ディランとは生きた霊魂…45年見続けてきた音楽評論家・湯浅学さんが語る

2016年11月3日15時0分  スポーツ報知
  • ボブ・ディランが書いた小説「タランチュラ」の原書を手にする湯浅さん
  • ボブ・ディラン ロックの精霊

 米シンガー・ソングライターのボブ・ディラン(75)のノーベル文学賞受賞が決まり、音楽評論家の湯浅学さん(59)が2013年に出版した評伝「ボブ・ディラン ロックの精霊」(岩波新書)に注目が集まっている。中学生以来45年間ディランの歌を聴き、1978年の初来日公演から2016年まで数えきれぬほどライブに足を運んだという湯浅さんが見た、幻惑のトリックスター、ディランの正体とは?(甲斐 毅彦)

 ビートルズの評伝なら数えきれぬほどあるが、比肩するほど世界中に影響を与えてきたディランのものは、意外と少ない。そのねじれを解消すべく、本書の執筆が決まったとき、湯浅さんは迷わずに副題に「ロックの精霊」と入れることにした。10年3月、連日の来日公演で歌うディランの姿が、湯浅さんの目には「精霊」に見えたのだ。

 「人間とちょっと違う感じ。あの世に行く前からあの世の自分に勝っているな、と。生きているけど、霊魂の領域みたいな感じがしたんだよ、その時。でも地に足がついていて。半霊半人みたいに思えたんだよね。妖怪とは違うけど、水木しげる系だよ(笑い)。そう見えたのを具体的に落とし込めるような流れを作れないかな、と思って書いたのがこの本です」

 ジャンルにこだわらず、幅広い音楽評論をする湯浅さんが、初めてディランのシングルレコードを買ったのは中学2年の時。高校生時代に初めてアルバムを買い、大学時代の78年2月には、日本武道館での初来日公演を行った。

 「初めは期待をはぐらかすような、あれ?という感じだった。後ですごいと思うようになったけど。『タイム・アウト・オブ・マインド』(97年)のとき、ちょっと(心に)来るものがあった。『ラヴ・アンド・セフト』(01年)に何かまた1個飛び越えた感じがあって。そこからもう一回聴き返すようになって。その後も『モダン・タイムズ』(06年)とか傑作しか作らない。10年の来日公演で今のディランを見たいと思ったんだよ。行ったら本当に良くて、かなりのめり込んでいった。何回見ても飽きないんだよ。同じような曲をやるけど毎日違うから。ディランは一日一日が違う。毎日生まれ変わるみたいな感じがするんだよね。ロックの世界で年を取ってすごみが増していく人を初めて見た感じ」

 ディランがノーベル文学賞の下馬評に名前が挙がったのは96年。20年を経ての受賞を湯浅さんは、どう受け止めたのか。

 「『ボブ・ディラン』というミュージシャンの総体で評価されたのだと思う。詩だけを取り出して評価するのはおかしい。ディランは1971年に小説(「タランチュラ」)も出版しているけどそれが評価されたわけじゃない。文学って形なのか。人類の歴史的にみても文字が出るより歌(言葉)のほうが前だと思うよ。言葉があって文字があるわけで、文字に沿って言葉ができたわけじゃないじゃん。記録(書籍化)されたもので文学を評価するんであれば頭固すぎと思う。でも、そもそも文学を研究している人でディランを聴き込んでいる人の方が米英以外では少ないかもしれない。アカデミックなところから言うとディランは外れちゃっていると思う。外れていて当然だと思う。どっぷり入ったらディランでなくなっちゃうから」

 現地時間10月13日の受賞発表後、ディランとの連絡が取れず、本人は受賞を好んでいないのでは、という臆測も広がったが、湯浅さんは、発表翌日、米カリフォルニア州インディオの音楽フェスでのディランの姿をネットで見て、本人の喜びを感じ取っていた。

 「スーツを着ているんだけど裸の上で、シャツを着ていない。なんて格好してるんだろうと思った。そのまま1時間半のステージに立って4年ぶりに代表作の『ライク・ア・ローリング・ストーン』を歌った。その後には服飾デザイナーをやっているポール・マッカートニーの娘(ステラ・マッカートニー)との2ショット写真がインスタグラムに上がっていた。ディランはうれしいことがあると変なこととか、いつもと違うことをしちゃうんだよ」

 半月の沈黙には、ディランなりのメッセージがあったのだろうか。

 「面倒くさかったのかもしれないし(笑い)、深い意味はないでしょうね。SNSが普及して、すぐに返信するのが当たり前みたいな世の中は、ものすごく不健全だと思う。みんな伝達の速度を自分たちに当てはめすぎ。他の人には合わせませんよ、という気持ちも少しあったのかもしれない。授賞式では社交ダンスがある晩餐(さん)会をどうするかでしょうね。元々こういう席は好きじゃないはず。でも、選考委員のおじさんが声をかけるのではなく、きれいな女性が声をかければ絶対に来ると思いますよ。『聖霊』ではなく『精霊』ですから」

 ◆湯浅 学(ゆあさ・まなぶ)1957年1月4日、横浜市生まれ。59歳。東京造形大デザイン学科卒。在学中から執筆活動を始める。ジャンルを超えた音楽について、雑誌やライナーノーツに執筆。著書に「音楽が降りてくる」「音楽を迎えにゆく」「アナログ穴太郎音盤記」「音海」「音山」」「アナログ・ミステリー・ツアー 世界のビートルズ1962―1966」「サン・ラー伝」。共著に「元祖ディープ・コリア」など。

  • 楽天SocialNewsに投稿!
BOOKセレクト
今日のスポーツ報知(東京版)
報知ブログ(最新更新分)一覧へ