坂本勇人「ジャイアンツの皆さんって優しいですか?」…元担当記者が語る運命のドラフト思い出のシーン

スポーツ報知
巨人に1巡目指名された光星学院・坂本勇人がジャンプして喜びを表す

 いよいよ運命のドラフト会議が近づいてきました。当日、指名された選手の会見場では喜びや戸惑い、そして涙とさまざまな人間模様が渦巻きます。今週の「週刊報知高校野球」ではスポーツ報知の記者3人が、心に残るドラフト会見のシーンについて「見た」でつづりました。

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 プリンスに青春をささげるのだ、と決めていた。9月25日、高校生ドラフト。当時26歳の巨人野手担当記者だった私は、愛工大名電の会見場で指名を待つ堂上直倫を見つめていた。

 3度出場した甲子園での通算打率は4割8分。センバツVにも導いた大型内野手で高校通算55本塁打のスラッガー。端正なマスクが放つオーラは、死にたいくらいに憧れた華の男・原辰徳の再来を予感させた。「尾張の若大将」。ニックネームも勝手に考えた。

 予想通りに巨人、阪神、中日で競合。まず巨人・原監督が「いちばん上のクジを引いたけど…」白紙。続いて阪神・岡田監督が「重なっていた2枚の上を引いたんやけど…」白紙。中日が残り福を得た。

 堂上の父・照さんは元中日投手で当時寮長。兄・剛裕は当時中日内野手。血縁にはかなわんなあ、始まる前に青春が終わってもーた…と落胆していたら、巨人は外れ1位に光星学院の坂本勇人なる内野手を指名した。現場で聞こえた「坂本って誰だよ!?」という声は後年、軽率なことは言っちゃダメという人生訓になった。

 翌日、青森へ飛んだ。坂本の指名あいさつ取材を終えると、もう1泊してインタビューに臨んだ。まだ9月末なのに異様に冷え込んだ午後。職員室のストーブを囲み、17歳と語らった。「ジャイアンツの皆さんって優しいですか? 自分、ちゃんと会話していただけるか不安で…」。子猫のような声でつぶやいた遊撃手は、別れ際の玄関でタクシーが見えなくなるまで頭を下げてくれた。

 あれから12年。坂本は史上最年少での2000安打も視野に入れる大打者になった。堂上は期待された大砲にはなっていないけれど、生存するための猛特訓で得た守備力でユーティリティープレーヤーとしての居場所を得ている。フィールドに立つ彼の姿を見る度、心の奥側から「頑張れ」という声が出てしまう。あの日、運命を共有した者として。(文化社会部・北野 新太=06、07年巨人担当)

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