里見女流名人、連勝でV9に王手…「出雲のイナズマ」電撃の3一角

スポーツ報知
快勝して感想戦で笑みをこぼす里見香奈女流名人(カメラ・豊田 秀一)

◆報知新聞社主催 第44期女流名人戦5番勝負第2局(28日、島根県出雲市・出雲文化伝承館)

 島根県出雲市の出雲文化伝承館で28日、第2局が行われ、先手の里見香奈女流名人(25)=女流王座、女流王位、女流王将、倉敷藤花=が挑戦者の伊藤沙恵女流二段(24)に91手で勝利して2連勝。9連覇に王手をかけた。生まれ育った故郷で「出雲のイナズマ」の面目躍如。終盤、まさに稲妻のような▲3一角で鮮やかに寄せた。V9が懸かる第3局は2月4日、千葉県野田市で行われる。

 暗雲が上空を覆った午後3時過ぎ。「出雲のイナズマ」が切り裂いたのは空ではなく盤上だった。相手玉を背後から最短距離で襲う▲3一角(途中図)。「攻めが調子良く続くと思ってました。一番いいかな、と思って指しました」。鮮烈すぎる一手が勝局の象徴となった。

 終盤の入り口、65手目だった。先手玉は安泰で、後手玉は風前のともしび。戦力も十分。セオリーなら安全勝ちを目指したい局面だが、里見は指先を駒台の角に伸ばし、大胆にも3一の地点に打ち込んだ。素人目には△同玉とされてタダで角を献上するように映る一手だが、終わってみれば最速の寄せ。鬼の終盤力を披露した。

 珍しくノーマル三間飛車に構えた後の▲7六銀も趣向の一手。「稲妻流」と称された師匠の森鶏二九段(71)らが得意とした昭和後期の手順を見せて伊藤の意表を突き、優位に立った。

 8年連続の故郷対局で快勝し、地元ファンを沸かせた。「出雲で対局できるのは幸せなこと。ホッとする場所なので緩みすぎないように気を引き締めました。小さい時から応援してくださっている方の気持ちを、これからも励みにしたいです」

 満員の大盤解説会場には里見ファミリーが勢ぞろい。かつてのアマ強豪で、里見に将棋を教えた兄・卓哉さん(29)は「妹ながら素直に尊敬しています。すごい挑戦をしていると思いますのでできる限りのサポートをしてやりたいと思っています」。

 昨年10月、卓哉さんに長男・直政ちゃんが誕生。里見家にとってめでたい初孫だった。年末、甥っ子と初対面した女流名人は「まだまだおばさんとは呼ばせないぞ~」と笑い掛け、真っ赤なほっぺたを指先で何度もぷにぷに。卓哉さんとカラオケにも行き、何曲も熱唱。普段、大阪で鍛錬の日々を送る25歳にとって何よりのリラックスタイムだった。

 次局は自己記録を更新する9連覇が懸かる一局となる。「しっかり準備をして今回のような状態で挑みたいと思います」。今期、タイトル戦に4度登場している最強の挑戦者を全く寄せつけずに連勝した。最高の状態でなおも「挑みたい」と語る王者に、死角は見当たらない。(北野 新太)

 ◆今後の日程    
 ▼第3局(2月4日)
 千葉県野田市「関根名人記念館」
 ▼第4局(同13日)
 東京都渋谷区「将棋会館」
 ▼第5局(同25日)
 岡山県真庭市「湯原国際観光ホテル菊之湯」

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