高校野球、次の100回への「道」原辰徳さんからの提言

スポーツ報知
今夏の南北神奈川大会で開幕の始球式に登場した原辰徳氏

 第100回全国高校野球選手権記念大会が5日から17日間の日程で甲子園球場で行われます。夏は3年連続、春は2年時に甲子園に出場した東海大相模OBで前巨人監督の原辰徳さん(60)が、未来の高校野球へ大提言。球数制限、ベンチ入りメンバーの増員、DH制など、独自の視点で改革を提案しました。

 全国で熱い戦いが繰り広げられた。今年は100回の記念大会となり、過去最高の56校が出場する。高校野球は今もなお愛され、節目を迎え、夏としては地方大会から初めてタイブレーク(13回以降の攻撃を無死一、二塁で開始)が採用された。

 「非常にいいこと。今年のセンバツから採用したけれど、高野連の素晴らしい決断だと思う。タイブレークというルール自体がどう、というのではない。高校野球は球児たちの腕試しの場だというのと同時に、選手たちが途上の少年だというのを忘れてはいけない。成長途中の彼らを守るためのルール作りは大切だと思う」

 基本的には15歳から18歳までの成長期の少年たちが、戦う。負けたら終わりの夏は、数々のドラマが生まれると同時に故障に悩まされる選手も少なくはない。

 「強ければ強いチームほど、苦しいもの。負けちゃいけない症候群、勝たなきゃいけない症候群とでもいうのかな。とても苦しんでいる。私も東海大相模時代は勝たなきゃいけない、という思いはあった。苦しい中でのスポーツだった。今でもそういうイメージはあると思う。だから、タイブレークだけでなく、もっと考えなくちゃいけないものもある。投手の球数制限もそう。3日間で1000球以上投げた選手をたたえるし、それ自体はすごいことだけど、それで過去、何人の選手が壊れてきたか。伸びた選手もいるだろうけど、壊れた選手の方が多い。そういう部分で、守れるのはルールだけ。将来ある選手をどう守るかを真剣に議論する時期に来ている」

 夏の大会は、高校球児の最高の腕試しの場である。それと同時に、高校生という多感な時期に行うスポーツとして、また別の意味を持つものだ。

 「高校野球は勝つだけが目的ではなく、教育の場でもある。高野連でもいろいろな方策をとっているが、今後の高校野球をよりよくするために、検討してもらいたいものがある。レギュラーを増やすのは教育として大事なこと。だから、指名打者制度を取り入れてもいいと思う。レギュラーは9人より10人の方がいい。守備はうまくないけど、打撃には自信があるんだ、という選手だっているはず。それが中学生だったら、よし、高校でも野球をやってみようというきっかけになる。そういう選手がDHで試合に出続け、練習することで守備もうまくなって、素晴らしい選手になるかもしれない」

 強豪校は部員数が100人近くにもなる。同じ練習をしたとしても、現状、レギュラーは9人で、ベンチに入れる人数は地方大会で20人。甲子園でも18人。他の選手は裏方に回り、ベンチ入り選手をサポートしながら、試合が始まればスタンドで応援する。

 「DHを採用して、交代選手の人数が少なくなる、というならベンチ入り人数を増やせばいい。我々の時は14人だった。レギュラーと同じで、試合に出られる人数は多ければ多いほどいい。選手を守る、選手への教育という部分では非常に大切なことで、ルールを変えれば今すぐにでもできる。ウチのチームは投手の打撃がいいからというチームは、DHを使わずに投手を打席に立たせればいい。それはそのチームの戦略であり、選択になる。ただ、大枠のルールとしてDHを使う、というルールは何も悪いことではない。途上の選手たちの可能性を広げ、1人でも多くの子供たちに喜びを与えられるというのが最大の教育になると思う」

 自身は1974年から76年まで、3年連続で甲子園に出場し、ブームを起こした。東海大に進み、巨人の4番を守り、監督としても2度のリーグ3連覇など功績を残してきた。だが、その礎となったのは高校野球だ。

 「あの3年間は人生の縮図のごとくいろいろ詰まっている。それくらい、その後の人生を生きていく上で大いに役に立つ。そういう材料がたくさんある。技術面で言えば、1年生の夏の大会が終わってから、新チームになって2年生になって、新たな夏を迎えるころには遠くに飛ばすということが自分の野球のページに加わった。それまではヒットの延長がホームランという感じだった。そういう点ではホームランを打つ、というのが自分の中で大きなエネルギーになっていた。遠くに飛ばすというのが、野球人としての大きな目標であり、魅力であったと感じた時期だった」

 スラッガー・原辰徳を生んだのも高校野球だった。ただ、チャンスをつかむためには、自ら考え、決断することが重要だと語る。

 「私は自分の意思で野球を始めた。父(原貢=当時の東海大相模監督)は、野球をやりなさい、と一言も言わなかった。相模に来なさいとも、一生懸命練習しなさいとも言わなかった。だから僕は辞めることも自分でできると思っていた。それが僕の宝物ではあったし、自分の意思で始めたものだから、誰にも相談しなくても辞められると思っていた。今の子供たちにも言いたい。いろいろリサーチしたり、さまざまな方々に相談するのももちろんいいけど、最終的には自分の意志力で道を切り開いてほしい。自分への弱気な逃げ道がなくなるから。あの人に言われたから、とか他人のせいにしなくなるから。ただ、自分で決めたことだから、しっかり考えて自分で辞めるという道も生まれてくる。高校野球はあらゆる意味で人間形成。そういうチャンスがいっぱい転がっている。それをどう、自分のもとに積み上げるかだと思う」

 色紙にサインするときは「道」という字を加えている。それは自分で決めた道を突き進むということにもつながってくる。

 「道には多くの意味がある。過去、現在、未来もそう。道を選択するということは意志力にもつながる。自分の意思で決めた目的を持てる人はこの上ない幸せ。だから自分でどこまでが限界なのか、挑戦してほしい。辞めることは決して悪いことではない。道を改めることは悪いことではない。ただ、本当に辞めていいのかという環境に身を置き、決めるのが大事だと思う」

 子供たちが「道」を選択する時、ルールも大きな要素になる。未来の高校野球、そして野球界を背負う高校球児や中学生、小学生が、安心して「甲子園で優勝する」という選択ができる環境づくりが、次の100回には必要だ。(取材・構成=高田 健介)

野球

×