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2分16秒の選手宣誓に込めた思い…12年センバツ石巻工・阿部主将の今 

2018年3月5日16時0分  スポーツ報知
  • 選手宣誓する石巻工・阿部翔人主将

 第100回の記念大会を迎える今夏の甲子園へ向けて、スポーツ報知では1月から夏までの大型企画「甲子園 あの時」を連載している。6日付から掲載するのは、2012年センバツに、21世紀枠で初の甲子園出場を果たした宮城・石巻工だ。

 私が震災後、初めて石巻を訪れたのが、11年4月30日。仙台から石巻へのJRが不通となり、高速バスで約1時間半。海に面する石巻市内は、甚大な被害を受けていた。家などの建物は壊れたままで、津波の跡も残っていた。終点のJR石巻駅へ近付いた時、車窓から野球をしている学校が見えた。それが、石巻工だった。

 震災から1年。21世紀枠とはいえ、甲子園出場は驚いた(秋季宮城大会準Vなので実力も十分あった)。さらに驚いたのは、センバツの組み合わせ抽選会。出場全32校の主将による選手宣誓の抽選で、阿部翔人主将が「選手宣誓」の大役を引き当てた。

 阿部主将は、夏の甲子園同様、選手宣誓は「挙手制」だと思っていたという。被災地代表としての出場。21世紀枠―。周囲の勧めもあり、立候補を予定していたが、全出場校の主将による抽選だと知ったのは、抽選会直前だった。32分の1。しかも、その抽選の最中にもドラマがあった。客席から見守っていた松本嘉次監督(現・仙台工監督)でさえ「実は、先に言われてたんじゃないかって思ってたよ」と笑いながら振り返ったほど。これは「奇跡」というほかないだろう。

 開会式での選手宣誓全文を、改めて紹介したい。

 × × ×

 宣誓。東日本大震災から1年。

 日本は復興の真っ最中です。

 被災をされた方々の中には、苦しくて、心の整理がつかず、今も当時のことや、亡くなられた方を忘れられず、悲しみに暮れている方が、たくさんいます。

 人は誰でも、答えのない悲しみを受け入れることは、苦しくてつらいことです。

 しかし、日本がひとつになり、その苦難を乗り越えることができれば、その先に、必ず、大きな幸せが待っていると信じています。

 だからこそ、日本中に届けます。感の動、勇気、そして笑顔を。

 見せましょう。日本の底力、絆を。

 われわれ高校球児ができること。それは全力で戦い抜き、最後まで諦めないことです。

 今、野球ができることに感謝し、全身全霊で正々堂々とプレーすることを誓います。

 × × ×

 2分16秒のロングスピーチ。私は今回の取材で、この宣誓文が、どのように、どんな思いで作られたのかを知りたかった。被災地だけではなく、日本中に感動を与えた言葉たち。松本監督は「全部入ってたなー、と思って。みんなに書かせたから、全部の内容が入ったのかなと。色んな言葉、思いがあったからな」。宣誓文は、チーム全員の思いの結晶だった。

 12年3月27日付のスポーツ報知大阪版では、週刊コラム「これでいいんかい?!」を執筆していた辛坊治郎氏が、政治家のスピーチと比較して絶賛していた。

 「(中略)政治家だってそうです。国会『討論』や『演説』のはずなのに、一方的にペーパーを読むだけ。名演説で聴衆を魅了する欧米の政治家に比べて何とも情けない話ですが、民族のDNAならしょうがないかと諦めかけていたんです。

 ところが、そんな認識が間違いだと教えてくれる素晴らしいスピーチに出合いました。それは、センバツ高校野球開会式での、石巻工の阿部翔人主将の選手宣誓です。自らの被災体験を強調することなく、それでいて強いメッセージを持った言葉が、聴く人すべてに深い共感と感動をもたらしました。

 2分に及ぶ宣誓をメモを見ずに、忘れず、早口にならず、トチらずしゃべりきるのは、我々『プロ』でもそう簡単にできることではありません。彼の宣誓を聞いていて、問題は言語能力でなく、『本当に伝えたいことがあるかどうか』なんだと改めて思い知らされました。そして、日本の政治家がなぜ紙を見ながら演説するのかも分かりました。要するに、彼らには伝えたいことが何もないってことなんでしょうねえ。

 ともかく阿部主将、君の演説には本当に感動です。ありがとう!」。

 2月中旬。石巻市内で、阿部翔人さんに話を聞いた。日体大を卒業した阿部さんは、石巻市内の県立高校で非常勤講師を務めている。「開会式の記憶は、あまりないですね。色んな方の話しとか、記憶ないです。宣誓を自分の頭で復唱して。ゆっくり、落ち着いてしゃべろうと。でも、選手宣誓している時の記憶はあります。前に立っている人の、ちょっと斜め上のスタンドを見ながら。顔を見ちゃうと、言葉が言えなくなっちゃうと思って、目線を外して。自然と次の言葉が、どんどん出てきましたね」。

 インタビューの最後。色紙に、今後の決意を書いてもらった。阿部さんは、石巻の高校野球だけではなく、少年野球も含めた「石巻での野球の活性化」を思い描いていた。「でも、まずは(教員採用試験に)受からないといけないんですけどね」と笑った。彼らは今、石巻の球児たちのヒーローであり、きっと、将来の石巻を担う人材になる。私は、そう信じている。(記者コラム アマチュア野球担当・青柳 明)

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