駒が動くって楽しい!藤井七段活躍で子ども棋士急増

スポーツ報知
「将棋の森」で小学生の女の子を指導する高橋和女流三段(カメラ・甲斐 毅彦)

 史上最年少で七段昇段を決めた藤井聡太七段(15)が巻き起こしたブームで、将棋を習わせたいという子供たちが急増している。日本まなび将棋普及協会の代表理事で、将棋教室「将棋の森」(東京都武蔵野市)を運営している高橋和(やまと)女流三段(41)は「教える棋士」として子供たちの指導に尽力している。将棋を教えること、教わることの魅力を高橋さんに聞いた。(甲斐 毅彦)

 JR吉祥寺駅前にある「将棋の森」は、カフェのような雰囲気だ。午後4時を過ぎると、学校帰りの小学生たち20人が次々に入ってきた。まずは詰将棋で頭の体操をしてから実戦へ。子供同士で対局したり、先生と手合割り(棋力に応じて駒を落とすハンデ)で勝負をしたり、盤上を見る子供たちのまなざしは真剣そのものだ。「勝つとうれしいから楽しい!」。小学生の女の子たちからは、そんな声が聞こえてきた。

 高橋さんが、老若男女が楽しめる「将棋の森」をオープンしたのは2016年6月。当初、子供たちは20人くらいで2クラスだったが、現在は約120人が6クラスで学ぶ。約200人の会員の半分以上は子供たちだ。教室はいつも満席でキャンセル待ちの状態だ。

 「昔はお父さんが教えて、もっと強くなりたい子は教室に通う流れでした。今は両親ともに将棋を知らない世代が増えてきて、ゼロから教室で、という方が増えてきました。ピアノや水泳のようにお稽古ごとの一つになってきたんです。藤井七段の影響もあるでしょうね。あとは羽生(善治)先生のイメージで、知的に捉えている方が多いのかな」

 14歳でプロの道に入った高橋さんが指導者の道を歩もうと決めたのは、20代の頃。将棋連盟主催の子供向け教室を手伝った時のことだった。教室の隅で小さな女の子が一生懸命指している姿を見て、クギ付けになったという。

 「勝利の喜びで顔がパッと華やいで、目がキラッと光ったんです。プロとして勝つことが義務づけられて忘れていたけど、私もこうだったんだな、と。私が見たいのはこれだと思って、28歳で引退しました。かなり早かったので、周囲からは驚かれましたが、自分にとってはすごく幸せな決断だったと思います。子供たちの笑顔が見られる今が一番幸せですね」

 「将棋の森」の入門者で最も多いのは5、6歳。幼稚園の年長か小学1年生だ。将来プロを目指すのならば、この頃が適齢期だともいわれ、この中から未来の藤井七段が誕生するかもしれない。もっとも、高橋さんが教える目的はプロの養成ではなく、楽しさを伝えることだ。

 「将棋を覚えるのは、いくつになってからでもすごくいいことだと思います。私は強い子を育てようというスタンスではなく、駒の動かし方も知らない子供たちにいかに楽しく教えるかという専門家でありたい。それにはやっぱり成功体験をしてもらうことだと思います。まだ大会で優勝したことがない子だけが参加できる大会をやったりもしています」

 引退後に生まれた長男は現在、中学1年生。もちろん将棋は覚えたし、好きになってもくれたが、強制したことは一度もないという。

 「絵に描いたような“やんちゃ坊主”。将棋よりもスマホのゲームに熱中しています。でもまあ、それはそれで…。自分の息子だとどうしても感情的になってしまうので、私は将棋を教えないことにしているんです(笑い)」

 ◆高橋 和(たかはし・やまと)1976年6月17日、神奈川県藤沢市生まれ。41歳。91年3月に14歳でプロとなり、2000年4月に女流棋士二段。02年に第40回詰将棋看寿賞短編賞を受賞。05年2月に現役を引退。06年4月に女流棋士三段。一般社団法人「日本まなび将棋普及協会」代表理事。「将棋の森」代表。子供向け将棋教室開催やインストラクター養成、ゲーム絵本「ぴょんぴょんしょうぎnew!」の出版などで将棋の普及活動をしている。

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