西村京太郎さん、作家になったのはマッカーサーのせい!?戦争体験をきな臭い世の中のブレーキに

2017年10月7日12時0分  スポーツ報知
  • 数々の著書が展示されている「西村京太郎記念館」でインタビューに応じた西村さん(カメラ・甲斐 毅彦)
  • 西村京太郎著「十五歳の戦争」 

 十津川警部シリーズでおなじみの鉄道ミステリーの第一人者、西村京太郎さん(87)が、自身の戦争体験をつづった自伝的ノンフィクション「十五歳の戦争 陸軍幼年学校『最後の生徒』」(集英社新書、821円)を出版した。まもなく600冊を超えるエンタメ作品を昭和から平成にかけて出版してきたベストセラー作家がなぜ今、少年時代の戦争体験を振り返るのか。そして今、目指している「東京スカイツリー超え」とは?(甲斐 毅彦)

 西村さんが、当時八王子市にあった、陸軍のエリート養成機関・東京幼年学校在学中に終戦を迎えたことは周知のことだが、そこでの体験を本人が詳しく語ったのは初めてだ。B29の空襲で校舎を焼き尽くされ、本土決戦が迫り来ると信じる中でも「盾になって、天皇陛下をお守りするのだ」と覚悟していた軍国少年だった。玉音放送を聞いた日から72年たった今、確信するのは「日本人は戦争に向いていない」ということだ。

 「日本人は権力に弱く、戦争を叫ぶ権力者の声に従ってしまう。そして一番恐れるのは『臆病者』『ひきょう者』と言われること。戦争は始まってしまったら一刻も早く止めるべきなのに、勝算のない戦いをダラダラと続けてしまったんです」

 2015年に「安保法案」が国会で可決され、西村さんは戦前、戦中の悲惨な記憶がよみがえった。その危機感はすぐに作品に反映された。「無人駅と殺人の戦争」「北陸新幹線殺人事件」といった最近の十津川警部シリーズには、戦争の話が組み込まれるようになった。

 「最近はなんとなくきな臭いからね。安倍総理もそうだけど都知事の小池さんも『右』だからね。走り始めるとずーっと右へ行っちゃう。怖いですよね。子供の頃、皆が読んでいたのは『新戦艦高千穂』とか『見えない飛行機』という小説。読むと日本は戦争に勝てるんじゃないかと思うようになる。日本人は空気に弱いですから。総理大臣の話も威勢がいいほうが受けますけど、政治家がそういうことを言っちゃいけないんですよ」

 戦後、西村さんは人事院に就職。だが、旧制中学卒では出世は見込めない。大学進学を考えたが、行き損なったのは、なんと「マッカーサーのせい」なのだそうだ。1949年頃、通信大学の願書を締め切り日に出しに出かけたが、交差点で警官に制止されてしまった。理由は「マッカーサー一行がお通りになる」。規制が解除されたときには、提出の締め切り時間が過ぎてしまっていた。

 「今、振り返れば面白かったけど、あの時は本当に怒っていた。全然車が走って来ないのに、ずーっと待たされて。大学に行っていたら(作家にならず、大卒の)役人にでもなって全うしたんじゃないですか」

 刺激のない人事院での公務員生活に見切りをつけたのは29歳の時。当時ベストセラーだった松本清張の「点と線」を読み「あ、簡単だ。これなら自分でも書ける」と作家になる決意をした。パン工場の配達運転手や私立探偵をやりながら懸賞小説に応募しまくり、32歳でオール讀物推理小説新人賞を受賞し、35歳で江戸川乱歩賞を受賞。社会派推理小説を中心に読者に受けると思ったものは、何でも書いた。本紙の取材ということで西村さんが思い出したのは76年の「消えた巨人軍」という小説。阪神戦のため、大阪へ向かう巨人の選手たちが新幹線で東京をたった後、誘拐されるという突拍子もない作品だ。

 「割と受けてテレビドラマ(日テレ)にもなったんですけど、ファンから抗議の電話があって『若くて元気な巨人の選手たちを誘拐できるはずがないだろ』と(笑い)。そんな小説を書いたこともありましたねえ」

 爆発的なヒット作となり、鉄道ミステリーシリーズの発端となった「寝台特急殺人事件」が刊行されたのはその2年後の78年。だが、実は西村さんはブルートレインに興味がなかったという。

 「編集から『子供たちの間でブームだからひょっとしたら売れるかもしれない』と言われてね。あの頃は『消えたタンカー』(船)、『夜間飛行殺人事件』(飛行機)を書いたので陸、海、空を書いて終わりだと思ったんだけど、その後は鉄道がシリーズになってしまった。あの頃ブームだったスーパーカーの話でも書こうと思っていたんだけどね。何が受けるか分からない。急にうまくなるわけでもないし。作家は皆そう思っているんじゃないですか」

 デビュー以来、これまで出版した本は約590冊。目標は東京スカイツリー(634メートル)を1つ超える635冊まで書くことだという。

 「あと2年ぐらいで(到達)ですかね。うちの奥さんはもう疲れたらしく、いいかげんにしなさいと言ってますが(笑い)。作家は同じものばかり書いていると別のものが書きたくなるんですよ。本当は江戸時代を舞台にした時代小説を書きたいんだけど、なかなか出版社が書かせてくれない。でも、その代わり今は戦争の話が書けていますから。少しはブレーキになればいいな、とは思っています」

 自由奔放なミステリーが楽しめるのも、平和な世の中があってこそだろう。

 ◆西村 京太郎(にしむら・きょうたろう)本名・矢島喜八郎。1930年9月6日、東京・荏原区(現品川区)生まれ。87歳。63年、「歪んだ朝」でオール讀物推理小説新人賞を受賞して作家デビュー。65年「天使の傷痕」で江戸川乱歩賞、81年「終着駅殺人事件」で日本推理作家協会賞受賞。十津川警部を主人公にしたミステリーが人気となる。2001年、神奈川県湯河原町に「西村京太郎記念館」を創設。05年、日本ミステリー文学大賞受賞。

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