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「でもさ、なにかドラマが必要だろう」…なぜ栗山監督は村田透を巨人戦に投げさせたのか

2018年6月1日15時0分  スポーツ報知
  • 勝利し声援に応える日本ハム・村田透

 「東京ドームで投げさせることで、普段通りのプレーができるかという不安はありませんでしたか?」

 5月31日。巨人との交流戦3戦目の試合前練習。記者は日本ハム・栗山英樹監督(57)に質問をぶつけた。その日の先発が、村田透投手(33)だったからだ。村田は2007年の大学・社会人ドラフト1巡目で巨人に入団したが、わずか3年で戦力外通告を受けた。その後、米球界挑戦などを経て16年オフに日本ハム入りした苦労人だ。古巣相手に、満員の東京Dでのマウンド―。気負うなという方が難しく思われる起用の意図が知りたかった。

 村田は昨年6月11日の巨人戦(札幌D)でプロ初勝利を挙げていた。もちろん先発ローテーションの兼ね合いや、相性などを考慮した上で先発を託されているのは間違いない。だが記者の目をジッと見つめて質問を聞いた指揮官の答えは、なんとも栗山監督らしいものだった。

 「巨人戦以外の試合に(登板を)持っていってあげた方が冷静に投げられるのかな、とかも考えるよ。でもさ、なにかドラマが必要だろう。やっている方も感動したら、なにかモノが変わるから。人間、感動しないとなにも変わらないよ。そこ(巨人戦での登板)を外すことよりも、村田を信じて前に進んであげることしかしてあげられないから。『村田、感動するぞ、一緒に』って。それだけだよ」

 右腕は、巨人のドラ1として期待を受けながら、順風満帆とはいかないプロ生活のスタートを切った。巨人退団後はプレーする場所を求めて米国へ渡り、オフシーズンにはお金を稼ぐために毎年ウィンターリーグにも参戦したという。さまざまな困難を自らの投球で乗り越えてきたからこそ、村田は現在の場所にいる。

 栗山監督はこうも言った。「(村田に)巨人戦をここで勝たせてあげたいというのはどこかである。ドラフト1位で入って、いろいろな苦労をしてアメリカにもいってチャンスを得た。その苦労はこっちも分かっているつもり。こういうところで勝たせてあげたいなと思う。いろいろなドラマがプロ野球にはある。ドラマが生まれてくれると信じている」。今回の起用は指揮官から村田への「過去を乗り越えろ」というエールにも感じられた。

 指揮官の期待に応えた村田は、持ち味の球を動かす投球で巨人打線を7回途中4安打2失点に封じ、17年ドラフト1位・鍬原との投げ合いを制して3勝目を挙げた。初めて東京Dでのお立ち台に立ち、左翼スタンドからの「村田コール」には両手を上げて応えた。「数年前では考えられないことだったのでうれしいです」と控えめに喜ぶ姿が印象的だった。

 話は冒頭の場面に戻る。約10分間の囲み取材の中で、指揮官が一番うれしそうな表情を見せた瞬間があった。「俺は勝手に想像をしていて、たぶん今日勝ったら、村田は夜に良かったなって思ってくれるかなって。ただそれだけだよ」。まるで誰かにプレゼントを渡す直前に、相手の反応を想像するかのような優しい表情だった。

 新たなドラマが生まれたその夜、村田はどんな時間を過ごしたのだろう。それは改めて本人に聞いてみたい。きっと栗山監督が思い描いたような、すばらしい勝利の美酒に酔いしれたに違いない。(記者コラム・小島 和之)

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