、表彰の時に女性が土俵に上がれないことにも反対しないと答えた人は5割以上いらっしゃいました。

 この問題につきましては、私どもに時間を与えていただきたくお願い申し上げます。生沼教授らの調査から10年たちました。再度調査を行い、外部の方々のご意見をうかがうなどして検討したいと考えます。何とぞ、ご理解をたまわりたく存じます。

 〈3〉ちびっこ相撲で女子の参加のご遠慮をお願いしたことについて

 宝塚市、静岡市などの巡業で、ちびっこ相撲への女子の参加をご遠慮いただくようお願いいたしました。

 ちびっこ相撲は、以前は男子に限っていましたが、平成24年(2012年)の巡業の際に、女子を参加させたいとの要望が複数寄せられました。当時の北の湖理事長が「ちびっこ相撲は土俵の伝統とは別」と考え、要望に応えることにしました。

 ちびっこ相撲では、関取が胸を貸し、子供たちは関取にぶつかります。子供たちが転倒することもあるので、けがが心配です。女子の参加が増えるにつれて、関取から特に女子の顔に傷を負わせることを心配する声が上がってきました。また、関取は裸に稽古まわしという姿なので、小学生でも高学年の女子が相手になると、どう体をぶつけていいのかわからないと戸惑う声もありました。

 関取らの声を受けて、執行部は昨年秋、女子の参加はご遠慮いただこうとの方針を決め、春巡業の各地の勧進元へ伝達しました。しかし、どの勧進元に対しても、なぜ女子の参加をご遠慮いただくのか理由を説明しておりませんでした。そのせいで、女人禁制を子供にまで当てはめ、子供たちの楽しみを奪ったと、多くの方々から誤解される事態となってしまいました。誠に慙愧(ざんき)に堪えません。

 この春の巡業では、ちびっこ相撲でけがをしたとの訴えが2件、いずれも男子のご両親から寄せられました。

 こうした訴えが実際に寄せられた以上、ちびっこ相撲はいったん休止し、そのやり方を根本から見直したいと考えます。2、3人の子供たちが一斉に1人の関取にぶつかるやり方を改め、けがをしない安全なちびっこ相撲を考えて、再開をめざします。合わせて、女子の参加についても再検討いたします。

 おわりに

 この度は暴力等の問題に続き、土俵の女人禁制をめぐる混乱を起こしまして、誠に申し訳ありません。

 協会は「相撲文化の振興と国民の心身の向上に寄与する」ことを目的としています。協会が公益財団法人となった意味を十分かみしめながら、国技大相撲の運営に当たっていきたく存じます。土俵の厳しさを追求すること、ファンの方々に安全に楽しんでいただける工夫をこらしていくこと、できるだけ多くの方々に大相撲への理解を深めていただくことに尽力してまいります。

 大相撲を支えてくださるファンの方々に男女の区別はありません。幸いにして現在、大相撲の興行は大勢の方々からのご支持をいただいております。その大きな要因となっている女性ファンの皆さまには、日ごろから大変感謝いたしております。いつも応援をいただき誠にありがとうございます。今後とも女性の方々に一層愛される大相撲をめざしてまいります。

 皆さまのご指導、ご鞭撻(べんたつ)を何とぞよろしくお願い申し上げる次第でございます。

 

平成30年4月28日 公益財団法人日本相撲協会

理事長 八角信芳

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