氷上での振る舞いに王者の風格…ソチ五輪担当記者が見た羽生の進化

スポーツ報知
男子SPで演技する羽生結弦

 66年ぶり五輪連覇を狙う羽生結弦(23)=ANA=が冒頭の4回転サルコーなどを完璧に決め、自己ベストに迫る111・68点で首位に立った。4年前のソチ五輪での金メダルを現場で取材した記者として、今回のSPには羽生の進化がハッキリと見て取れた。

 第一にハイレベルを極めた演技構成。ソチのSPは冒頭で4回転トウループを跳び、得点が1・1倍になる後半にトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)と3回転ルッツ+3回転トウループを跳ぶ内容だった。今回は予定していた4回転ループを回避したものの、冒頭で4回転サルコーを成功。さらに後半にも4回転トウループ+3回転トウループを跳び、2分50秒のSPで大技の4回転を2本も鮮やかに決めてみせた。昨年11月に右足首を負傷し、2か月間氷に乗れない日々を過ごした羽生。故障の影響を感じさせなかったことはもちろんだが、種類の違う4回転を軽々と跳んだ姿に4年間の努力と進化を感じさせた。

 そして、氷上での振る舞いには王者の風格が漂っていた。ソチ五輪シーズンもグランプリ(GP)ファイナルを初制覇するなど金メダル候補として名前は挙がっていたが、19歳で迎えた初めての五輪。羽生が尊敬するエフゲニー・プルシェンコ(ロシア)や日本代表の先輩である高橋大輔もおり、羽生はまだまだ若き挑戦者といった雰囲気が漂っていた。

 しかし今回は違う。ソチ五輪後は世界選手権を2度制し(2014年、17年大会)、GPファイナルはソチ五輪シーズンから4連覇。何度も世界の頂点を見た王者としての余裕、プライド、自信が表情から指先の動き、演技後のインタビューでの一言一言ににじみ出ていた。

 平昌で故障からの復活劇を見せた羽生。2011年3月11日、地元仙台での練習中に東日本大震災で被災。スケート靴のまま、泣きながらはって外に逃げた。自宅は半壊し、家族で避難所暮らしも体験した。地元のリンクが壊れたため、全国のスケートリンクを転々としながら練習を続けたこともあった。ドラマチックな生き様を運命づけられたかのような23歳。また新たな伝説を氷に刻むことは間違いない。(記者コラム・飯塚 久美子)

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