里見香奈女流名人が3連勝で9連覇

スポーツ報知
9連覇の「9」のシールを手に喜ぶ里見香奈女流名人(カメラ・関口 俊明)

 将棋の「第44期 岡田美術館杯女流名人戦」5番勝負第3局がが4日、千葉県野田市の関根名人記念館で行われ、後手の里見香奈女流名人(25)=女流王座、女流王位、女流王将、倉敷藤花=が挑戦者の伊藤沙恵女流二段(24)に104手で勝ち、3連勝で自らの記録を更新する9連覇を達成した。観戦した森内俊之九段(47)は、圧倒的強さを羽生善治竜王(47)らの姿に重ねた。防衛によって女流5冠を堅持した里見は女流6冠制覇、そして棋士養成機関「奨励会」三段リーグで女性初の棋士を目指す。

 戦い終えた者の優しさだった。終局後、悔し涙をぬぐう伊藤の目の前で、里見は決して笑わなかった。「結果を残せたことは素直にうれしいです」。1、2局は珍しく頬を緩ませるシーンもあったが、V9達成の瞬間は同志の心情に配慮した。悠然と、淡々と。勝ってカブトの緒を締めた。

 予期せぬ乱気流に包まれても、表情ひとつ変えない。そんな将棋だった。進行は第1局の類型に。同じように△4五銀と積極的に構え、大胆に飛車交換を迫って、伊藤の攻めを呼び込んだ。

 左辺での危険な局地戦でリードを奪うと、中終盤では広大に空いた盤上で駒を躍動させた。駒得の代償で自玉はスカスカ。一手間違えれば、たちまち逆転されてしまう局面でも指し手がブレることはなかった。

 3連勝と圧倒した。リーグ9戦全勝の最強挑戦者を迎えたシリーズも、むしろ里見の強さが際立った。「(伊藤相手には)形勢を損ねたら逆転は難しいので、序盤からしっかり指そうと思いました」。3局を通じて悪手らしい悪手はなかった。盤上に表現したのは過去8年とは別次元の強さだった。

 女流5冠を堅持した防衛劇は、偉業挑戦への切符にもなった。現在、残るひとつのタイトルであるマイナビ女子オープンでは、本戦トーナメントのベスト4に進出している。挑戦権を得て、5番勝負で加藤桃子女王(22)を破れば、史上初の女流6冠制覇を成し遂げることになる。「まだ足りないところがたくさんありますので。いい状態で勉強し続けるようにしたいです」

 さらに、最大の夢である四段(棋士)になるための挑戦も重大な局面を迎えている。奨励会三段リーグでは現在7勝5敗。過去最も星を集め、首位とはわずか2勝差。残り6戦の結果によっては36人の三段の上位2人に入り、女性初の四段昇段を果たす可能性がある。「今しかできないことなので、今をできることをただ頑張りたいです。勉強していくしかないので、日々の積み重ねを大事にしたい」。またしても「勉強」の2文字を口にした。

 来期は大台に挑む。1981~90年度の女流王将戦で林葉直子さん(50)が記録した10連覇に並ぶ女流棋戦史上最多タイ記録だ。「今はまだ…考えられませんが、充実できるようにしたい」。誰かが里見を止める光景は想像もできない。(北野 新太)

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