ノワール小説復活の馳星周さん、自然体で向かい合った原点回帰

2017年4月29日12時0分  スポーツ報知
  • 新作「暗手」について語る馳星周さん
  • 馳星周著「暗手」

 作家・馳星周さん(52)が、自身の真骨頂とも言える本格ノワール(暗黒)小説「暗手(あんしゅ)」(KADOKAWA、1728円)を出版した。自身2作目の「夜光虫」(98年)の19年ぶりの続編。最近は公安警察を舞台にしたコメディー「アンタッチャブル」、山岳小説「神奈備(かむなび)」など、“非ノワール”的作品を執筆してきた馳さん。原点回帰的な今作に懸ける思いがある…と思いきや、全くの自然体な言葉が返ってきた。(樋口 智城)

 台湾で殺しを重ね、絶望のふちに落ちた加倉昭彦。過去を抹殺した加倉が逃れ着いたのはサッカーの国、イタリアだった…。今作は馳星周ファン必見、98年の小説「夜光虫」の19年ぶり続編だ。なぜ今、“復活”なのか。答えはビックリするほど単純だった。

 「編集者から次作について『サッカー賭博はどうですか』って振られまして。それに食いついただけなんですよ。実際に何年か前にマンチェスターUのオールド・トラフォード・スタジアムが試合中に停電になって、どうやら中国の賭博組織の仕業らしいとかウワサがあって、興味自体はあったんです」

 「夜光虫」は台湾での野球賭博に絡む八百長を扱った物語だった。

 「昔、ちょうどいいの書いていたなと思って、今作につながった。だから『加倉復活』ありきじゃないし、原点回帰とかも考えてません。『夜光虫』は気に入っている作品で、ゼロから物語を作り上げることもなかったから、書く苦労が全くなかったのは良かったかも」

 自他ともに認めるサッカーフリーク。小説は35作目だが、サッカーを扱ったのは初めてだ。

 「好きなことは仕事にしちゃいけないと思っていたので、セーブしてた部分は確かにあるんです。でも、今回は正面じゃなくてサッカーの裏側なんで」

 小説の中心人物として、イタリア・セリエAの小クラブに在籍している日本人GK「大森怜央」が登場する。自身も元日本代表MF中田英寿氏らサッカー選手との交流があるが、モデルにした選手はいるのだろうか。

 「モデルとまでは言わないですが、ヨシカツ(川口能活)はイメージをしましたね。イングランドのポーツマス在籍時代にインタビューもしましたが、彼は欧州でやりたいという気持ちが強かったし、難しいのは分かっていながらリスクを冒してプレーしていた。気持ちが乗った時のプレーとか、小説でのGK像を作りやすかった。まあ、性格的には小説よりもっと落ち着いてますけどね」

 ちなみに最近のサッカーについては…。「代表は、W杯アジア枠のあまりの緩さに最近燃えないんですよ。アジアなんて3枠でいいよ、ホント。さらに枠を増やすなんて正気かって」

 「不夜城」以来、ノワール小説の旗手として活躍してきた。だが意外なことに、暗黒街が登場する小説は10年以上書いていなかった。

 「え~? そんなになるの? 気づかなかったなあ。まあ45歳くらいから、ノワールにこだわるのはいったんやめて、書きたいもの書こうかなと思ったんで。山岳モノとか歴史モノとか、その時々の気分で書いてきた」

 15年のコメディー小説「アンタッチャブル」では、自身6度目の直木賞候補となった。

 「小説って泣かせるのは簡単ですが、笑わせるのは高等技術が必要。お笑い、ぜひやっておきたかったんですよ。でもあれねえ…ノミネートは全く予想してなかった。(同賞運営元の)日本文学振興会から電話かかってきたんですが、別の作品だと思ってたんで全く話がかみ合わなくて。そのうちに『アンタッチャブル』の方だと分かって、思わず『え~! 取れるわけないじゃん!』って言っちゃった」

 さまざまなジャンルに挑戦しているものの、ノワール小説にはこだわりはある。

 「自分の本領だと思ってますので。今後も機会があれば書き続けたいですね」

 現在は軽井沢在住。東京から移住して11年目、意識こそしていなかったと話すものの「移住」と「ノワール空白時期」は重なる。今は夜な夜な新宿に出没していた生活からは一転、静かな暮らしだ。

 「東京への未練、もうないですね。移住のきっかけは犬。ぼくはバーニーズマウンテンドッグ2匹を飼っているんですが、山犬なんで東京の夏は過酷なんですよ。まあ軽井沢なんてスノッブ(俗物的)なとこはそもそも嫌いなんですが、女房が東京生まれ東京育ちだからあそこが限界でした」

 今や自身のイメージとは真逆?の規則正しすぎる生活。

 「5時に起きて犬の散歩行って、10時くらいから仕事、夕方にまた散歩、晩飯食って女房と映画見たりして葉巻くゆらせて寝る。でも、実は東京でも生活は規則正しかった。昼過ぎに起きて、最後は飲んで朝方に寝るというだけで。決まったスケジュールが好きな性格なんですよ」

 落ち着いた生活から生まれた「救われない結末のノワール小説」。最後にファンへのメッセージについて、こう答えた。

 「久々の本格的なノワール、ホントにあがきながら生きている人間の姿を目に焼き付けてください。まあ、小説家への褒め言葉は『ああ面白かった』なので、そう言われるようには書きましたよ」

 ◆馳 星周(はせ・せいしゅう)1965年2月18日、北海道浦河町生まれ。52歳。本名・坂東齢人。苫小牧東高校、横浜市立大卒。フリーのライターを経て96年「不夜城」で小説デビュー。いきなり吉川英治文学新人賞、日本冒険小説協会大賞を受賞する。98年の「鎮魂歌―不夜城2」で日本推理作家協会賞、99年「漂流街」で大藪春彦賞を受賞。直木賞には「不夜城」「夜光虫」などで直木賞に6度ノミネートされた。

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