【王手報知】中村王座が女流名人戦占う、V9里見は「基礎体力すごい」、伊藤は「圧倒するつもりで臨んで」

スポーツ報知
女流名人戦ポスターを示し「注目です!」と笑顔で語る中村太地王座

 将棋界の話題を追う「王手報知」第2回は、14日に神奈川県箱根町で開幕した第44期岡田美術館杯女流名人戦(主催=報知新聞社、日本将棋連盟)5番勝負を占う。9連覇を目指す里見香奈女流名人(25)と最強の挑戦者・伊藤沙恵女流二段(24)の激突。注目のシリーズについて、昨年10月に羽生善治現竜王(47)から初タイトルを奪取した中村太地王座(29)に解説してもらった。

 絶対王者に挑む挑戦者―。両者が描く構図に、中村は自らの記憶を重ねている。

 「伊藤さんとしては、何としても倒さなくてはならないと燃えているはずですし、里見さんを倒さなくてはならないのは女流棋界全体の状況でもあります。大注目のシリーズですね」

 昨年の王座戦で羽生を破って悲願の初タイトルを冠した男にとって、9連覇に挑み始めた里見の姿はまぶしく映る。

 「タイトルを取ることの大変さを分かっているつもりなので、複数回も重ねている方への敬意はものすごくあります。女流名人が目指しておられるのは9回目ですから…とてつもないとしか言いようがないです」

 男性棋戦のタイトルホルダーから見て、女流棋界に現在進行形で時代を築いている里見の強さとは、どのような領域にあるのだろう。

 「強いです。アスリートで言えば基礎体力の高さがものすごいです。苦戦に陥ることがあっても中終盤にグッと抜け出す力がある。リードされた時に真価を発揮する。王者の将棋です」

 血肉になっているのは、参戦中の奨励会三段リーグでの経験だと分析する。「局面が混沌とした時、悪手を指してしまう危険性が高い時、正解の道筋を発見できる能力が驚くほど高いです。最新型の序盤研究も深いですし、(得意とする)振り飛車のスタイルも少しずつ変化しながら成長しています」

 奨励会で四段(棋士)を目指しながら、並行して女流棋戦を指す「二刀流」の困難は計り知れない。

 「今回のシリーズも三段リーグの正念場とも重なっています。そんな中でも真摯(しんし)な姿勢で将棋に向かい続けているのは年下ながら尊敬します。でも、緊張感のある生活を送ることで良い流れを呼び込む気もします」

 一方の伊藤も、やはり奨励会で鍛え上げた地力を発揮し、女流棋界で頭一つ抜け出した存在になりつつある。里見を除いては、という注釈を要するにしても。

 「銀冠や矢倉で上部を厚くしていく指し回しなど、自分の信じる道を突き進む姿勢が素晴らしいです。自分の型に入ると特に力を発揮されていますね。若いのにどこかベテラン調の将棋を指すところも魅力的です」

 中村は羽生という絶対王者に挑み続け、ついに乗り越えた。里見という壁に挑んでいる伊藤へのメッセージがあるとするならば…。

 「一局の将棋にしても、一つのシリーズにしても圧倒的に勝つつもりで臨まないと戦えないところはあると思います。まず1局目を終えたところですが、残りを全て圧倒的に勝つつもりで臨んでほしいです」

 頂上決戦で始まった2018年の女流棋界。2人に割って入る存在はいるだろうか。

 「室谷(由紀女流二段)さんに期待したいです。昨年は苦戦されていましたが、(タイトル戦に2度登場した)一昨年の活躍は勢いよりも実力を感じたので、あの頃の感覚を取り戻してほしいです。昨年の女流名人戦で里見さんを追い詰めた同い年の上田(初美女流三段)さんも挙げたいですね。奨励会ではなく、純粋に女流棋戦で強くなった2人に活躍してほしいです」

 新年の始まりを告げる第1局は里見が先勝した。伊藤が巻き返すか、里見が走るか。将棋ファンの皆様、今年は「女性の戦い」にもご注目ください。(北野 新太)

 ◆中村 太地(なかむら・たいち)1988年6月1日、東京都府中市生まれ。29歳。故・米長邦雄永世棋聖門下。6歳で将棋を始める。2000年、棋士養成機関「奨励会」に入会し、06年に四段昇段。早実高では日本ハム・斎藤佑樹投手と同学年。早大政経学部卒。12年の棋聖戦、13年の王座戦で羽生善治現竜王に挑戦するも及ばず。再び羽生に挑んだ17年の王座戦では3勝1敗として初タイトルの王座を獲得した。

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