筑波大・浅井教授、高梨沙羅の体支えた勝負服の作成裏話明かす

スポーツ報知
揚力と抗力を計算するために行った風洞実験の様子

 スポーツ工学を研究する筑波大人間総合科学研究科の浅井武教授(61)が、高梨沙羅らも着用したジャンプスーツ作製の“裏側”を明かした。スキージャンプは文部科学省により、メダル獲得が有望な競技を国が重点支援する「マルチサポート事業(現ハイパフォーマンス・サポート事業)」に指定。同事業のメンバーである浅井教授はジャンプの基礎技術やウェアを、風洞実験や数値計算によってデータ化し“勝負服”作製に協力してきた。(取材・構成=田中 雄己)

 現地で女子個人ノーマルヒル決勝を見届けた浅井教授は「気温が低く風が不安定の中、よく実力を発揮できたと思います。アスリートとして成長してるのは明らかだし、今後の成長も楽しみです」と高梨をたたえた。

 スキージャンプ女子は13年4月に「マルチサポート事業」で最も手厚い支援を受ける「A」に昇格。前年の12年には浅井教授が協力要請を受け研究を始めた。メーカー担当者と研究者ら数十人で構成するメンバーの任務は〈1〉基礎技術やウェアのデータ提供〈2〉現場のリクエストに応えることなど。「いかに空気抵抗を減らし、いかに揚力を増やすか」を追求し続けた。

 「板や手の角度を数度ずつ変えて、それぞれの揚力を計測」して基礎技術のデータを現場に提案しつつ、ウェア作製にも尽力した。一番大きな影響を与えるのは両足の板だが「板や用具はあまりいじってはいけない規則なので」。そのため2番目に影響が大きいボディー(スーツ)が重要になる。

 男子団体が金メダルを獲得した98年長野大会では、分厚く余裕のある“ダボダボ”スーツが主流だったが、飛びすぎを抑制するため規定が変更。現在では、それぞれの部位の余裕が3センチ以下と“ピチピチ”が義務づけられている。

 「生地は2種類(エシュラー社とマイニンガー社)しかなく、あまり差はない。現在進行形なこともあるので言えないことも多いが、スーツの縫い目の幅やカッティングを数センチ変えると、揚力や抗力はどう変わるか。関節回りの形を変えるとどうなるか、生地のパターン形状をいろいろ変えるとどうなるか」。数センチしか違わないパターンを風洞実験や数値計算で全てデータ化。割り出した数値を参考にしてスーツを作製した。現場のメーカー担当者はミシンと空気の通気量を計測する機械を持参。体形や天候に応じて、本番の直前まで細部の微調整を図っている。

 12年ロンドン五輪では自転車競技のウェアをサポートした。「自転車は0・1秒のためにしのぎを削る。ジャンプもそう。これをしたら(距離が)1メートル伸びるなんてことはない。一選手の後ろには膨大な人の思いが詰まっている」。14日にはノルディック複合個人ノーマルヒルで渡部暁斗(29)=北野建設=が初陣に臨む。平昌の空で結果を出した“勝負服”の戦いは、まだ終わらない。

 ◆浅井 武(あさい・たけし)1956年9月12日、名古屋市生まれ。61歳。筑波大大学院卒。学生時代は体育会蹴球部でDFとしてプレー。スポーツ科学、技術領域において国際研究プロジェクトやスポーツ企業との共同研究など多岐にわたる活動を行う。著書は「見方が変わるサッカーサイエンス」(岩波書店)など多数。

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