渡部暁斗、複合個人LH5位「展開的には最悪」ドイツの包囲網で“風よけ”にされ…

スポーツ報知
ノルディック複合個人ラージヒル、5位でゴールして倒れ込む渡部暁斗(右)(左はドイツのフレンツェル=カメラ・酒井 悠一)

◆平昌五輪第12日 ▽複合個人ラージヒル決勝(20日)

 個人ラージヒル(LH)決勝が行われ、今大会個人ノーマルヒル(NH)銀メダルの渡部暁斗(29)=北野建設=は5位。悲願だった複合個人種目で日本勢初の五輪金メダルはお預けとなった。前半飛躍(HS142メートル)は134メートルを飛んで首位につけたが、後半距離(10キロ)で逆転を許した。金メダルはルゼック、銀メダルはリースレ、銅メダルはフレンツェルで、ドイツ勢が表彰台を独占した。22日には、今大会のノルディック複合最終種目となる団体LHで、94年リレハンメル大会金メダル以来の表彰台に挑む。

 複雑な後味が残った。渡部暁は、ドイツ勢3人がなだれ込んで12秒後、静かにゴールした。思い続けた頂点はおろか、表彰台にも手が届かなかった。「悔しいけど、悔いはない。金メダルは遠かった。頂点は見えているけど、なかなか登り方が分からないというか…」。今大会個人NHで2大会連続銀メダル。「次に進むためには、金メダルが必要」と願った日本のエースに、神様はほほ笑んでくれない。

 飛躍首位は、好発進ではなかった。W杯白馬大会(3~4日)を欠場して調整に充てたドイツ勢の飛躍は、明らかに復調していた。24秒後にNH金メダルのフレンツェル、31秒後にルゼック、34秒後にリースレ。クロカン巧者のドイツ勢3人は事前に示し合わせ、先頭を交代で引っ張りつつ、力を合わせて追ってくる。「逃げ切れる確率は低い」。渡部暁の予感は的中し、6キロ過ぎに追いつかれた。表彰台独占を狙うドイツ勢は、容赦なく渡部暁を先頭に出して集団を引っ張らせ、体力の消耗を誘った。「はっきり言って、展開的には最悪だった」

 9キロ地点、更なる悪夢が待っていた。リースレとストックが接触し、バランスを崩した。ドイツ勢はすかさずスパート。猛進する3人の背中は、みるみる遠ざかった。「正直、体力が残っていなかった。バランスを崩さなくても、4位か5位かだった」。転倒で6位に終わったソチ五輪に続き優勝争いから最終盤で脱落した。ドイツの俗言では「ノルディック複合は、飛んで走って、最後にドイツ人が勝つ競技だ」という。その通り、憎らしいほどの強さを見せつけられた。

 98年長野五輪。当時9歳の渡部暁は、吹雪の中でラージヒルのジャンプ台を見上げていた。原田雅彦、船木和喜らジャンプ男子団体の金メダル。幼心を突き動かされてジャンプを始めた少年は、白馬高でクロカンの才能を見いだされ、複合に専念した。憧れた日の丸飛行隊にはなれなかった。ソチ五輪で銀メダルを取っても「目標はもっと上。(ジャンプ代表で北野建設同僚の)竹内択に勝つ」と言った。純ジャンプの条件でも戦える力―。常に高い目標で、力を無駄なく伝える踏み切り技術を磨いた。「それくらいで勝てたら苦労しない」と言いつつ、トイレに小便器が3つあれば表彰台に見立てて真ん中を使った。それでもまだ届かない。「走力アップも必要だし、もう少し離せるジャンプも必要」と自らに課した。

 個人種目の五輪制覇は22年北京に持ち越し。「銀は、金や銅と違って、鏡の色。まだ自分を見つめ足りないということだと思う」。どこまでも謙虚な29歳の、自問自答の4年が再び始まる。今大会は、6大会ぶりの表彰台を目指す団体LH(22日)が最終種目。やりたい放題のドイツ勢に一矢報いるチャンスがまだ残っている。「いいジャンプをして、反省を生かしていいレースをしたい」。悲願は逃した。それでも先に進むしかない。(細野 友司)

 ◆渡部 暁斗(わたべ・あきと)1988年5月26日、長野・白馬村生まれ。29歳。98年長野五輪のジャンプを観戦して小学4年でジャンプを始め、06年トリノから五輪4大会連続出場。11年に北野建設入社。14年ソチと今回の平昌で個人ノーマルヒル連続銀メダル。世界選手権では09年団体金、17年個人ラージヒル銀。173センチ、60キロ。家族はフリースタイルスキー・ハーフパイプ平昌五輪代表の妻・由梨恵(29)。

 ◆ソチ五輪の暁斗 複合個人ラージヒルで、渡部暁は前半飛躍で4位につけ、トップと33秒差でスタート。雨の中の後半距離では先頭集団にいたが、8キロ手前の下り坂でスキーがガリガリに硬くなっていたコースに引っ掛かり転倒。すぐに起き上がって集団に追いつく意地は見せたが、6位がやっとだった。「転ばなければ? やめときます。タラレバの話はしても仕方がない」と潔かった。

 ◆ジャンプとノルディック複合の飛躍の違い 見た目の飛距離はあまり変わらないが、スタート位置(ゲート)が大きく異なっている。風の条件などで前後するが、ジャンプ男子個人LH決勝(17日)が22~23番ゲートを使用。この日の複合個人LHは30~33番を使った。平昌の台は、ゲートの数字が1段上がるごとに助走距離が約0.46メートル長くなる。従って、複合の方が3~4メートル前後高い位置から加速をつけて飛んだことになる。

スポーツ

×