胸を張れ！個性豊かな金足農ナイン　豚の飼育、ジャム作り、セミとともに快走…　　

◆第１００回全国高校野球選手権記念大会最終日　▽決勝　大阪桐蔭１３―２金足農（２１日・甲子園）

　胸を張れ、カナノウ！　決勝で金足農（秋田）は大阪桐蔭（北大阪）に２―１３で敗れ、悲願の東北勢初優勝は１２度目の挑戦でも果たせなかった。金足農はエース右腕・吉田輝星（３年）が相手の強力打線につかまり、５回１２安打１２失点で無念の降板。大差を付けられたが、犠打や全力疾走などで大阪桐蔭から２点を奪うなど最後まで“雑草軍団”の力を見せ、４万５０００人の大観衆から大きな拍手を浴びた。

　ブラスバンドの音に合わせ、甲子園の全体から大きな手拍子が起こった。９回２死。金足農の７番・菊地彪吾（ひゅうご）右翼手（３年）は力を込めてバットを振った。だが、白球は伸びず相手右翼のグラブに。東北悲願の全国制覇はまたも夢散した。涙を流しながら整列したナインは、春夏連覇した大阪桐蔭の選手から「ありがとう」と声をかけられ、抱き合い健闘をたたえた。主将の佐々木大夢（ひろむ）左翼手（３年）は「日本一に届かなかったが自分たちの力は出し切れた」と涙をぬぐった。

　“雑草ナイン”は、聖地でその強さを増した。横浜（南神奈川）や日大三（西東京）など、強豪私立を次々と下して大旋風を巻き起こし、秋田県勢１０３年ぶりの決勝進出は社会現象にもなった。その中でも犠打を多用し、内野ゴロでも全力疾走する金足農伝統の野球を貫いた。０―３の３回１死三塁から右犠飛で１点を取り返した佐々木夢は「強い相手にも自分たちの野球ができた」と胸を張った。

　快進撃の裏には“靴辱”のトレーニングで磨いた精神力があった。昨夏は県決勝で、明桜に１―５と敗れ甲子園を逃した。昨秋の県大会は準々決勝で角館に逆転負け。中泉一豊監督（４５）は、勝ちきれないチームを変えるため、今年１月に行った１週間の校内合宿の中で、現３年生だけに長靴を履かせ雪上を２０分ほど走らせた。指揮官は厳しい練習をあえて後輩の見守る前で行うことで、現メンバーを精神的に追い込み困難に立ち向かう気持ちを植えつけた。大友朝陽中堅手（３年）は「この練習が一番きつくてイライラした。でも絶対にレギュラーは譲りたくないという気持ちが生まれた」と反骨心が芽生えた瞬間を明かす。エース・吉田の投球に注目が集まる中、今春からメンバーが固定された９人は「全員で勝ち抜く」という気持ちで結束。３回戦の横浜戦以降は１点差で競り勝つ強さで、決勝に残った。

　閉会式で準優勝盾を渡された佐々木夢は「みんなで取った重みを感じた。自分は病気（バセドウ病）で辞めそうになったこともあったけど、厳しい練習を乗り越えて良かった」と胸を張った。１００回記念大会。“雑草ナイン”のがむしゃらさは歴史の１ページに確かに刻まれた。（遠藤　洋之）

　★金足農ナインの声

　「１番・二塁」菅原天空（たく）（環境土木科３年、名前の由来はジブリ映画の『天空の城ラピュタ』）「９人で戦ってきた。大阪桐蔭はこのチームで負けるなら仕方がないと思えた」

　「２番・左翼」佐々木大夢（環境土木科３年、バセドウ病で一時はマネジャーを経験。昨秋から復帰、主将に）「吉田がいて、吉田を助けようとする仲間がいた。応援されるチームになれて最高だった」

　「３番・投手」吉田輝星（こうせい＝環境土木科３年、１５０キロ右腕は「３代目Ｊ　Ｓｏｕｌ　Ｂｒｏｔｈｅｒｓ」のファン）「甲子園は自分を成長させてくれた。（優勝できなかったことは）これからの野球人生で取り戻していきたい」

　「４番・三塁」打川和輝（食品流通科３年、チーム不動の４番。決勝では吉田に続き登板、３回１失点）「目指していた場所で投げる事ができ最高だった。吉田から『任せた』と言われ、応えたかった」

　「５番・中堅」大友朝陽（環境土木科３年、チームのムードメーカー。決勝でも仲良しの吉田と「シャキーン」のポーズ）「俺は甲子園（の決勝）に来たんだぞと胸を張って帰りたい」

　「６番・一塁」高橋佑輔（生物資源科３年、今大会中に９匹の子豚が生まれチームメートの名前を付けることを宣言）「憧れの相手と試合ができて光栄。充実した時間だった」

　「７番・右翼」菊地彪吾（ひゅうご＝造園緑地科３年、２回戦はセミを背中につけて適時三塁打、準々決勝では２点サヨナラスクイズで生還）「お金で買えない経験ができた」

　「８番・捕手」菊地亮太（環境土木科３年、チームの中で学力ＮＯ１。２年時には国家資格の測量士補を取得し、公務員を目指す）「吉田の球を受け続けられて幸せだった」

　「９番・遊撃」斎藤璃玖（食品流通科３年、学校では食品加工でジャムなどを作り販売。危険物取扱丙種の資格も持つ）「声援の力は大きかった。本当に１球で流れが変わると思った」