漫画「深夜食堂」の作者・安倍夜郎さんのポリシーは「料理は主役ではなく、描くのは人間」

2016年10月27日14時0分  スポーツ報知
  • 「顔出しはしていないので…」と、代わりに自画像をスポーツ報知のために描いてくれた安倍夜郎さん
  • 似顔絵を描いている安倍さん

 青年漫画誌「ビッグコミックオリジナル」(小学館)に連載中の安倍夜郎さん(53)の漫画「深夜食堂」のコミック最新巻(17巻、822円)が、9月末に発売。繁華街の路地裏で深夜に開店する小さな食堂「めしや」を舞台に、登場人物の悲喜こもごもを描いた同作は「大人も楽しめる漫画」として注目され、俳優・小林薫(65)主演で実写化。来月5日には映画「続・深夜食堂」(松岡錠司監督)も公開される。作品はどのようにして生み出されてきたかを安倍さんに聞いた。(高柳 哲人)

 酒と豚汁定食しかメニューがない「めしや」に自然と集まる客が織りなす人間模様が映し出される「深夜食堂」。派手な事件も起きなければ、男女の大恋愛の様子も描かれない。それでも、1話完結の物語は、なぜか「次も読んでみたい」という空気感を漂わせている。そこには、40代になって漫画家デビューした安倍さんの特徴がにじみ出ている。

 「子供の頃から漫画は読んでいましたが、『遠い世界の話』は好きではなかった。少年誌の影響も受けていません。ある時、『何で自分は若いうちに漫画家になれなかったんだろう?』と考えたことがあったんですが、しばらくして当たり前だと分かったんです。少年漫画は主に成長と青春を描くもの。自分には、その2つが欠如していたんですね(笑い)」

 食をテーマにした漫画は、過去も現在も一つのジャンルとして確立されている。編集者から「食漫画を描いてみないか」と提案された当時は、「美味しんぼ」のような“バトルもの”や「クッキングパパ」のような料理を紹介する作品が人気を集めていた。

 「ただ、『天才シェフが登場して何かを解決する』みたいなものにはリアリティーを感じることができなくて、自分の中ではいい印象を持ってはいなかったんです。普通の料理を作って出すという漫画は、当時はほとんどなかったのではないかと思います」

 そんな時、深夜に開店する串揚げの店をテーマにした落語家・桂雀三郎の「やぐら行進曲」という曲を聴いて「面白いな」と感じた。そこから、ヒントを得て描いたのが「深夜食堂」だった。

 「メニューをなくしたのは、連載を長く続けるための“作戦”でした。さらに、料理も特別なものでなく、どこでも食べられるものを。狂言回しが、どこにでもいそうな客のことを語るということをやろうと思ったんです。料理は主役ではなく、描くのは人間。だから、私は『食漫画』と思っていませんね」

 物語のネタは、自分が飲みに行った先で小耳に挟んだ話や、電車の中で飛び込んできた会話、出会った人からインスピレーションを受けて…というのが多いという。

 「今日(インタビューをした日)も、ここに来る時に街を歩いていたら、スーツを着た80歳くらいの小さなおじいさんと、失礼だけどちょっと年増のホステスが2人で歩いているのを見ました。その“凸凹コンビ”が『めしや』に来たら、何を注文するんだろうとか考えていました」

 漫画を描く際には、まず登場人物を決めてそれに合う料理を考える場合とその逆の両方があるそうだが。

 「理想は、料理と人物の同時進行で話を組み立てていくこと。その方が面白くなりますね」とした。

 ただ、2006年の連載開始後、10年を経たことで苦労も多い。

 「長く続けると、使える設定がどんどん狭まってくる。バトル漫画のように『新しい敵』を登場させるということはできないですし、毎回『めしや』で出会った男女が恋に落ちるわけにもいかない。だから、話を作るのに時間がかかるようにはなりました。作品のクオリティーを落とさないようにするためには、人間関係や設定を複雑にする。大変な作業でもあります」

 “情報収集先”である飲み屋には、一人で繰り出すことが多い。ちなみに、よく出没するのはJR高円寺駅のガード下にある飲み屋街だとか。

 「私のことを知っている店では、気を利かせて赤ウィンナー(第1話に登場する料理)を出してくれることもあります。最近は、メニューで置いてある所も増えましたけどね。なじみの店だと、正体を周囲から明かされることもある。そんな中で飲んで話していると『この話を描いてよ』とか『オレを漫画に描いて』という人もいます。でも、『オレの話は漫画にできるだろ?』と勢い込んでくる人の話は、だいたい面白くないんですよ(笑い)」

 ◆安倍 夜郎(あべ・やろう)1963年2月2日、高知県中村市(現・四万十市)生まれ。53歳。早大在学中は漫画研究会に所属。卒業後はCM制作会社でディレクターを務めながら漫画を描き、2003年に「山本耳かき店」が小学館新人コミック大賞で大賞を受賞。翌年、漫画家デビュー。同年に会社を退社。10年、「深夜食堂」で第55回小学館漫画賞(一般向け部門)、第39回日本漫画家協会賞大賞を受賞。

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