2017年間ベストセラーは佐藤愛子さんのヤケクソ!?エッセー「何がめでたい」

2018年1月2日7時0分  スポーツ報知
  • 「九十歳。何がめでたい」の著者、佐藤愛子さん(小学館提供)
  • 佐藤愛子著「九十歳。何がめでたい」
  • 2017年の年間ベストセラー

 2017年に最も売れた本は、作家・佐藤愛子さん(94)の「九十歳。何がめでたい」(小学館、1296円)だった。断筆宣言を取り下げ、「半ばヤケクソ」で書き始めたというユーモアあふれるエッセー集は、発行部数117万部(26刷)を超えた。現在も中高年を中心に共感が広がり続けているが、著者本人は「何がめでたい」と無関心のようだ。編集を担当した小学館の橘高(きったか)真也さん(42)にミリオンセラー誕生の舞台裏を聞いた。(甲斐 毅彦)

 「もうこれ以上書くことはない。空っぽになった」。人生のすべてを出し切ったという長編小説「晩鐘」を2014年に書き終えた佐藤さんは、のんびりと余生を過ごすつもりだった。ところが、いざ筆を置いてしまうと、「のんびり」の仕方が分からない。鬱々(うつうつ)とした日々を送っていると聞いて、「では、エッセーを書かれてみませんか」と「女性セブン」での連載を持ち掛けたのが、橘高さんだった。こんなやりとりがあったそうだ。

 「90歳を超えて週刊誌の連載をやれなんて。私を殺す気か」

 「では、時々で結構です。書けた時だけ入れます。締め切りは無視していただいていいですから」

 「そもそも私が書くような年寄りの話は今の若い人にはもう受けないわよ」

 「セブンの読者層も50代、60代と上がっていますから…」

 「それは十分若いじゃないの」

 説得に要したのは約3か月。橘高さんの熱意に押されて、佐藤さんは再び筆を執る決意をした。

 「先生は万年筆で原稿用紙に書かれるんですが、60数年にわたる執筆で、右手がけんしょう炎になってしまっていた。『晩鐘』は注射を打って書かれていたんですが、書くと痛くなってしまう状態だったので、結局は(連載前に)手術を受けてくださいました」

 連載は2015年4月からスタート。送られてくる手書きの原稿は、橘高さんが期待した以上のものだった。

 「文章が非常にリズミカルで若々しくて、こんなに面白いエッセーは読んだことがないと思いました。昔よりは書くのに時間がかかるようになったようなので、編集者としては励ましながらやっていました。今回が一番面白いな、と思ったら、その翌週にはもっと面白い原稿が来た。面白さの最高記録を更新していきながら1年がたったという感覚でした」

 反響は徐々に広がり、小学館には2万数千通の読者はがきが届いた。「人生の中で本を読んで初めて面白いと思った」「夫を亡くしてふさぎ込んでいたが、本を読んで自分が笑っていることに気づいて驚いた」。50代以上の女性を中心に、ファン層はどんどん広がっていった。

 「佐藤さんが感じる今の時代への違和感が大きなテーマだったんですが、それは佐藤さんだけでなく他の世代も感じているのだと思います。箴言(しんげん)集でも、啓蒙(けいもう)書でもなく、ユーモアを交えながらうまく言葉にした達意の文章だから共感を得られた。面白いので多くの読者に届けたいとは思いましたが、こんなに売れるとは。ご本人は売れ行きに関心がなく、売れて“何がめでたい”と(笑い)。騒ぎになるのは迷惑にも感じるらしく、もう重版かけなくていいんじゃないの?とおっしゃっていました」

 現在も「セブン」誌上では、元TBSアナウンサー小島慶子との往復書簡が連載中。「何がめでたい」で静かに再燃した執筆への意欲は100歳になっても続きそうだ。

 「シャキシャキと歩くスピードも速いですし、背筋もピーンと伸びている。そして声が大きい。取材を受けるのはくたびれるとおっしゃっても、しばらくストレスから解消されるとお元気になる。お目にかかる度に若返っている感じがするんですよ」

 ◆年間ベストセラー総合1位に決まった佐藤愛子さんのコメント

 この本は、91歳のときにこれで最後だというつもりで「晩鐘」という小説を刊行して、あとは何もしないつもりでいたらウツ病みたいになって。これは困ったぞということで書き始めたエッセーなんです。それがこんなに売れて、おかしいですよね。

 私は作家という仕事を商売と思ったことがないので、売れた、売れたというふうに表現されると、だからどうした、と毒づきたくなるのですが、たくさんの人に面白がって読んでもらったと思えば、それは素直にうれしいです。私自身、面白がることが好きだから、人が面白く思ってくれたと思うと、ああ良かったと思いますね。

 この本を読んで勇気をもらった、元気をもらったという人も多いそうですが、私は自分が思ったことを書いているだけなので、どうして読んだ人が勇気が湧くんだか私自身にはわからないんです。私は昔から同じように好き勝手書いてきて、かつては顰蹙(ひんしゅく)を買ったり悪しざまに思われたりしていましたから。それが時代が変わって、顰蹙じゃなくて勇気となった。日本人がずいぶんと変わったんだなぁと思いますね。

 ◆佐藤 愛子(さとう・あいこ)1923(大正12)年11月5日、大阪市生まれ。94歳。甲南高等女学校卒。50年「青い果実」で作家デビュー。69年「戦いすんで日が暮れて」で直木賞、79年「幸福の絵」で女流文学賞、2000年「血脈」の完結で菊池寛賞、15年「晩鐘」で紫式部文学賞受賞。17年に旭日小綬章。近著に「孫と私の小さな歴史」「役に立たない人生相談」など。

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