桑田真澄氏「競技人口の最大化より最適化」東大アメフト部・森清之HCと高校野球の将来像語った〈3〉

スポーツ報知
東大アメフト部・森清之ヘッドコーチと対談した桑田真澄さん(右)

 PL学園時代に戦後甲子園最多の20勝を挙げた桑田真澄氏(50)=スポーツ報知評論家=と東大アメリカンフットボール部ヘッドコーチの森清之氏(53)による夏の高校野球100回大会スペシャル対談。最終回は高校野球の未来、次の100年に向け、2人がそれぞれ描く将来像を語り合った。(取材・構成=星野和明、加藤弘士、久保阿礼)

 高野連の調査によると、全国の高校野球部員は4年連続で減少している。こどもの「野球離れ」は、球界全体で取り組むべき緊急課題だが、両氏は独自の視点から、日本の野球界、さらにはスポーツ全体の新たな未来像を提示した。

 桑田「野球はチーム数も競技人口も減っていますが、僕はこれからのキーワードは競技人口を増やす『最大化』ではなくて『最適化』だと思うんです。部員が200人もいて、3年間一度も試合に出ない子がいる。一方で9人そろわない学校もある。どれくらいのチーム数が最適で、チーム内の選手数もどれくらいが最適なのか考えた方がいい。僕は控え選手でも週末には選手全員が試合に出られるのが、最適な選手数・チーム数だと思います。それと同時に、女子野球のチームを増やすべきです。女子野球を発展させれば、彼女たちが母親になった時に、子どもと野球をするでしょう。彼女たちならキャッチボールの相手もできます。弁当、ユニホームの洗濯や試合の応援まで、日本の野球は女性に支えられているんですから」

 森「競技人口の減少は、野球に限らずスポーツ全体の話。少子化と人口の減少にすぐストップがかかるわけではない。全体が減っているのだから、自分の所属するチームとか団体というレベルで話をしていてもダメ。できるだけ大きな主語で話し合わないと。野球は長くトップスポーツだったから、既得権益とか悪い意味での伝統もあって大変だと思いますが、10年もすれば大変なことになる」

 桑田「僕は頭の中でいつも『日本の野球界が』という主語で話せるように考えています。これからは日本の野球界がひとつにならないといけません。プロはもっと収益をあげて、利益をアマチュア野球の支援に支出すればいい。甲子園大会の過密日程が問題視されますが、たとえば8月は1か月間、甲子園を高校生のために借り切るというアイデアもあると思います。従来の硬式男子の合間に女子野球、軟式の大会も入れていく。出場校が甲子園に行き来する費用はプロが援助する。みんなが8月には野球に興味を持つようになれば、好循環が生まれます。阪神の日程を心配する人もいますが、京セラドーム大阪があります。プロ野球選手の立場で言えば、暑い8月に甲子園で試合をするのは大変です。ドーム球場を有効活用すれば、『死のロード』じゃなくて『天国のロード』になりますよ」

 森「高校野球はむちゃくちゃ強いコンテンツです。その収益を高校野球全体、もし余裕があるなら他のスポーツを盛り上げるために使っていただけるようになればと思います」

 歴史に残る100回大会が始まる。最後に両氏から、新たな100年に向かう高校野球へのメッセージを語ってもらった。

 桑田「いろいろな問題がありながらも、なぜ高校野球が盛り上がるのか。それは真夏の炎天下で、球児がひたむきにボールを追う姿に感動するからです。球数を制限したら人気がなくなるとか、感動がなくなるなんてあり得ない。早くルールを作ってください」

 森「これだけ歴史があって、時代が変わっても、やっぱりみんなが見てしまうのが高校野球。フィールドで何の見返りも考えず、目の前の試合に集中して戦うスポーツの素晴らしさを忘れずに、悔いのない高校生活を送ってほしいですね」(おわり)

 ◆桑田 真澄(くわた・ますみ)1968年4月1日、大阪府生まれ。50歳。PL学園では甲子園に全5季出場し、1年夏と3年夏に優勝。85年ドラフト1位で巨人に入団。21年間で通算173勝141敗14セーブ。2007年は米パイレーツ。08年3月末に現役引退。10年に早大大学院スポーツ科学研究科修士課程修了。16年に東大大学院総合文化研究科修了。現在も同科特認研究員を務める。

 ◆森 清之(もり・きよゆき)1964年10月30日、名古屋市生まれ。53歳。京大アメフト部では85、86年度にライスボウル連覇。卒業後は京大守備コーディネーター、NFLヨーロッパなどのコーチを歴任。2001年から鹿島ディアーズ(現リクシル・ディアーズ)のヘッドコーチ。11年、15年には世界選手権で代表を率いた。17年から東大ヘッドコーチ。

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