【スポーツを読む】柳澤健「1984年のUWF」

2017年2月21日12時0分  スポーツ報知
  • 「1984年のUWF」を出版した柳澤健氏

 「1984年のUWF」(文藝春秋、1800円+税)が早くも増刷されている。処女作「1976年のアントニオ猪木」(文藝春秋)がベストセラーになった柳澤健氏(56)の新作だ。“猪木本”が2007年だから、その時にインタビューして以来10年ぶりに、出版記念トークショーで柳澤氏に会った。若返っていることにびっくりした。

 この間、「1985年のクラッシュ・ギャルズ」(文藝春秋)、「1993年の女子プロレス」(双葉社)、「1964年のジャイアント馬場」(双葉社)など、「〇〇年の△△」という評伝を書いてきた。“猪木本”のヒットによって、編集者の依頼に応じて、何匹もの“ドジョウ”を見つけ続けてきたのがすごい。それが不老の源になっているのか。

 今回は、1984年に旗揚げされた伝説のプロレス団体をテーマにしている。猪木本は1976年の出来事に絞られていた。だが、今回は1984年は一部に過ぎない。UWFと言えば、88年に出直した新生UWFの方が、熱狂的で世間を巻き込んだ。その流れを網羅したUWF史になっている。

 84年にしたのは、とりあえず編集者が喜ぶ「〇〇年の△△」という“売らんがため”タイトルかと思ったが、読み進めているうちに、違うことに気付いた。柳澤氏もトークショーで言っていた。「“前田史観”じゃないものを書きたかった」と。UWFの象徴は前田日明だが、84年(旧UWF)と88年(新生UWF)の違いは、初代タイガーマスクの佐山サトルがいたかいなかったか。

 新生UWFでカリスマになった前田ではなく、旧UWFで離脱した佐山の思想こそがUWFである、という柳澤氏の信念が伝わる。表紙もシューティングスタイルのタイガーマスク(スーパータイガー)だ。この“佐山史観”を「84」という記号にしたのだろう。

 リアルファイトか否かという尺度にこだわるタブーなき取材力と文献引用術は柳澤氏ならでは。語り部だった作家・夢枕獏氏のコメントの変遷も面白い。初期の旧UWFが好きだった私にとっては、タイトル通り「84年」に特化したものを期待していたが、それはマニアックすぎるか。(酒井 隆之)

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