【広島】新井独占手記(完全版)「まだまだファンにもカープにも恩返し」

スポーツ報知
新井(右)3連覇決定後の祝勝会でバティスタからビールをかけられる

 不思議な感覚だ。球団史上初のV3の輪に、現役ラストシーズンの自分がいる。

 小さいころは父親と走って市民球場に通った。小学2年生だった1984年の日本シリーズは授業中に先生がこっそりテレビを見せてくれた。熱狂的なカープファンのもう1人の自分が、スタンドで声を枯らしている気がする。

 こんな幸せな野球人生はない。チームメート、そしてファンの皆さんに感謝の気持ちでいっぱいだ。

 2年前の優勝は勢いでグワーッと駆け上った感じだけど、去年はそこから落ち着いてきて、今年はさらに成長している。

 みんなゲームの流れが読めるようになってきて、勝負所を分かるようになってきた。ベンチでも「ここでもう1点行くぞ」と自然に声が上がって、本当に連打が出る。逆に耐えて、耐えて流れを持って来る時も、お互いが感じて我慢できるようになったよね。そういう時にキク(菊池)なんかの集中力はすごくて、ビックリするようなファインプレーをする。

 カープに戻ってきた15年、キクも丸も右肩上がりでキャリアを重ねてきた中、少し成績を落とした。チームも4位に終わった。まだ本人たちも若かったし、自分たちがチームを引っ張る自覚、責任感も強くなかったと思う。でも、苦労した人間は必ずタフになる。それが16年の優勝につながった。

 今年はキクも広輔(田中)も打つ方の状態がうまくいかなくて、悔しい思いをしていると思う。でも、守備になったらそれをスパッと切り離してグラウンドに立っている。攻守を分けて考えるのはメンタル的にはとても難しいけど、感情を表に出すことなく、黙々と淡々とプレーしている。あの守備にチームがどれだけ救われているか。

 打てない悔しさからベンチでバットをたたきつけたり、大声で叫んでしまう後輩もいた。そんな姿は4番を任されて結果の出なかった20代の頃の自分と重なった。今振り返ると、周囲に迷惑をかけるほど感情をあらわにして、暴れてしまっても、良かったことは何一つなかった。

 だから、後輩たちには食事に行った際に話を聞いて、コミュニケーションを取ることを心がけた。決して自分の考えだけを押しつけることはしたくない。「最近、どうや!」とまずは話を聞く。そして、自分の経験談、失敗談を語る。本当にみんな素直でいい子たちだし、真っすぐな目で話を聞いてくれた。成長していく姿がうれしかった。

 年齢は若いけど、洗練された大人のチームになってきた。連覇が経験となり、自信につながって、一体感も増している。本当に家族とか兄弟みたい。もちろん兄弟げんか、家族げんかもするけど、最後は固い信頼関係で結ばれている。

 丸はとてもポジティブだし、広輔はコツコツと練習を重ねて、実績を積んできた。タナキクマルの3人の世代が中心となって、家族のようなチームになれたよね。誠也(鈴木)なんて、あの年で4番に座って、本当に堂々としている。

 その個性を陰で支えてくれた縁の下の力持ちが、タナキクマルの一つ年上のアツ(会沢)だった。今年から選手会長になり、グラウンド以外のことも大変だったと思う。責任感が強く、兄貴肌のナイスガイだし、本当にみんな頼りにしていた。

 今のチームのメンバーで、自分がドラフトで入っていたら、レギュラーになれるか。正直、難しいよね。

 外野は3つ(丸、鈴木、野間)埋まっているし、二遊間(菊池、田中)も盤石。一塁はまっちゃん(松山)、外国人もいる。サードだって龍馬(西川)に安部だっているんだから。キャッチャーはアツでしょ。下水流、堂林だっていつでもスタメンで出る準備をしている。

 オレがカープに入った時は主力選手が高齢化して、チームも過渡期だった。だから、1軍に置いてもらったし、起用してもらえたんだと思う。

 今年も色々なポイントがあったけど、自分の中で印象に残っているのはズル(下水流)の巨人戦のサヨナラホームランかな。

 ちょうど西日本豪雨の被害でマツダで試合をするのも、2週間以上空いていた。試合前には募金活動でファンの方々の温かみ、ありがたみも感じていた。7点リードを追いつかれた中で、マシソンから劇的な一発。まだ巨人とも5ゲーム前後だったし、色んなことが折り重なって、印象に残っている試合よね。

 本当に選手層が厚くなって、丸、誠也だけでなく、色んなヒーローが出るようになってきた。でも、ここ数年は後輩の登録抹消が決まって、ロッカーで荷物をまとめている姿を見たら「代われるもんなら代わってあげたいな」と思うようになった。もちろん口には出さないし、特別な声掛けをすることはないけど、「何とか気持ちを切らさず2軍でも頑張って来いよ」と祈っていた。

 でも、自分が今年で引退したら単純に枠が空く。そこを目がけて、若手がガンガン、ガンガン競争する。その方がチーム力が上がっていくし、3~5年後のカープを思ったら、自分はスパッと辞めようと思った。

 最終的な決断に迷いはないけど、息子たちに話をした時は困ったな。「なんで辞めるの? なんで、なんで?」と言われてね。

 「これからのカープのことを考えて…」と言っても、子供にはチーム事情なんて分からないでしょ。でも、ウソもつきたくない。だから「なんでも。なんでもや!」と答えるしかなかった。

 広島に復帰してからは単身だったし、家族と過ごす時間も短かった。「今後はお前たちと一緒に過ごせる時間が増えるから」と言ったし、実際に楽しみよね。

 振り返れば、初めて春季キャンプに参加した99年、江藤さん、カネ(金本)さんのフリー打撃を見て、すげぇと思った。打球の音、速さ、全てが違う。絶対にオレは駄目だと思った。

 最初は一度でいいから1軍に上がりたい、クビになるまでに1本でいいからヒットを打ちたいなと。でも、そこからがむしゃらにね。一生懸命、枯れるまで声出して、とにかく全部、全力でやった。

 自分は下手くそでセンスもないし、取り柄(え)と言えば、体がデカくて、強いというだけ。その原点は今も変わらない。

 正直、体は結構、ボロボロよ。トレーニングしても筋肉痛が2日後になって、3日後にさらに強くなっててという感じになっている。

 でも、もう少しだ。ずっと話しているけど、本当の戦いは10、11月に来ると思っている。

 カープに戻ってきた15年の開幕戦の初打席で、爆発的な大歓声を浴びた感謝は今も忘れていない。あそこで自分の気持ちに一気に火がついた。まだまだファンに対しても、カープに対しても恩返しがしたいと思っている。

 可愛い後輩達とうれし涙で終われるように。最後の最後まで全力で駆け抜けたい。

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