羽生専用の機械でスケート靴のエッジを研ぐ「NICE」吉田年伸さんとの「強い絆」

スポーツ報知

 羽生が履くスケート靴のエッジ(刃)を中学時代から研ぐ研磨師がいる。仙台市のスケート用具店「NICE」の吉田年伸さん(45)。人一倍、刃の仕上がりにこだわる男が絶大な信頼を寄せる職人だ。連覇の願いを込め羽生専用の機械で仕上げた靴が、平昌のリンクで躍動した。

 2014年4月。ソチ五輪でフィギュア日本男子初の金メダルを獲得した羽生が、出身地の仙台市内で開かれた凱旋パレードの前に、かつて自身が練習したリンクに立ち寄り吉田さんに優勝を報告した。「やりましたー」と抱きつくと、メダルを吉田さんの首にかけた。

 出会いは約10年前。まだ中学生だった羽生のコーチをしていた妻を支えようとスケート用具店を開き、靴の研磨を始めたのがきっかけだった。羽生は拠点をカナダに移しても、吉田さんの元には頻繁に靴が届き、送り返す日々が続いてきた。ほかにも1日200~300足を研ぐ多忙な毎日だが、羽生は特別。「『えこひいきしてあげる』と言っている」と笑う。

 羽生の靴の刃を研ぐ職人として名が知られ、ソチ五輪後は海外からも研磨の依頼が来るようになった。11年3月の東日本大震災では当時の店が使えなくなり「やめようかな」という思いが頭をよぎったこともあった。それでも変わらずに届く靴を見て「やめるわけにはいかない」と再起した。

 羽生も被災して各地に練習環境を求め、刃が摩耗するたびに吉田さんに託し続けた。注文に応えるため、吉田さんは店の機械を羽生専用に改造した。ともに震災を経験して乗り越えた2人のつきあいは家族ぐるみで「絆は強い」と吉田さんは言う。王者の足元が晴れ舞台で輝いた。

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