3年生の最大活用こそ新チーム強化への近道 流しのブルペンキャッチャーが特別寄稿

2018年9月11日14時0分  スポーツ報知
  • シート打撃の走者の順番待ち中、談笑する大阪桐蔭・藤原(左から2人目)、根尾(右から3人目)

 季節は巡り、もう秋。夏の公式戦の敗退から1、2年生による新チームが発足したものの、地に足がつかない戦いが続いている野球部も多いことでしょう。「流しのブルペンキャッチャー」の愛称でおなじみスポーツライターの安倍昌彦氏(63)は、引退した3年生が持っている「お宝」をチームに生かすことこそ、強化への近道である―とスポーツ報知に特別寄稿してくれました。

 夏の甲子園が終わって半月。まだたったの半月なのに、もうずっと前の出来事のようで、あの喧騒(けんそう)と熱気と歓声がひどくなつかしい。

 ある意味、あの3週間は「狂気の季節」だったように思う。

 今は、夏の終わりの“海”のようにひっそりとした感じの「高校野球」だが、実は既にしてもう、2年生、1年生で編成する秋の新チームが始動している。

 高校球児を経験した者なら、きっと実感したことがあるだろうが、この時期の秋の新チームは、なんともヘタッピー(失礼!)である。私だって、そうだった。すごく、ヘタッピーだった。

 計画的に“後がま”を準備できる強豪校はドーンと構えたものだろうが、高校球界のほとんどを占める「普通の高校」の新チームのスタートは、ほぼ間違いなく「絶望と混迷」のスタートだ。

 こいつらで、どうチームを作れというのか。

 できないことばかりの選手たちで、とりあえず練習試合を始めるが、その“結果”に絶望と混迷はさらに度を増すばかりであろう。

 そんな「ピンチ」を救うのは誰か?

 おれたちがなんとか!なんて、監督さんやコーチの方たちが思い詰めちゃいけない。ここで出番なのが、あの「3年生」たちなのだ。

 ちょっと前までチームの中枢としてプレーしていた3年生たち。

 現役の頃は、「アホ!」だの「へたくそ!」だの罵声を浴びせていた彼らだが、新チームの今となっては、なんとうまい選手たちだったのか…。指導者たちは、きっとなつかしく振り返ることだろう。

 実際、「3年夏」の彼らは素晴らしくうまい。鍛えに鍛えた屈強な体躯(たいく)に、磨きに磨き抜いたワザ。そこに、最後の一瞬に懸ける熱い思いの裏打ちがあれば、中には「芸」の域にまで届かんとする者すらいるほどだから驚く。

 そんな素晴らしいお手本がすぐそこにいるのだから、そのワザを、その芸を受け継がなくてどうする。今こそ、そんな「3年生」の出番なのだ。

 彼らは、間違いなく持っている。それぞれが、ひそかに身の内に用意した“引き出し”の中に、まだ誰にも打ち明けていないあの時の経験談を、ある日なにかのきっかけで「あっ!」と気づいた秘密の“コツ”を、ソッとしまって、さあどうしようか…と、実は内心、出番を待っている。

 しかし彼らは、ある意味、難しい盛りだ。ついこないだまで、アホだ、ヘタクソだのと罵(ののし)られていたグラウンドに、自分から「ボランティア」みたいに出向くほどお人よしじゃねーや…みたいな若者らしいレジスタンス(抵抗感)もあれば、せっかくあんなに苦労して身につけた「必殺技」をそう簡単に教えてたまるか…みたいなもったいない感もあって、そうは素直にグラウンドにはやって来ない。

 そこで、今度は監督さんの出番。

 お前ら、頼む! 力を貸してくれ!

 頭を下げる。これ、意外とシャクじゃない。こいつらも、オレに頭を下げさせるようになったのか…と、ちょっとうれしい気持ちも心の中をウロチョロするから、ウソだと思ったら、いっぺんやってみればよい。

 そんなことで、果たして3年生が出てくるのか。これが、出てくる。間違いなく、出てくる。

 地方大会を終えて、海へ山へ街へ繰り出し、8月いっぱい目いっぱい遊び尽くして、そろそろ遊びに飽きてくるのが9月の今頃。

 放課後のグラウンドから新チームの練習のざわめきが聞こえてくれば、なんとはなしに心がそっちを向く頃だ。

 もともとが、嫌いな方じゃない。

 謙二は、山田と須藤にフィールディング、教えてやってくれ。塾のない日でいいから。おー、じゃあ、水、木、金で頼むわ、な。

 翔太、お前、ピッチャー頼むわ。金子がお前のスライダー覚えたら、5回、6回まで試合作れるピッチャーになると思うんだわ。

 そこまで見込まれればそんなら9回まで放れるピッチャーにしてみましょうか…と腕をまくるのが「おにいちゃん」というものじゃないのか、なあ3年生、そうだろう?

 肝心なのは、お膳立てだ。3年生をみんな集めて、お前ら、後輩がかわいかったら、たまには練習手伝え…。

 こういうあいまいなのは、ダメだ。彼らはすでに引退した“OB”の感覚になっており、グラウンドでは「アウェー」なのを知っている。“当番制”にして、教えるターゲットを明確にしてあげること。これで彼らが出やすくなる。

 グラウンドに引っ張り出したら、こっちのものだ。

 初めはおずおずとぎこちない新米指導者かもしれないが、まあ見てごらん、そのうち、もう手取り足取り。うるさいぐらいに後輩たちをかまっているから。

 春夏連覇の快挙を成し遂げた大阪桐蔭の大型二塁手・山田健太君が、こんなことを言っていた。

 「サードしかやったことのなかった僕が、曲がりなりにもセカンドがやれるようになったのは、1年上のセカンド・坂之下(晴人)さんのおかげなんです。坂之下さんが秋の間に、ほんとにつきっきりで一からセカンドのフィールディングを教えてくれたんです」

 仮に、監督さんの名前が「西谷」だとして、「チーム西谷」とは、監督さんがすべてを支配、指導し、けん引する組織だとは考えないほうがよい。

 むしろ、監督さんのもとに集う本気の若者集団。

 そんなふうに定義して運用していけば、野球部にはいろいろな胸躍るような展開が見えてくるのではないか。

 チームワークに“境界”はない。

  • 「流しのブルペンキャッチャー」として、10年間にわたり好投手のボールを受けてきたスポーツライターの安倍昌彦氏

    「流しのブルペンキャッチャー」として、10年間にわたり好投手のボールを受けてきたスポーツライターの安倍昌彦氏

 ◆安倍 昌彦(あべ・まさひこ)1955年4月24日、仙台市生まれ。63歳。早大学院を経て早大2年まで捕手一筋。同3、4年時には早大学院で監督。卒業後、会社員をしながら2000年から雑誌「野球小僧」でコラム「流しのブルペンキャッチャー」を連載。東海大・菅野智之、花巻東・大谷翔平ら約230人のボールを実際に受け、独特の筆致で描く文章が話題に。雑誌「野球人」責任編集。

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