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1通のファンレターが生んだ縁 強豪・智弁和歌山を支える熱い野球部長の存在

2018年1月31日18時0分  スポーツ報知
  • 智弁和歌山・古宮克人部長

 多忙な毎日の中でもたまに、記者をやっていて良かったなと思う瞬間がある。そのひとつが学生時代に憧れていた人を、記者として取材できることだろう。先日4年ぶりに春のセンバツ出場を決めた智弁和歌山でも、うれしい再会があった。野球部部長として報道陣への対応を行っていた古宮克人さん(28)だ。2006年の夏の甲子園で同校の主将を務め、準々決勝では帝京(東東京)と今も語り継がれる大激闘を演じた。立命大卒業後は母校に帰り、現在は部長として後輩の育成にあたっている。

 実は私、高校野球オタクだった学生時代、この古宮さんの大ファンだった。06年に「ハンカチフィーバー」の中行われた兵庫国体では、地元の高校生としてテレビ中継に出演。「応援している選手」を聞かれ、田中マーくんでも斎藤佑ちゃんでもなく、古宮さんの名前を即答したほどだった。

 思いをつづったファンレターへの返事は当時はこなかったが、その数年後新聞社に入社する直前にひょんなことから古宮さんと電話で話す機会があった。そして「お互いに頑張ろう」と丁寧に書かれた手紙をいただいた。それから6年、智弁和歌山の取材に行くたびに古宮さんは、甲子園に出ていた頃と変わらない爽やかな表情で迎えてくれる。

 古宮さんの野球や母校に対する思いはとにかく熱い。立命大でも主将を務めたが、思うように結果が残せなかったこともあって「自分を必要としてくれている場所で恩返しのために頑張りたい」と母校に帰り指導者になる道を選んだ。「目配り、気配りのできる方。人間としての次元が違う」と尊敬する名将・高嶋仁監督(71)をサポートしながら、現在は野手担当のコーチとしてグラウンドに立っている。

 06年夏の甲子園で4強になって以降、チームは甲子園に出ても苦戦をしいられてきた。とにかく数をこなす練習や、いわゆる根性論で力をつけてきた古宮さんだったが、今の時代はそれでは強くならないと感じたという。そんな思いで約2年前から「指導者がいなくても目標に向かって引っ張っていける存在を育成したい。だから何をするにも選手が当事者じゃないとダメだと思っています。メニューにしても選手たちと会話をしてプランニングして、重要なことほど選手を巻き込むようにしています」と、より生徒に目線を合わせた指導を行うようになった。

 高嶋監督や昨年4月から加わった中谷コーチとも力を合わせ、自身の経験を伝えることはもちろん、なぜこの練習をするのか目的意識をはっきりと持たせることを徹底した。「思い切ってできるのも高嶋先生がいてくださるからです。『やってよやってよ』といった感じで任せてくださる心の広さがあります」と感謝を口にする。

 こうした意識改革もあって、チームは再び上昇気流に乗ろうとしている。昨夏の甲子園で6年ぶりの聖地1勝を手にすると、秋の近畿大会でも準優勝。今春のセンバツでは優勝候補にも挙げられている。「数と質の両方を大事にして、僕らの頃とは違うやり方で、高嶋先生の目指すチームづくりのお手伝いをさせてもらっています」。甲子園優勝経験もある強豪校が“今どき”のやり方にかじを切ったことで、ここ数年かみ合っていなかった歯車が再び動き出すようになった。今年の甲子園では真っ赤な旋風が吹き荒れそうな予感が漂う。

 古宮さんは高校時代、同級生で今はヤンキースで活躍する田中将大や、ドジャースの前田健太、日本ハムの斎藤佑樹らと全国一の座を争った。指導者と選手、異なる立場に置かれた今、彼らの姿がどういう風に映っているのだろうか。「すごいとは思いますが、対等な立場で活躍を見させてもらっています。人を育てる、みんなもいずれその立場になるであろう場所で僕は先にやっているという感じです。土俵は違えど、頑張っている彼らの姿を見ていつも力をもらっています」。その言葉には1人の指導者としての、野球に対する熱い思いが込められているようにも感じた。

 前述の帝京戦で劇的勝利を収めた後、準決勝では田中率いる駒大苫小牧と対戦した。その年、打倒田中のみを見つめて戦ってきたチームだったが4―7で敗戦。自身が果たせなかった夢を次は後輩に託す。「自分たちがかなえられなかった全国制覇をすることで、学校に恩返しがしたいです。今はその夢を生徒たちと一緒にかなえるって感じです。何回でも全国制覇をできるチームをつくりたい」。1通の手紙が結んでくれた縁に感謝しながら、センバツでは古宮さんの教え子たちが、生き生きとプレーする姿を見られるのを心待ちにしている。(記者コラム・筒井 琴美)

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