東大アメフト部・森清之HC「成功体験にしばられねじ曲がってしまう」桑田真澄氏と語る、負の遺産からの脱却〈2〉

スポーツ報知
東大アメフト部・森清之ヘッドコーチ(右)と対談した桑田真澄氏

 第100回を迎えた夏の高校野球の記念企画としてお届けする、PL学園時代に戦後甲子園最多の20勝を挙げた桑田真澄氏(50)=スポーツ報知評論家=と東大アメリカンフットボール部ヘッドコーチの森清之氏(53)のスペシャル対談。第2回は日大アメフト部の「反則タックル問題」でも浮き彫りになった、日本の学生スポーツが抱える“負の遺産”から、いかに脱却すべきか―がテーマだ。それぞれの立場から持論を展開した。(取材・構成=星野和明、加藤弘士、久保阿礼)

 長い歴史と伝統は高校野球の魅力の一つであると同時に、近年では現代社会の常識とかけ離れた古い体質も問題視されている。一方、同じ米国発祥のアメフトは、最先端のスポーツというイメージが強いが、日大アメフト部の「反則タックル」問題は、日本の学生スポーツが抱える古い体質を浮き彫りにした。

 桑田「アメフトは合理的で科学的な指導方法が進んでいると聞いていたので、今回の問題にはびっくりしました」

 森「アメフトの場合は、やはり米国から学ぼうというカルチャーがあるので、ほとんどのチームは合理的にやっていると思います。日大はかなり特殊、例外的だと。ただ、日本のスポーツというのはやっぱり『巨人の星』や東京五輪の女子バレーのように、昭和のスポ根もの、猛練習で鍛え上げて、というカルチャーがありますよね」

 桑田「1872年に日本へとベースボールが伝わって、最初は野球好きの大学生が余暇としてプレーしていた。ただ、次第に野球に熱中する余り、勉強をおろそかにする学生が出てきて、早くも明治時代から批判があったそうです。今でも、多くの野球選手はグラウンドではボールに食らいつけ、あきらめるなと教わっているのに、教室では授業に食らいつくことなく寝てしまう」

 高校野球で繰り返し問題となる体罰や部内暴力。日大アメフト部の問題も、指導者が選手を追い込む精神的な暴力が引き金だった。根性論や精神論がいまだにはびこる日本の学生スポーツ界。両氏はその根底に指導者や選手の「思考停止」があると指摘する。

 桑田「僕は指導者や先輩から殴られたけど、後輩を殴ったことはないから、今も堂々と体罰反対と言える。殴られてうまくなるなら納得しますよ。でもうまくならない。何でだろうと思いながら殴られてました」

 森「実は殴られなくてもうまくなってたかもしれない。それを疑う、自分の頭で考えるというのが、選手も指導者も必要です。スポーツも頭がよくないとダメ。いい大学だとか偏差値が高いとかではなく、うまくなるために、強くなるためにどうしたらいいか、常に工夫して、考えてやってる人が最後には生き残る」

 桑田「高1の夏、僕は大会前の一日2時間程度に短縮された練習で、実力が一気に伸びた。日本一になった後の新チームも、練習を短くしてくださいとお願いして、その後も甲子園に続けて出場した。量を追い求める練習を続けるよりも、短時間で集中して、次の日も元気で練習することが大事だと気づいたからです」

 森「僕も長くダラダラやっても、いいことはないと思う。ただ、長時間練習した人の中にも成功した人がいる。人間って成功体験に縛られる部分がある。それが自分の体験ならまだしも、知らない人の体験を代々、伝承のような形で続けたり、1人の指導者が昔の成功体験に縛られていたりとか、それでどんどんねじ曲がってしまうんです」

 桑田「あいさつにしても、日本の野球界、スポーツ界には“虚礼”があると思います。少年野球の練習を見に行った時に、僕や父母がグラウンドに来るたびに練習を止めて『チワース!』とあいさつばかりしている。それでは練習が進みません。区切りがついた時に、まとめて『こんにちは』でいいと指導者に伝えました」

 森「みんながそうしてるから、言われたからやるってことですよね。ウチの選手もグラウンドで大声出しても、キャンパスですれ違ったらあいさつしないとか、グラウンドに向かってあいさつするわりには、そこに落ちてるゴミを何でそのままにしてるんだとか。あいさつは非常に大事だけど、それが“虚礼”になっては、スポーツをしている意味がありません」

 選手を守るという視点から論を重ねてきた両氏。対談の締めくくりは、競技人口の減少が危惧される高校野球の未来像がテーマとなる。(つづく)

 ◆桑田 真澄(くわた・ますみ)1968年4月1日、大阪府生まれ。50歳。PL学園では甲子園に全5季出場し、1年夏と3年夏に優勝。85年ドラフト1位で巨人に入団。21年間で通算173勝141敗14セーブ。2007年は米パイレーツ。08年3月末に現役引退。10年に早大大学院スポーツ科学研究科修士課程修了。16年に東大大学院総合文化研究科修了。現在も同科特認研究員を務める。

 ◆森 清之(もり・きよゆき)1964年10月30日、名古屋市生まれ。53歳。京大アメフト部では85、86年度にライスボウル連覇。卒業後は京大守備コーディネーター、NFLヨーロッパなどのコーチを歴任。2001年から鹿島ディアーズ(現リクシル・ディアーズ)のヘッドコーチ。11年、15年には世界選手権で代表を率いた。17年から東大ヘッドコーチ。

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